見栄を捨てておいしくて温かい我が家へ
「まずは、この食材の仕入れ先と、毎月のかさむ維持費から見直していきましょうか」
カトリーナの力強い言葉に執事長はゴクリと唾を呑んだ。
「しかし、カトリーナ様。仕入れ先の商会は、先代の時代から長年付き合いのある老舗でございまして……急に変えるとなると角が立ちますし、品質が落ちる懸念も――」
「あら、取引をいきなり打ち切るなんて言っていませんよ」
カトリーナはくすりと微笑むと、身を乗り出して帳簿の1ページをそっと指差した。
「ほら、ここを見てちょうだい。この商会から買い付けているお野菜、季節外れの高級品ばかりでしょう? 確かに華やかだけれど、今の時期なら隣町の市場で仕入れた採れたての根菜の方が安くて何倍も栄養があって美味しいはずだわ」
「それは……確かにそうでございますが、公爵家の食卓に庶民が食べるような根菜を出すわけには……」
「どうして? 美味しくて体に良いものに貴族も庶民もないでしょう?」
カトリーナのまっすぐな瞳に、執事長は言葉を詰まらせた。
前世で5人の子どもたちを育てていた頃、限られた予算の中でいかに栄養満点で美味しいご飯を作るかカトリーナは毎日知恵を絞っていたのだ。
旬の食材は安い上に一番美味しく体にも良い。そんな当たり前の知恵をこの屋敷の人々は「見栄」のせいで忘れてしまっていたのだった。
「それにね、執事長様。浮いたお金で、毎日朝早くから働いてくれている使用人たちの夜食に、温かいスープの一杯でも出せるようにしたらどうかしら? 毎日ビクビクして冷たいパンをかじっているより、ずっとみんなの顔色が良くなってお仕事の効率も上がると思わない?」
「っ……! 使用人たちの、夜食……」
執事長は胸を突かれたように目を見開いた。
この屋敷の使用人たちが過労と恐怖で疲弊していることは、執事長自身もずっと心を痛めていたことだったのだ。
それを、今まで自分勝手に振る舞っていたはずのカトリーナが、誰よりも深く観察し思い遣ってくれている。
「カトリーナ様……。私は、大変な誤解をしておりました」
執事長はソファーから立ち上がると、深く、深く頭を下げた。
「おっしゃる通りでございます。見栄と慣習に囚われ、一番大切なことを見失っておりました。……どうぞ、私に指示をお与えください。カトリーナ様の思い描くお屋敷にするため、全力を尽くします!」
「ふふ、頼りにしているわね。頼もしいわ」
カトリーナは満足そうに頷くと、さっそくメモ用紙を取り出し具体的な食材の見直しリストと、屋敷の無駄な維持費を削るためのアイデアをサラサラと書き足していくのだった。




