届いた王都からの悲報
カトリーナとレオンがバーネット領に滞在して一ヶ月。
過疎と財政難に喘いでいた山あいの村は、驚くほどの活気を取り戻していた。
「カトリーナ様! 今週発送した『山果実の特製ジャム』、王都の高級商店から追加注文が届きましたよ!」
若きバーネット男爵が、跳びはねるような笑顔で報告に駆け込んできた。
カトリーナの指導のもと、村の女性たちが集会所で手際よく作った加工品は、「素材の旨味が詰まった高級保存食」として王都の貴族たちの間で大評判となっていたのだ。
無駄な輸送コストは削られ、村人たちには正当な対価が支払われ、領地の帳簿は見事な黒字へと転換していた。
「まあ、素晴らしいわね! 村の皆様が丁寧にお仕事をしてくださったおかげですわ」
カトリーナが柔らかく目を細めると、傍らに控えるレオンも満足そうに頷いた。
「ええ。正確な在庫管理と出荷調整の仕組みも定着しました。これで来期以降も、領地経営は安泰でございます」
「カトリーナ先生、レオン様……本当に、なんと御礼を申し上げたらよいか……!」
男爵が感極まって頭を下げる中、応接室の扉が叩かれ、グランヴェル公爵家からの早馬が届いた。
受け取った手紙を開いたレオンが、ふと表情を曇らせる。
「レオン様? お父様から何か?」
「……はい、カトリーナ様。王都での『最終決定』についての報告でございます」
レオンは落ち着いた声で、手紙の内容を読み上げ始めた。
学園での統括権限を奪われ、最後まで己の過ちを認めなかったリュシアン王子。
彼の相次ぐ不祥事と失政に対し、国王陛下と貴族院はついに重い腰を上げ、第一王子の「王位継承権の永久剥奪」と「地方の修道院への幽閉・謹慎」を正式に言い渡したという。
さらに、王子にすがりついて贅沢を貪ろうとしていたマリエラもまた、学園を中退させられ、男爵家ごと王都から追放同然の処分を受けたのだった。
「……身の丈に合わない欲に振り回され、周りの支えを当たり前だと思い込んでしまった結末……ですわね」
手紙を聞き終えたカトリーナは、寂しそうに、けれど深く納得したように息を吐いた。
かつて婚約破棄を突きつけられた時の自分を思い返せば、スカッとする結末かもしれない。
けれど「オカン」としての心を持つカトリーナにとって、自滅していった若者たちの末路は、ただただ哀れで教訓めいたものに感じられた。
「カトリーナ様……大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込んでくるレオンの瞳。
カトリーナはその温かさに触れ、すぐに凛とした笑みを浮かべ直した。
「ええ、大丈夫よ。……過ぎ去ったことに囚われるより、私たちは『今、目の前にいる人たち』を幸せにするために歩んでいきましょうね」
「……はい! どこまでも、あなたと共に参ります」
レオンは固い決意を込め、カトリーナの手を優しく、けれど強く包み込んだ。
二人の新しい未来と絆は秋晴れの美しい空のもとでより確固たるものとなっていった——。




