王都への帰還
バーネット領での改革を見事に成功させ、カトリーナとレオンが王都へと戻った日。
グランヴェル公爵家の屋敷の前には、二人を出迎えるために集まった人々で溢れていた。
馬車が到着し、ドアが開くと大きな歓声と拍手が巻き起こる。
「カトリーナ様! お帰りなさいませ!」
「バーネット領のお噂は伺っておりますわ! 私どもの領地の帳簿も、ぜひ一度見ていただきたく……!」
集まっていたのは、カトリーナの講義を受けた生徒たちや、その親である各地の領主たちだった。
かつては「我儘な悪役令嬢」と蔑まれていた彼女が、いまや「国中の領地を救う慈愛と知恵の貴婦人」として、熱烈な尊敬と憧れの対象となっていたのだ。
カトリーナは馬車から降り立つと、いつものように穏やかで気品に満ちた微笑みを浮かべ、集まった人々へ優しく語りかけた。
「皆様、温かいお出迎えをありがとうございます。ですが、あまり無理をなさって体調を崩されては困りますわ。お困りごとのご相談は、また後日、順番に伺いますからね」
その一言に、誰もが温かい気持ちになり教えを守るように一礼して道をあけた。
屋敷に入ると、出迎えた公爵と執事長のバートンが心底誇らしそうな顔で二人を待っていた。
「カトリーナ、よくぞ戻った。バーネット男爵から感謝の親書が届いているぞ。『我が領地はカトリーナ様によって救われました』とな」
「お父様、バートン。ただいま戻りましたわ。無事に役目を果たせてホッとしております」
「ふふ、カトリーナ様。実は……お留守の間にも、各地の有力貴族家から『ぜひ我が家の嫡男とのお見合いを』という求婚状が山のように届いておりましてな」
バートンが銀のお盆に山盛りにされた手紙を示して微笑むと、カトリーナは思わず苦笑いを浮かべた。
「あらあら、まあまあ……。求婚だなんて、私には勿体なさすぎるお話ですわ」
その会話を聞いていたレオンの表情が、ふっと引き締まった。
彼は一歩前へ出ると、公爵とカトリーナの前に立ち深々と頭を下げた。
「公爵閣下……そして、カトリーナ様。恐れながら、申し上げたいことがございます」
「ほう? レオン殿、何かね?」
公爵が問いかけると、レオンはゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、迷いのない強い情熱と決意が宿っている。
「私はこれまで、カトリーナ様の助手として、そのお背中を一番近くで見守らせていただきました。……ですが、溢れる求婚状を目にし、自分の情けなさと焦りを痛感いたしました。……私は、他の方にカトリーナ様をお譲りすることなど、口が裂けてもできません」
「レオン様……?」
カトリーナが驚きに目を丸くする中、レオンは彼女の正面へと歩み寄り、片膝をついてまっすぐに手を取った。
「カトリーナ様。あなたの温かさ、聡明さ、そして人々に注ぐ深い愛に、私は魂ごと救われました。……どうか、これからもずっと助手としてだけでなく、あなたを生涯愛し、支え続けるパートナーとして、お側にいることをお許しいただけないでしょうか」
真摯で、偽りのない求婚の言葉。
かつて冷え切っていた側近の青年がカトリーナの包容力によって救われ、いまや一人の男性として堂々と彼女への愛を告げた瞬間だった——。




