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【婚約破棄】「冷酷な悪役令嬢」と蔑まれた私ですが、必死に怒鳴る王子を「あらあら」と見守っていたら溺愛が始まりました  作者: もも子


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不器用な父親との緊張した朝食

翌朝。窓から差し込む柔らかい光でカトリーナは目を覚ました。


鳥のさえずりが心地よく響く静かな朝だ。

シルクのシーツからゆっくりと身体を起こし、深く息を吸い込む。


(ふぅ……よく眠れたわねぇ)


前世の記憶が戻った昨日はさすがに気が張っていたけれど、ハーブティーのおかげもあってぐっすり眠ることができたようだ。


ベッドから下りて軽くストレッチをすると、固まっていた肩や腰がじんわりとほぐれていく。


(前世では朝五時に起きて、家族全員のお弁当作りに朝ごはんの準備……毎日が戦場だったけれど。こんな風に静かに朝を迎えられるなんて、なんだか贅沢ね)


そんなことを思っていると部屋の扉が小さくノックされた。


「カトリーナ様、朝のお手伝いに参りました」


入ってきたのは、昨夜ハーブティーを持ってきてくれた若いメイドのミーナだった。

彼女の手には、丁寧にアイロンがかけられた朝の着替えと、温かいお湯が入った洗面器が乗せられている。


「ミーナちゃん、おはよう。朝早くからありがとうね」


「っ……! おはようございます、カトリーナ様!」


名前を覚えてもらっていたことに驚いたのか、ミーナはぱっと顔を輝かせた。

昨日までの緊張や恐怖はすっかり消え、一生懸命にカトリーナの着替えを手伝ってくれる。


「あ、カトリーナ様。本日の朝食なのですが……旦那様が食堂でお待ちでございます」


「お父様が?」


カトリーナは鏡越しにミーナを見た。


公爵家の当主であり、カトリーナの父親であるグランヴェル公爵。

記憶を辿ると、彼は厳格で冷淡な人物で、めったに家族と一緒に食事を摂ることはなかったはずだ。


(婚約破棄の件が、もうお父様の耳に入ったのね)


まあ、当然といえば当然だ。学園の大広間であれだけ派手に大騒ぎしたのだから、夜のうちに報せが届いていてもおかしくはない。


(うちの旦那も、子供が学校でトラブルを起こした時は険しい顔をして座っていたわねぇ……)


前世の苦い記憶をちょっぴり思い出しながら、カトリーナは身支度を整えると落ち着いた足取りで一階の食堂へと向かった。


食堂の大きな扉を開けると、長テーブルの奥に一人の男性が座っていた。


整えられた銀髪に、鋭い眼光。

グランヴェル公爵——カトリーナの父親だ。


テーブルの上には豪華な朝食が並べられているものの、彼の手は付けられておらず固い表情で書類を眺めていた。


カトリーナが入ってくると、公爵はゆっくりと顔を上げた。


「……座りなさい、カトリーナ」


低く、重厚な声。

以前のカトリーナなら、その威圧感に気おされて身を縮めていたかもしれない。


けれど、今のカトリーナは微笑みを絶やすことなく優雅に頭を下げた。


「おはようございます、お父様。お手を止めさせてしまって申し訳ありません」


静かに椅子に腰掛け、ナプキンを膝に乗せる。

そのあまりにも落ち着いた所作に、公爵はわずかに眉をひそめた。


「……昨夜、学園から連絡があった。リュシアン殿下から婚約破棄を突きつけられたそうだな」


公爵の目が、探るようにカトリーナを射抜く。


「お前が泣き叫んで暴れるのではないかと心配していたが……ずいぶんと大人しいではないか。一体、現場で何があったのだ?」


冷ややかな問いかけ。

けれど、カトリーナにはその声の裏に、不器用な「困惑」とほんの少しの「心配」が混ざっているのが見て取れた。


(あらあら……。口下手で威圧的だけど、根っからの悪人というわけじゃなさそうね)


カトリーナはそっとスープスプーンを手に取ると、穏やかな声で答えたのだった。

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