変わっていく食卓と、困惑する公爵様
カトリーナと執事長による「屋敷の見直し」が始まってから、数日が経った。
公爵家の食卓には、さっそく小さな変化が表れ始めていた。
ある朝の朝食。
グランヴェル公爵が食堂に入り席につくと、目の前に運ばれてきたスープを見てふと手を止めた。
いつもなら透明なコンソメスープに、薄く切られた高価な珍味や季節外れの高級野菜が浮いているはずだった。
しかし、今日目の前に出されたのは、とろりと濃厚そうなクリームスープだ。中には大きめにゴロゴロとカットされた、今が旬の根菜やカブがたっぷりと煮込まれている。
「……執事長。これは何の真似だ? 我が家の朝食にしては、ずいぶんと質素で野暮ったいように見えるが」
公爵が低く眉をひそめると、横に控えていた執事長が恭しく一礼した。
「閣下、本日のスープはカトリーナ様のご提案によるものでございます。今朝採れたばかりの旬の根菜をじっくり煮込み、お体をととのえる効能のあるハーブを隠し味に使っております」
「カトリーナの……?」
驚いた公爵が視線を送ると、向かいに座るカトリーナがパッと温かい笑みを向けた。
「お父様。朝晩は冷え込むようになってまいりましたでしょう? 旬の根菜は体を芯から温めてくれますし、胃腸にもとても優しいのですの。……一口、召し上がってみてくださいな」
公爵は半信半疑のままスプーンを手に取り、温かいスープを一口口に含んだ。
「……っ」
口の中に広がったのは、野菜本来の優しい甘みとじんわりと身体に染み渡るような深い旨味だった。
派手さはないものの、疲れ切った胃に優しく落ちていき、腹の底からじんわりと温かさが広がっていく。
気づけば、公爵は無言のままスプーンを動かし続け、あっという間にスープを平らげてしまっていた。
(……なんだ、この温かさは。いつも食べていた冷たく気取った料理とは、まるで違う……)
「お口に合いましたかしら、お父様?」
カトリーナが嬉しそうに目を細めると、公爵は小さく咳払いをし、ふいっと顔をそむけた。
「……ふん。まあ、悪くはない。体を壊されては困るからな」
素直になれない不器用な父親の反応に、カトリーナは「あらあら」と心の中で微笑んだ。
さらに、屋敷の変化は食事だけにとどまらなかった。
廊下ですれ違う使用人たちの表情からは怯えが消え、どこか誇らしげで柔らかな笑顔が増えていたのだ。
夜食に温かい汁物が出されるようになり、勤務の無理なシフトが見直されたことで屋敷全体に漂っていた刺々しい空気が少しずつ、着実に解きほぐされ始めていた。
(よしよし、いい傾向ね。……さて、次は学園や王子の方の動きも、少し気になるところかしら)
公爵家の生活環境を無事に立て直し始めたカトリーナの元に、そろそろ外界からの「波乱」が近づこうとしていた。




