学園からの呼び出しとオカンの覚悟
公爵家の屋敷改革が順調に進み、使用人たちの表情もすっかり明るくなったある日の午後。
カトリーナが執事長と一緒に、来月の食材仕入れ計画を見直していたところへ一枚の豪奢な封書が届けられた。
金箔押しで差出人の名が記されたその手紙を、執事長はどこか気まずそうな顔でカトリーナに差し出した。
「カトリーナ様……。学園、ならびにリュシアン殿下側からの呼び出し状でございます」
「あら、殿下から?」
カトリーナは受け取ると、優雅な手つきで封を切った。
中には、相変わらず上から目線の着飾った文章で、「婚約破棄に伴う諸々の手続きと、学園での荷物の整理のため至急登校されたし」と書かれている。
(荷物の整理ねぇ……。まあ、私の私物も置きっぱなしだったし、学園側に迷惑をかけるわけにもいかないわね)
あの日、断罪イベントを大人の対応で受け流して颯爽と退散したため、学園に残したままの書類や私物がまだ残っていたのだ。
「カトリーナ様……もしやお辛いのでは。代理の者を向かわせることもできますが……」
執事長が心配そうに眉をひそめる。
彼にとっても、大切な若いお嬢様が再び学園で心ない噂や嘲笑に晒されるのではないかと胸を痛めていたのだ。
しかし、カトリーナは「ふふっ」と優しく微笑んだ。
「心配ありがとう、バートン。でも大丈夫よ。自分の身の回りの後始末くらい、自分でちゃんとつけなくちゃね。子どもの後始末を親がいつまでもやってあげるわけにはいかないのと同じよ」
「は、はあ……?」
前世の「オカン」としての言葉がついて出てしまい、執事長は首をかしげたが、カトリーナの瞳に迷いや怯えが一切ないのを見て安心したように胸を撫で下ろした。
「それにね、バートン。逃げたり隠れたりしていたら、変な噂が立ってお父様や公爵家にまでご迷惑がかかってしまうでしょう? 正々堂々と行って、綺麗さっぱり片付けてくるわ」
(それに……あの反抗期のお坊ちゃんが、私が気遣わなくなってどう困っているかもちょっと気になるしねぇ)
カトリーナは凛とした笑みを浮かべ学園へ向かうための身支度をミーナに頼むのだった。




