とある魔術師と少女
朝日が平原を照らしていた。フローラ・ライアは街道を歩いていた。黒いローブが風に揺れる。目的地はない。
困っている人を見かければ助ける。それが彼女の旅だった。数時間後。彼女は小さな村へ辿り着く。
しかし様子がおかしい。畑は荒れ、人々の顔には疲労が浮かんでいた。
村の入口では数人の男たちが言い争っている。
「もう終わりだ!」
「昨日も家畜が襲われた!」
「騎士団はまだ来ないのか!」
フローラは静かに耳を傾けた。どうやら近くの山に現れた魔獣が原因らしい。
村長は王都へ救援要請を出したが、辺境の小村に騎士団が来るのは何週間も先になる。
その日の夜。村外れの見張り台から鐘の音が鳴り響く。
ガン、ガン、ガン!
「魔獣だ!」
「来たぞ!」
村人たちが悲鳴を上げる。闇の中から現れたのは巨大な狼。
全長五メートルを超える黒い魔獣だった。その赤い瞳が村を見据える。護衛たちの顔が青ざめる。
「あれは……シャドウファング!」
辺境では災害級と呼ばれる魔獣。普通の冒険者では相手にならない。魔獣は咆哮を上げ、村へ突進した。
その瞬間。一人の黒衣の少女が前へ出る。
「誰だ!?」
村人たちが叫ぶ。フローラは答えない。ただ杖を握る。シャドウファングは本能で危険を察知した。だが遅い。
フローラが静かに呟く。
「《重力牢獄》」
禁呪魔術。見えない力が魔獣を押し潰す。
ドゴォォン!!巨体が地面に叩きつけられ、身動きが取れなくなる。
村人たちは目を見開いた。
「う、嘘だろ……」
災害級の魔獣が、一瞬で。
フローラはさらに杖を向ける。
「《蒼天の雷槍》」
夜空から青白い雷が落ちた。轟音。閃光。そして静寂。
魔獣は動かなくなった。
村人たちが我に返った時には、黒衣の少女はもう背を向けていた。
「待ってください!」
少女の声が響く。振り返ると、10歳くらいの村娘が立っていた。
「ありがとうございました!」
フローラは少しだけ立ち止まる。
「……気にしなくていい。」
それだけ言って歩き出す。すると村娘は叫んだ。
「また会えますか!?」
フローラは少し考え、
「……縁があれば。」
そう答えて夜の街道へ消えていった。
フローラは知らなかった。
数年後、その少女がフローラの旅の仲間になることを――。




