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第十四話 「一線」

 南部街道から少し外れた森。


 湿った土の匂いが鼻につく。


 レインは木陰に身を潜めながら、前方を睨んでいた。


 《牙狼》。


 大型の灰色狼が、低く唸りながら縄張りを巡回している。


 通常なら、近づくだけでも危険な魔獣だ。


 だがレインは地面に肉片を撒きながら、静かに息を吐いた。


「……これでいい」


 魔獣は刺激に敏感だ。


 臭い。

 音。

 血。


 少し誘導すれば、人の通る道へ流れる。


 もちろん危険なのは分かっている。


 だが、《銀翼の剣》なら対処できる。


 だから問題ない。


 これは確認作業だ。


 俺がいなければ危険管理が甘くなる。


 それを証明するだけ。


「……そうだ」


 自分に言い聞かせる。


 これは必要なことなんだ。


 その時だった。


「おい!」


 突然、後ろから声が飛ぶ。


 レインが振り向く。


 そこにいたのは、中年の行商人だった。


 荷車を引いた男が、青ざめた顔でこちらを見ている。


「何してる!? そこ《牙狼》の縄張りだぞ!」


「……」


「早く離れろ!」


 男はレインの手元を見て、顔色を変えた。


「お前、それ……魔獣誘導してるのか?」


 沈黙。


 数秒後、レインは眉をしかめた。


「違う」


「違うわけあるか!」


 男が声を荒げる。


「お前、自分が何やってるか分かってんのか!? 街道に流れたら死人が出るぞ!」


「《銀翼の剣》がいる」


「は?」


「護衛依頼中だ。あいつらなら対処できる」


 男が絶句する。


「……お前、正気か?」


 その言葉が、レインの神経を逆撫でした。


「正気じゃないのはあいつらだろ」


「何言って――」


「俺を追放したせいで危険管理が崩れてるんだ」


 自然と声に熱が入る。


「だから今こうなってる。これはあいつらの責任だ」


 行商人は後退った。


 恐怖を見るような目。


 その視線が、レインには我慢ならなかった。


「なんだその顔」


「お、お前……」


「俺は間違ってない」


 言い聞かせるように続ける。


「本来なら、俺が管理していた」


 《銀翼の剣》は危険を避けられていた。


 周囲も守られていた。


 それを壊したのは向こうだ。


 だから――。


 その瞬間。


 森の奥から遠吠えが響いた。


 低く、重い咆哮。


 《牙狼》が反応した。


 行商人の顔が凍る。


「っ……!」


 レインも息を呑む。


 思ったより近い。


 いや、違う。


 こんなはずじゃ――。


 茂みが激しく揺れる。


 次の瞬間、巨大な灰色狼が飛び出した。


「うわぁぁぁっ!?」


 行商人が悲鳴を上げる。


 《牙狼》は一瞬で荷車へ向かって突進した。


 木箱が砕け、馬が暴れる。


「待っ――」


 レインの声は最後まで出なかった。


 視界の端で、行商人が吹き飛ぶ。


 血が散った。


 空気が止まる。


「……は?」


 頭が真っ白になる。


 《牙狼》は唸り声を上げながら、再び身を低くした。


 獲物を狙う目だった。


 レインの背筋を冷たいものが走る。


 違う。


 こんなはずじゃない。


 俺はただ――。


 その時、遠くから複数の足音が響いた。


「そっちだ!」


「急げ!」


 冒険者の声。


 レインの顔色が変わる。


 まずい。


 見られる。


 咄嗟に身を翻し、森の奥へ走り出した。


 背後では、怒号と魔獣の咆哮が混ざっていた。

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