再会したい少女
あの日から七年。大陸には今もなお、「魔術の使徒」の噂が流れていた。魔物の群れから街を救った。
疫病に苦しむ村を救った。崩落した鉱山から何百人もの命を救った。だが誰もその正体を知らない。
黒いローブ。黒いフード。そして圧倒的な魔術。それだけだった。
一方、王都では。冒険者ギルド本部が騒然としていた。
「十七歳でSランクだと……?」
「史上最年少記録を更新したぞ!」
ギルドの広間で拍手が巻き起こる。その中心に立つのは、一人の少女。
金色の髪を後ろで束ね、腰には一振りの剣。
彼女の名は――
リナ・エルフォード。
かつて小さな村で暮らしていた少女だった。ギルドマスターが笑う。
「おめでとう、リナ。」
「ありがとうございます。」
しかし彼女の表情はどこか晴れない。
「どうした?」
「……まだなんです。」
「何がだ?」
リナは静かに答えた。
「私の恩人を見つけていませんから。」
ギルドマスターは苦笑する。またその話か。
七年間。彼女は冒険者として名を上げながら、同時に一人の人物を探し続けていた。
黒衣の魔術師。魔術の使徒。フローラ・ライア。
その頃。
遠く離れた辺境の雪山。吹雪の中を一人の旅人が歩いていた。黒いローブ。黒いフード。
フローラだった。彼女は相変わらず一人だった。仲間も弟子もいない。助けを求める人がいれば救う。
終われば去る。それだけ。
「……寒い。」
珍しく小さく呟く。すると遠くから悲鳴が聞こえた。フローラは足を止める。
崖の上。雪崩に巻き込まれた冒険者たちがいた。巨大な雪の塊が迫っている。
間に合わない。普通なら。フローラは杖を掲げる。
「《世界停止》」
禁呪魔術。その瞬間。吹雪が止まる。雪が止まる。落下する岩も止まる。
世界そのものが静止した。フローラは冒険者たちを安全な場所へ移動させる。そして。
「《解除》」
時間が再び流れ出す。轟音と共に雪崩が崩れ落ちる。
しかし誰一人巻き込まれない。冒険者たちは呆然としていた。
気づけば黒衣の人物の姿はない。ただ一人が呟く。
「今のって……まさか……」
数日後。
その噂は王都へ届く。リナは酒場で情報を聞き終えると、勢いよく立ち上がった。
「雪山!?」
「お、おいリナ?」
「やっと見つけたかもしれない!」
彼女の瞳が輝く。七年間追い続けた人。自分の人生を変えた恩人。
もしかしたら――。
「待っていてください、フローラさん。」
そう言ってリナは王都を飛び出した。
一方その頃。
フローラは次の街道を歩いていた。
もちろん、自分を追いかけてくる最年少Sランク冒険者の存在など知る由もなかった。




