オカンの助言と反抗期王子の迷走
「殿下に『大人の振る舞い』を……ですか」
頭を下げたまま切実な思いを訴えるレオンに対し、カトリーナはそっとお茶のカップを置いた。
「レオン様。あなたがお一人で殿下のすべてを背負おうとされていること、本当に立派だと思いますわ。……でもね、周りが何でも先回りしてお世話をしてあげることが本当にその人のためになるのかしら?」
「え……?」
レオンは思いがけない言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
「子ども……いいえ、若い男性というのはね、自分で転んで痛い思いをしてみないと、自分の足で立とうとしない生き物なのですの。殿下が今、書類を滞らせ身の回りを乱しておられるのは、どこかで『最後は誰かが何とかしてくれる』と甘えているからではありませんか?」
カトリーナの言葉は優しく、しかし確かな説得力を秘めてレオンの胸に染み渡っていく。
前世で子育てをしていた頃、何から何まで手を貸してやっていては子どもはいつまでも自立できないことをカトリーナは身をもって学んでいた。失敗を経験させ、責任を持たせることもまた、大きな「愛」なのだ。
「レオン様。あなたが倒れてしまっては元も子もありませんわ。まずはご自分の体調を第一になさってください。殿下のお仕事も、すべてを肩代わりするのではなく、『ここまではご自分でなさってください』と境界線を引いて差し上げるのです」
「……境界線を、引く……」
「ええ。そうして殿下がご自身の行動の結果に向き合われたとき、初めて大人への第一歩が踏み出せるのですから」
カトリーナは微笑みながらバッグから小さく折り畳まれた紙を取り出し、レオンの手元へそっと滑らせた。
「これは……?」
「業務を整理するための簡単なメモですわ。優先順位の付け方や、お仕事の振り分け方を書いておきましたの。レオン様のお役に立てば幸いです」
手渡されたメモには、驚くほど分かりやすく整理された手順とレオンの体を気遣う温かい一言が添えられていた。
「カトリーナ様……! 感謝いたします……っ」
目頭を熱くするレオン。
一方その頃、生徒会室では思うようにいかない公務と書類の山を前にリュシアン王子がイライラと頭を抱えて迷走を深めていた——。




