第34話 春を待つ祭り
ノルデン領では、冬の終わりに小さな祭りを開く。
春を呼ぶ祭り、とレティシアは言った。実際には、まだ雪が残っている。けれど人々は城下の広場に布を張り、温かいスープを売り、子どもたちは雪を固めて小さな灯籠を作る。夜になると、その灯籠に火を入れ、冬に世話になったものへ礼をするのだという。
「リーナ様も、体調がよければ少しだけ見に行きませんか」
レティシアが誘った。
ミラ医師は渋い顔をしたが、天候、時間、移動経路、休憩場所、帰宅後の診察を条件に許可した。
リーナは、祭りの日を指折り数えた。
できたこと帳には、毎日「祭りまであと何日」と書かれる。薬を飲むのも、廊下を歩くのも、休むのも、祭りへ行くための準備になった。
当日、リーナは白い毛皮の襟が付いた外套を着た。
クロフォード家の兄が送ってくれた厚い靴下も履いている。ネラが髪に小さなリボンを結び、オルガが懐炉を二つ用意し、カイ辺境伯は広場の休憩所を三箇所確認した。
「カイ様、心配しすぎ」
リーナが言う。
「心配は、確認で減る」
「確認しても、また確認する」
「減りきらない分は、もう一度確認する」
リーナは笑った。
広場は、思ったより賑やかだった。
人々はカイ辺境伯を見ると礼をするが、堅苦しさはない。子どもが「鈴係長だ」と囁き、親に慌てて口を押さえられていた。カイ辺境伯は聞こえていないふりをしたが、耳が少し赤くなっている。
リーナは雪灯籠を一つ作った。
小さな手で雪を丸めるのは大変なので、城下の子どもたちが手伝ってくれた。リーナは最初、知らない子どもに緊張していたが、一人の女の子が「白狼の鈴を見せて」と言うと、少しずつ話し始めた。
「これは、助けを呼ぶ鈴」
「きれい」
「怖い時に鳴らすの。でも、嬉しい時にも一回なら鳴らしていい」
子どもたちは真剣に聞いていた。
そのうち一人が、自分の雪灯籠に小さな鈴の模様を描いた。
リーナはそれを見て、嬉しそうに笑った。
私は少し離れた場所で、温かいスープを手にしていた。カイ辺境伯が隣に立つ。
「疲れていないか」
「私ですか、リーナですか」
「両方」
私は笑った。
「今のところ、大丈夫です。リーナが、知らない子と話しています」
「良いことだ」
「少し寂しいです」
言ってから、自分で驚いた。
カイ辺境伯は、責めるでも慰めるでもなく頷いた。
「守っている子どもが外へ出ると、寂しさも出る」
「経験が?」
「レティシアが初めて一人で馬に乗った時、私は馬具を三回確認した。本人には怒られた」
想像して、私は笑った。
広場の中央で、春を呼ぶ火が灯された。
人々が冬の間に使った道具へ礼をする。鍬、薪割り斧、織機の部品、子どもの手袋。リーナは自分の呼び鈴を持っていくか迷ったが、最後には鈴ではなく、古い薬包の空き紙を小さく畳んで火のそばへ置いた。
「薬は、もう薄くならないように」
彼女はそう言った。
私はリーナの肩を抱いた。
「そうね」
薄い薬の紙は燃えた。
火は小さかったが、冬の夜にはよく見えた。
その帰り道、リーナは疲れて馬車の中で眠った。頬は少し赤いが、呼吸は落ち着いている。ミラ医師が確認し、問題ないと言った。
城へ戻ると、できたこと帳に書く前に、リーナは眠ってしまった。
代わりに、私が下書きをした。
リーナ、春を待つ祭りへ行った。知らない子と話した。薄い薬の紙を火に返した。帰ってきた。
翌朝、リーナはその下に花丸を五つ描いた。
「五つ?」
「お祭りだから」
カイ辺境伯が帳面を見て言った。
「基準が増えている」
「お祭り基準」
リーナは得意そうだった。
私は窓の外を見た。
雪はまだ残っている。けれど、昨日の灯籠の跡が、庭の端に小さく見えた。
春は、急に来るものではない。
冬の中で、少しずつ待てるようになるものなのだと思った。




