過疎の村と、オカンの手腕
王立中央学院での講義が評判を呼び、カトリーナとレオンが最初に訪れたのは王都から馬車で二日ほど離れた山あいの小領地・バーネット領だった。
若い領主が最近継いだばかりのこの地は、長年のどんぶり勘定と天候不順が重なり、財政難と深刻な過疎化に悩まされていた。
「カトリーナ先生、レオン様! よくぞお越しくださいました……!」
出迎えた若きバーネット男爵は、今にも泣き出しそうな顔で二人を迎え入れた。
「領内の特産品である山果実の出荷も滞り、村人たちの笑顔も消えてしまって……。どこから手を着ければ良いのやら、恥ずかしながら途方に暮れておりました」
カトリーナは案内された執務室で、提示された過去数年分の帳簿と領地のマップをじっくりと見つめた。
(ふむふむ……。前世の田舎の実家や、近所の農家さんたちの悩みとそっくりねぇ)
カトリーナは優しく微笑むと、隣で素早く資料を整理していたレオンに視線を送った。
「男爵様、大丈夫ですよ。帳簿を拝見する限り、この領地には素晴らしい宝物がたくさん眠っていますわ。……ただ、その生かし方と整理の仕方が、少しだけ上手くいっていなかっただけですの」
「た、宝物……ですか?」
「ええ。まずは、出荷できずに廃棄されている不揃いの山果実。これを生のまま売ろうとするから輸送費で赤字になるのですわ。加工してジャムや保存食に組み替えれば、日持ちもしますし、王都の高級店へ高値で卸すことができますのよ」
カトリーナは前世での「主婦の知恵」と「節約・加工のノウハウ」を応用し、具体的で実現可能な改革案を次々と提示していった。
さらに、村の集会所へ直接足を運び、不安そうにしていた村の女性たちや高齢者たちに温かく声をかけた。
「皆様、いつもお疲れ様ですの。これからは無理な出荷作業ではなく、手すきの時間に集まってジャム作りをしていただきましょうね。きちんとお給金も出ますし、温かいお茶を飲みながら楽しく作業しましょう」
「まあ……カトリーナ様……!」
カトリーナの圧倒的な包容力と親しみやすさに、怯えていた村人たちの表情がみるみる明るくなっていく。
その日の夜。
領主の館のテラスで、レオンは夜風に当たりながら、遠くの村の灯りを眺めていた。
カトリーナがそっと歩み寄ると、レオンは愛おしさと深い敬意が混ざり合った瞳で彼女を見つめた。
「カトリーナ様……。本日も素晴らしい手腕でしたね。村人たちのあの笑顔……カトリーナ様が来られるだけで、その場がパッと温かくなります」
「ふふ、ありがとうレオン先生。でもね、あなたが横で素早く数字の裏付けを出してくれたから、男爵様も安心して決断できたのよ。本当に頼もしいわ」
「っ……!」
カトリーナにまっすぐ見つめられ、感謝を伝えられたレオンの胸が、ドクンと大きく高鳴った。
夜風に揺れる彼女の美しい髪と、どこまでも温かい横顔。
かつて冷え切った王子側近として心をすり減らしていた自分が、今こうして生き生きと誰かの役に立ち、愛する人の隣で笑えている。
(私は……この方を、一生かけてお守りしたい……)
レオンは胸の奥で静かに、けれど固い誓いを立てるのだった。




