気まずさ
どこの古代文字を扱っているのかと思うほど意味のわからない数学の授業中、私は斜め前の背中に目をやった。
ペッタリと机に密着して居眠りをしている隼人だ。
今朝は幸いにもサッカー部の朝練があったため、顔を合わせずにすんだけれどこうしている事は何の解決にもなっていなかった。
授業が終わりお昼休みになれば、こうしているわけにもいかない。
――憂鬱で、とてもじゃないけど授業なんて頭に入ってこない。なのに時間は恐ろしいほどの早さで過ぎて行く。
溜息を吐いたのと同時にチャイムが鳴った。隼人が身を起こして立ち上がる。
私は隼人と顔を合わせる事に身構えた。
「詩織ちゃん」
私はピクリと身を震わせた。
思わぬ方向から声が聞こえ、慌ててそっちに目をやると、視界に入ってきたのはすずらんちゃんだった。
「な……に?」
後ろめたい気持ちがなかったわけじゃない。
すずらんちゃんの気持ちを知っていながら、私は隼人と付き合うことを選んだのだから。
「話があるの。分かってるよね」
そう言った彼女の表情はこの前校舎裏で見たものだった。
――知ってる。そう感じた。すずらんちゃんは私と隼人が付き合い始めたと知って話し掛けてきてる。
「――うん」
私の返事を聞き終わるか終らないかというところで、すずらんちゃんは長い髪を翻して歩き出していた。
その後ろを付いて行く。その時チラリと隼人に目をやると、不安げに私を見ているのが分かった。
――だ・い・じょ・う・ぶ。
私は口パクでそう伝え、心配させまいと微かに笑ってみせた。




