第十三話 「誰のせいだ」
雨が降っていた。
石畳を打つ水音が、王都の喧騒を薄く覆っている。
レインはフードを深く被ったまま、裏路地を歩いていた。
足取りは速い。
頭の中を埋め尽くしているのは、《銀翼の剣》のことだけだった。
「……おかしいんだ」
何度考えても答えは変わらない。
俺が間違っているはずがない。
なら、何かがおかしい。
周囲が騙されている。
あいつらが取り繕っている。
運良く上手くいっているだけ。
そうとしか思えなかった。
だが、その“運”が続いているのが問題だった。
結果が出てしまっている。
だから周囲は《銀翼の剣》を評価する。
だから誰も俺の正しさを理解しない。
「……なら」
もっと分かりやすくするしかない。
もっと、はっきり。
その考えに至った瞬間、不思議と頭が静かになった。
今回の依頼先は南部街道。
《銀翼の剣》は商隊護衛に出るらしい。
そして最近、その周辺では魔物の活動が活発化している。
特に問題なのは、《牙狼》と呼ばれる大型魔獣だった。
群れを率いる個体。
普通の冒険者なら遭遇するだけで壊滅しかねない。
「……少し誘導するだけだ」
レインは自分に言い聞かせる。
別に殺したいわけじゃない。
ただ危険な状況にすればいい。
その中で失敗すれば、
周囲も気づく。
『レインが必要だった』と。
それだけだ。
だからこれは正しい。
必要なことなんだ。
その日の夜。
レインは以前接触した盗賊崩れたちと再び会っていた。
「おいおい、またかよ」
片目傷の男が露骨に嫌そうな顔をする。
「今度は何だ」
「南部街道の魔獣を少し刺激してほしい」
「は?」
「《牙狼》の縄張り付近で騒げばいい。それで移動する」
男たちの顔色が変わった。
「待て待て待て。あれAランク魔獣だぞ」
「だから直接戦えとは言ってない」
「そういう問題じゃねぇ!」
男が苛立った声を出す。
「お前最近ちょっとおかしいぞ」
その言葉に、レインの目が細くなる。
「……なんだと?」
「普通、そこまで執着しねぇって言ってんだよ」
「執着じゃない」
即座に否定する。
「俺は正しいことを証明したいだけだ」
「だからそれが――」
「俺は追放されたんだぞ!」
気づけば怒鳴っていた。
酒場の空気が静まる。
「全部奪われた! 居場所も評価も!」
胸が熱い。
息が荒い。
「なのにあいつらは平然としてる! おかしいだろ!」
盗賊たちは完全に引いていた。
だが、そんなことはどうでもいい。
「……分からせないといけないんだ」
レインは低く呟く。
「俺が必要だったって」
沈黙。
やがて片目傷の男が、小さく舌打ちした。
「……悪いが、降りる」
「は?」
「さすがに付き合いきれねぇ」
他の二人も頷く。
「面倒事の匂いしかしねぇんだよ」
レインは数秒黙っていた。
そして、ゆっくり笑う。
「……そうか」
その笑みは、妙に静かだった。
「お前らも、俺を否定するのか」
「いやそういう――」
「もういい」
レインは銀貨を掴み、席を立つ。
分かった。
結局、誰も理解しない。
なら、自分でやるしかない。
雨音が強くなっていた。
王都の夜は、冷たかった。




