すれ違い
リナは雪山へ辿り着いた。
しかし――。
「昨日、出発したよ。」
宿屋の主人の言葉に、リナは固まった。
「昨日……?」
「ああ。黒いローブを着た変わった旅人だったな。」
リナは頭を抱えた。
「また一日差……!」
これで何度目だろう。フローラの情報を掴んでは追いかける。
だが、いつも少しだけ遅い。その頃。
フローラは山を下り、とある街に到着していた。街の中央広場では大道芸人が客を集めている。
子供たちが笑い、大人たちも楽しそうだ。フローラは少しだけ足を止める。
そして屋台でパンを買った。
「銅貨三枚だよ。」
フローラは代金を払う。店主は何気なく話しかけた。
「そういえば最近すごい冒険者がいるらしいな。」
「……?」
「最年少のSランクだってよ。」
フローラは小さく首を傾げる。興味はなかった。だからそのまま立ち去った。
もし少しでも話を聞いていれば。その冒険者の名前がリナだと知れたかもしれない。
三日後。リナはようやくその街へ到着する。だが。
「黒いローブの旅人?」
パン屋の店主が頷く。
「いたよ。」
リナの目が輝く。
「どこですか!?」
「三日前に出発した。」
リナは机に突っ伏した。
「またですかぁぁぁ!」
店主は苦笑する。さらに数ヶ月。二人は何度も同じ場所を訪れた。
フローラが橋を渡った翌日にリナが到着する。リナが宿に泊まった翌日にフローラが訪れる。
同じ酒場で同じ席に座ったことすらあった。ただし一週間違いで。
まるで運命が二人をからかっているかのようだった。そしてある日。
辺境の大森林。フローラは森の奥で本を読んでいた。
珍しく何の依頼もない平和な時間だった。
その時。森の入口から一人の少女が現れる。
金髪。腰の剣。Sランク冒険者リナ。ついに同じ森へ辿り着いた。距離にして数百メートル。
これまでで最も近い。しかし。
「……あ。」
フローラは突然立ち上がった。遠くで魔力の異常反応を感知したのだ。
誰かが危険な目に遭っている。フローラはため息をつく。
「放っておけない。」
そう呟き、転移魔術を発動。一瞬で消えた。数分後。リナがその場所へ到着する。
そこには焚き火の跡と、まだ温かいティーカップだけが残されていた。リナは膝から崩れ落ちる。
「またですかぁぁぁぁぁ!!」
森中に叫び声が響いた。その頃フローラは遠く離れた村で魔物退治を終えていた。
もちろん、自分が今まさに探され続けていることなど知らない。
そして二人の運命は、もう少しだけすれ違い続けることになる――。




