書類の手続きと側近レオンの頼みごと
激高するリュシアン王子とマリエラをその場に残し、カトリーナは側近レオンの案内で事務棟の応接室へと向かった。
静かな室内に入ると、レオンはカトリーナをソファーへ促し自ら書類をテーブルに並べ始めた。
「こちらが婚約解消に伴う学園側の各種手続書類でございます。……本来であれば、もっと早くお渡しすべきだったのですが、私の手際が悪く遅くなってしまい……申し訳ございません」
頭を下げるレオンの動きはどこか痛々しく、目の下の隈も痛々しいほど濃い。
(あらあら、本当にお疲れのようねぇ……。真面目な子ほど、要領よく手をつくのが苦手で一人で抱え込んじゃうのよね)
前世で長男や次男が受験や就職活動で根を詰めすぎていた頃の姿が重なり、カトリーナの「オカン心」がくすぐられる。
「レオン様、謝る必要なんてまったくありませんわ。……それよりも、少しお座りになってはいかが? お顔色が本当に心配ですの」
「いえ、私はただの側近……カトリーナ様の前で座るわけには……」
「いいからお掛けなさいな。身体を壊してしまっては、元も子もありませんでしょう?」
カトリーナの優しくも断固とした声に押され、レオンは恐縮しながらソファーの端に腰を下ろした。
カトリーナは手際よく書類に目を通し、必要な箇所に署名を走らせていく。その流れるような無駄のない手つきにレオンは感嘆の吐息を漏らした。
「カトリーナ様は……本当に、お変わりになりましたね」
「そうかしら? 自分の身の回りのことくらい、しっかり自分で責任を持とうと思い直しただけですわ」
「いいえ……以前の気高さはそのままに、まるで全てを包み込んでくださるような温かさを感じます。……実は、ひとつ不躾なお願いがございます」
レオンは意を決したように、まっすぐカトリーナの目を見つめた。
「殿下は……あの後、公務の書類仕事も身の回りの整理も滞り、周囲とのトラブルも増えております。私一人ではもう抑えきれそうにありません。……カトリーナ様、どうか殿下に『大人の振る舞い』というものを、一度お教えいただけないでしょうか……?」
レオンからの切実な「助けてほしい」という相談。
カトリーナはペンを止めると、困ったように、けれどどこか愛おしそうに小さく溜息をついた。
(本当に……どこの世界でも、反抗期の子どもの世話っていうのは周りの人が一番苦労するものなのねぇ)
カトリーナの心の中で、公爵家の改革に続く「次なる作戦」が静かに芽生え始めていた。




