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親交-鮮やかな閃き-2

別館から本館へは回廊で繋がっており、窓から手入れされた草花をみることができた。


「こちらを抜けた先が本館になります。教室の他に、講堂や食堂もございますので――」

「アッシュフォード様は、先ほど驚かれていましたね」

アナスタシアの突然の言葉に、レイチェルはゆるやかに瞬いた。


「……まあ。何のお話でしょう?」

「教師に声をかけられた後です。」

アナスタシアは何でもないことのように続ける。


「唇を舐めていました。少し口紅も取れています。」

アナスタシアの端正な顔がレイチェルに向けられる。

表情は変わらず、何も感情が読み取れなかった。

「教師に声をかけられたことで驚いた、わけではないと思います。あの時、私達は貴女の進行方向にいました。私達がいることには気づいていたはず。では、教師に話しかけられることに忌避感があったのか。いいえ。貴女は教師と積極的に言葉を交わし、教師からの信頼もあった。」


アナスタシアが人差し指をすっと立てた。細く長い指だった。

「偶然会ったことで驚いた。」



アナスタシアは澱みなくそのまま話し続ける。

「別館には教職員の研究室があるので、教師がいることには驚かない。では驚いたのは私に対してということになる。貴女は口を舐めたあと、私達が気にならないような所作で口元に指を当てて誤魔化した。」

「……」

レイチェルはじっとアナスタシアの顔を見る。気にも止めずにアナスタシアは続けた。

話し方が砕けた物言いになっている。これが素なのだろう。


「口調も、あえてゆっくりと話そうと意識していたようだ。人からどう見られるかを意識することが癖づいている。」

「あら、まぁ・・・」

淡々と並べられる言葉に、レイチェルは目を瞬かせた。


「けれど堂々としている。人の視線や考えに左右される人柄ではない。」

アナスタシアは首を傾げる。

「案内役を買って出たのは意外だった。」

「意外、ですか?」

レイチェルが繰り返すとアナスタシアは静かに頷いた。


「人目を過度に気にしていない、お人好しの類ではない。現に昨夜のパーティでは糾弾される令嬢を見ても周りを観察する余裕があった。」

その言葉にレイチェルの足がほんの少し止まる。

まさかパーティで人が多い中、アナスタシアが自分の存在に気がついていたとは思わなかった。


「相手に強い興味があるわけではない。けれど、声の高さ、笑うタイミング、相手を見る時間。どれも相手が心地よいと感じるものを選んでいる。セルフプロデュースが上手い。」

アナスタシアの瞳はまるで磨かれたガラス玉のようだった。そこに好奇心等はなく、淡々とただ情報だけを静かに映している。


「素晴らしいですわ」

「私に近づいた理由は、昨日の件についてでしゃばるな、とか、何か言うため?」

レイチェルが珍しく、アナスタシアの言葉に被せて口を開いた。


「え?」

アナスタシアの丸くなった瞳をにレイチェルの笑顔が映った。


「今のお話です」

いつもの柔らかな微笑みではない。

素直な感嘆が、そのまま表情にでていた。

「なんて鮮やかな観察眼なのでしょう!」


アナスタシアは困惑したように瞬く。

「えっと、ありがとう?」

「いつもこんなに色んなことを考えていらっしゃるの?」

「見たままのことを言ってるだけだよ」

「感服いたしました!」

「……」

「他には?私はどのような人に見えますか?」

思わず、レイチェルの足が一歩前に出た。

レイチェルに促され気を取り直したようにアナスタシアが続ける。


「周囲をよく見ている。でも、誰か一人に深く踏み込むことは避けているように見える。面倒なのかな。薄情ではないが、特別もない」

「あら、まぁ!大当たりです。それで?」

「器用で、優秀で、誰からも好かれる。けれど――少しだけ退屈している。」

「まぁ!まぁ!うふふ」

アナスタシアが言い終わると同時にレイチェルが弾けたように笑う。

口元に手を添えてクスクス笑う様子は気分を害したようには見えず、アナスタシアは困惑しパチパチと瞬きを繰り返した。

レイチェルにもアナスタシアが驚き、戸惑っていることがわかった。幼児のような反応により笑みが深くなる。


「こんな反応が返ってくるとは。予想してなかった・・・」独り言のような呟きだった。


「あら、どうして?」

「見たままを言っただけなのに・・・、いつも少し困った顔をされるから・・・」

「そうなの?その発想はなかったわ」

鋭い洞察力に驚きはすれど、不快に思うことなんてあるのだろうか?他者に見えるように見えたくないものを見せている人が悪いだけだ。

つい呆けた声がでた。

「あら、失礼しました。」

「いや、私もつい口調が軽くなってた。良かったら、このままでも構わないかな?」

「ええ、勿論。」

レイチェルはまるで新しい宝石を見つけたように笑った。


「素晴らしい才能に、つい嬉しくなってしまいました。では、続きの案内をいたしますね」

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