幸せな決断と未来へ続く道
ひざまずき、真摯な瞳でカトリーナを見つめるレオン。
応接室に心地よい静寂が満ちる中、横で見守っていた公爵が満足そうにふっと口元を緩めた。
「……レオン殿。お前の真摯な想いと、これまで娘を支えてくれた忠義と愛情は、この私が一番よく知っている。父親としては、これ以上ないほど心強い相手だ。……だが、決めるのはカトリーナ自身だ」
公爵の温かい視線を受け、カトリーナはそっと視線をレオンへと戻した。
前世での人生を終え、この世界で悪役令嬢として目覚めたあの日。
理不尽な婚約破棄に戸惑う暇もなく、ただ「目の前の困っている人たちをほっておけない」一心で突き進んできた。
冷え切っていた公爵家を整え、行き詰まっていた若い令嬢や側近たちに助言を与え、困窮する領地を救ってきた日々。
そのすべての歩みの中で、常に自分を信じ、一番近くで支えてくれたのが目の前のレオンだった。
(あらあら……。前世では家族のために駆け抜けてきたけれど、第二の人生でこんなに素敵なパートナーに恵まれるなんてねぇ)
カトリーナは柔らかく目を細めると、レオンの手をそっと両手で包み込んだ。
「レオン様。……いいえ、レオン。あなたの言葉、とても嬉しく思いますわ」
「カトリーナ様……!」
「私の手際や知恵を誰よりも理解し、いつだって一番の理解者でいてくれたのはあなたです。……こんな『オカン』のような私でよろしければ、どうかこれから末永く、一緒にお茶を飲みながら人生を歩んでいきましょうね」
「っ……はい! はい……! ありがとうございます、カトリーナ様……!」
感極まったレオンは、カトリーナの手を愛おしそうに自身の額に押し当て、心からの感謝と誓いを捧げた。
その横では、執事長のバートンが感無量といった様子で目元を拭い、公爵も力強く頷いていた。
数年後——。
王立中央学院の講堂は、全国から集まった大勢の生徒や領主たちで満席となっていた。
壇上に立つのは、いまや「国一番の財政・領地経営顧問」としてその名を知られるようになったカトリーナ・シルヴェスター。そしてその傍らには、彼女を慈しみと誇りに満ちた瞳で見つめる夫・レオンの姿がある。
「皆様、経営で一番大切なのは、そこに生きる人々の『笑顔』と『日々の安心』ですのよ」
カトリーナの優しく力強い言葉に、若い生徒たちが目を輝かせてメモを取る。
前世で培った主婦の知恵と大人の包容力。
それらは異世界の地で花開き、多くの人々を救い、そして最高に愛される幸せな未来へとつながっていた。
カトリーナがふと横を向くとレオンがそっと手を重ね、優しく微笑みかけてくれた。
カトリーナもまた、温かな温もりに包まれながらふんわりと微笑みを返すのだった。
(おしまい)




