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EP39・月下の狂宴・終幕

「バーレイグの旦那! 大丈夫か!」

エリオットに肩を借り、崩れ落ちそうな身体を預けて何とか姿勢を保つ。激痛。明滅する視界。目に染みる脂汗を、瞬きで無理やり拭った。

遠方から【神晶球】を展開。戦場の座標を掌握していく。

「兄さま大丈夫!?」

湧き出る鴉天狗の雑兵を蹴散らすアーシェとフェンリル。心配そうに喉を鳴らす神狼。

「俺なら大丈夫だ。目の前の敵に集中しろ、アーシェ!」

檄を飛ばす。視線の先、動揺を隠せない首領。見えざる狙撃手への恐怖。

その一瞬の隙、レネは見逃さない。

(バーレイグさんが作ってくれた好機……今だわ!)

両手をかざす。

「**『重力封鎖グラビティ・コンテイン』**ッ!!」

軋む空間。重圧の檻が、首領の動きを固く、重く封じ込めていく。

刹那。疾走する金色の影。フィンロッドが素早く懐へ潜り込み、首領の腰から『大天狗の空瓢箪』を奪い取る。神器の無力化。

遠方。神晶球を通して状況を窺い、狙いを定める。

(ちっ、なかなか難しいぜ)

《重なりの法》の応用——口で言うのは簡単だが、実際は針の穴に糸を通すような精密動作が要求される神業。

弾丸に重力を極限まで圧縮。さらに螺旋の回転を加える。少しでも魔力制御をミスれば、銃身ごと右腕が吹き飛ぶだろう。

だが、やるしかねぇ。

「エリオット、いくぜ! 反動が来る、しっかり支えろ!」

「【――超重加・螺旋貫通弾スピン・ニードル・キリング・ショット――】」

マズルフラッシュ。一際眩い、紫電の閃光。

首領が遠くからの光に気づいた時には、全てが終わっていた。

遠雷の轟音。光の筋が首領の胸元に突き刺さり、内側から破裂する。羽根で硬質化された絶対防御の鎧が貫かれ、穿たれる風穴。

だが、悪鬼の生命力は尽きていない。致命傷を負いながらも、最後の悪あがきを見せようともがく。

「この死にぞこないがぁ……」

冷徹な声。いつの間にか上空へ転移し、その無様な姿を見下ろす天狐。

指を鳴らす。幻術の分身が生み出され、戦場に残る仲間たちを素早く退避させる。

緋色の扇が描く、巨大な軌跡。辺り一帯に展開される、天呪の御旗と呼ばれる魔法陣。

「天界の清聖なる久遠の大火よ。悪鬼滅劫の灰と帰せ」

無慈悲に振り下ろされる扇。

「【――緋扇奥義・女神花焔楽土めがみかえんらくど――】」

顕現した魔法陣。支配領域の視界を埋め尽くす、煌めく火花の海原。

あまりにも美しいその光は、無慈悲に全ての生物を呑み込み、灰になるまで燃やし尽くしていく。



灰と化した、鴉天狗の首領と雑兵たち。戦闘の轟音が消え、耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。

焦げた草木の臭いと、血の鉄錆びた臭いが混じり合う。

「はぁ、はぁ……まじで、死ぬかと思った……」

エリオットが荒い息を吐きながら、へたり込みそうになるのを堪えてこちらを支える。

「しっかりしろエリオット。まだ終わりじゃない。……この上に、あるはずだ」

痛む足を引きずりながら頂を目指す。一歩進むごとに、激痛が脳天を突き抜ける。だが、止まるわけにはいかない。

いつの間にか、陽は落ちていた。闇夜を照らすのは、チラチラと舞う残り火のみ。

辿り着いた先。門構えを見せる、鮮烈な深紅の鳥居。

(……この赤。どこかで、見た) 記憶の底が、微かに疼く。

「バーレイグさん! こっち、こっちぃー!」

レネとフィンロッドに促され、崖下を覗き込む。そこには、冷たい月の光を浴びて、キラキラと青白く輝く一輪の花があった。

『月光・曼珠沙華』。

まるでそこだけ時間が止まっているかのような、幽玄な美しさ。花弁の一枚一枚が宝石でできているかのように、内側から淡い燐光を放っている。

「……神秘的で綺麗な薬草華だな」

言葉を失いながら、感嘆する。だが、咲いているのは断崖絶壁の底。

「でも、崖下じゃねぇかよ? どうすんだよ?」

「どれ、わらわが採ってきて進ぜよう」

「さすがテンにゃん!」

天狐が、重力など存在しないかのように空を歩く。優雅に崖を下り、月光・曼珠沙華を手折ると、舞い戻ってフィンロッドへと手渡した。

仕事を終えた神獣は、静かに一行を見回す。

「それでは、皆様方。どうぞ我が主の事を、よろしくお頼み申す」

涼やかな鳴き声を残し、淡い光となって夜空へと溶けていった。



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