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13.フィル

ローズ様が去ると騒ぎを聞きつけたのか、フィルが慌ててやってきた。


「オーリー!大丈夫だったか?ローズ嬢が凄い剣幕で君を探していたと聞いたけど…。噂のことかい…?」

「えぇ、でもいつもの可愛いものよ。」

「…噂は本当なの?」

「あぁ、うーん。図書館で一緒になったのも送ってもらったのも本当よ。私は先生から頼まれた調べ物をしてて、昨日は遅くなったから…。ただ、殿下はどうやら私に会いに来ていたそうよ。」

「チッ。」

「…フィル怒ってる?」

「怒ってないよ!…いや、怒っている。殿下にも殿下に隙を見せるオーリーにも、僕にも。」


まただ、最近フィルはよく怒る。反論しようかと思ったけど、噂になった落ち度は私にもあるため、私は素直に謝ることにした。

「そうね。隙を見せたわけじゃないけど、噂になったのは私の落ち度よ。心配をかけてごめんなさい。」

と言うと、フィルは気まずそうに

「いや、オーリーは悪くないのに怒ったりして、僕の方こそすまない。狭量だな…。でも忘れないで!夜会のパートナーは僕だ。」


いつになく真剣な眼差しで言ってくるフィルから目を離せなくなってしまう。

「と、当然よ。私のパートナーはフィルだわ。」

と答えると、綻んだように笑う。しかし、すぐに寂しそうな表情となり、私の手を取りながら

「この手を離さないでくれ。」

と言った。ミラの恋人の話を聞き、今度の夜会のパートナーが私になったあたりより、フィルは時々、男の顔をするようになった。幼馴染として過ごしてきた印象が強くて、私はこの変化に慣れなくてドギマギする。こうやって人は成長するのかな。

「えぇ、離さないわ。フィルこそ離さないでよ。離されたら困るわ。」

「絶対に離さないよ。さぁ、ミラも待っているから戻ろう。」

と手は握ったまま廊下を進む。フィルと手を繋ぐなど、小さいとき以来だ。人の気配がすると、どちらからともなく手を離す。婚約者でもないから当然なのに、私はずるくも寂しく思い、離さないって言ったのに!と心の中で悪態をついた自分に少し驚き、少し自分がわからなくなった。



そして、ついに迎えた夜会当日。朝からマリアにあちこち磨かれ、身に纏ったドレスは、シャンパンゴールドをベースにグラデーションとなり、スカート部分はスカーレット色となっていた。同じくスカーレット色の刺繍やビーズもふんだんに使われている。なんて見事なドレスなんだろう。フィルが迎えに来たようで応接室へと向かう。家族以外がパートナーとなることは初めてだったので、実は皆、少し緊張している。応接室へ着くと、お父さまお母さまアル兄さまエル兄さまは既にいて、フィルと話をしている。ちなみにアル兄さまは結婚したので、この家にはいないはずなのに、なぜいるのだろう?


「お待たせいたしました。」

と言って現れた私を見て、フィルは目を見開き顔を赤くする。どこか変だったろうか。フィルは黒のタキシードに深い青のタイにハンカチーフ、エメラルドのタイピンにカフスを身に纏っている。いつもはセットしていない前髪も後ろに流し、何度も見たことがあるはずなのに目を奪われた。お互い黙って見つめあっていると、お父さまの咳払いがし、我に返る。

「オーリー、とても綺麗だ。思わず見惚れた。」

「フィルもとても素敵よ。私も見惚れたわ。」

私の色を纏っているフィルにいつになくドキドキする。だって、まるで恋人や婚約者のようじゃない。私のドレスもフィルの色だし、お母さまやマリアに仕組まれていたようだ。お父さまやお兄さまたちは苦い顔をしており、お母さまは満面の笑みで私たちを見比べている。


「本日は大切なお嬢さまのパートナーを務めさせていただく名誉を授かりありがとうございます。」

とフィルが挨拶をし、

「うむ。家族以外がパートナーになるのは初めてなんだ。どうかよろしく頼む。」

「2人ともとってもよくお似合いよ。」

「オーリーはお転婆さんだからね、心配だよ。」

「絶対に絶対に守れよ!特にレオンから!」

「もう、みんなやめてよ!フィルは私のためにパートナーになってくれたのに、失礼よ。フィル、今日は本当にありがとう。」

「僕が望んでパートナーになったんだよ。では、お嬢さまをお預かりいたします。」

「お父さまお母さま、アル兄さまエル兄さま、行ってまいります。」


今日のフィルは格好良くて、言うこともなんだか恋人のようで調子が狂う。フィルのエスコートで馬車に乗り込むと、すぐに私の手を取り

「オーリー、今日もとても綺麗だ。本当に息が止まるかと思ったよ。そのドレスも良く似合っている。送った甲斐があった。君をエスコートできるなんて僕は幸せものだ。」

と言って手の甲にキスを落とす。こちらの息も止まるかと思った。全身が心臓になったみたいに鼓動が早い。


「オーリーにこれをつけて欲しいんだけど。」

と言ってスカーレットルビーのイヤリングを取り出した。不思議だったのだ。なぜかイヤリングをつけていなくて、マリアに文句を言ったけど、ニヤニヤするばかりで全然用意してくれなかったのだ。そういうことだったのか!ドレスもフィルのプレゼントだと知らなかった。

「フィル、あなた、お母さまと共犯ね…?こんな素敵なドレスにイヤリング、フィルからのプレゼントだと知らなかったわ。凄く素敵…。」

「はは、やっぱりバレた?どうしてもオーリーにプレゼントしたくて、母君に相談したんだよ。驚いた?」

「えぇ、とても!サプライズは大成功よ!本当に素敵…。こんな素敵なもの私が受け取っていいの?」

「もちろんだよ。オーリー以外に受け取ってもらう人はいないよ。僕がつけてもいいかな?」

「えぇ、お願い。」

どうしよう、ドキドキが止まらない。私、フィルはミラと結婚するものだと思っていた。でもミラは別の人と結婚するわけで、じゃあフィルは?フィルはこれからどうするのだろうか?そもそもフィルってミラのこと好きだったの?フィルが好きなのは…?と思考の淵に浸っていると、フィルの手が耳に触れ、身体がビクッと反応する。

「あぁ、ごめん。もう少しだから我慢して。」

「え、えぇ。大丈夫よ。ごめんなさい。」

今更ながら2人っきりであることに気づく。緊張しすぎてマリアが乗り込んでいないことに気づかなかった。敢えて乗らなかったんだと思うと、この状況は皆共犯なのかしら?


息がかかりそうなほど近くにフィルがいる。小さい頃は平気でキスしたりしていたのに、いつからかしなくなった。と言うかフィルが拒否するからできなくなった。

「よし、ついたよ。うん、思っていた通り良く似合う。綺麗だ。」

とフィルは優しく微笑み、自然に頭を撫でる。どうにか心を落ち着かせ、私も笑顔でお礼を言った。


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