よくしゃべる隼人、あまりしゃべらない詩織
「あの後」
と、隼人が言った。
「詩織に見られてたって分かってすぐに追おうとしたんだけどさ、九条の奴がなかなか離してくれなくてな」
「うん」
「だからあと追うのが遅くなっちまって、一度は詩織を見失っちまったんだ。それでようやく見つけた時、詩織はあのトンネルの方向に歩いててさ……」
隼人の眉間に深いしわが刻まれる。
「うん」
私が再度促すが、隼人は中々続きを話そうとはしない。
「隼人?」
「実はな――」
隼人は私と目を合わそうとはせず、声も心なしか小さくなった。
「俺見てたんだ、詩織が泣いてるの」
隼人はボソボソと、聞こえるか聞こえないかの声で言った。私は今泣いている訳でもないのに、目元を拭った。
「そう、なんだ」
私の言葉に隼人はコクリとうなずいた。
「その時な、詩織の顔が笑顔から一瞬で驚きに変わってたの思い出して、あぁ俺のせいなんだ、って思った」
隼人はそこで一息つくと、壊れものにでも触るかのような優しい手つきで私の髪を撫でた。
「ごめん」
「ううん、気にしないで。だって誤解だったんでしょ?」
「ホントごめん、そうじゃないんだ。本当だったらさ、泣いてる詩織を見たら、俺も悲しくなるはずなんだ。実際、今まではそうだったし。――なのに、さっきは泣いてる詩織を見て、悪いと思ってる気持ちももちろんあるんだけどな……少しだけ、ホントに少しだけだぜ? 詩織が俺の事で泣いてるのが、嬉しかったんだ」
「え?」
「今まで詩織の事を好きだって言えなかったのは、詩織が俺と同じ気持ちじゃなくて、言ったら、幼馴染っていう――なんて言うのかな、最終ラインの様な最低限の、でも絶対的な――絆までも消えちまいそうな気がしてたからなんだ。でも詩織が泣いてるって事はさ、つまりは、詩織も同じ気持ちだったって事だろ? それがさ、すごく嬉しかったっつーか、安心したっつーか……」
段々と小さくなってい隼人の声。私は嬉しくて、泣きながら笑っていた。




