12.密会?
今日も今日とて私の前に座る殿下。2人っきりになることはないが、ミラとフィルといると邪魔をしてくる。ニコニコしながら会話の端々に
「俺もオーリーと呼んでいいか?」
「遠慮いたします。いえ、遠慮してください。」
「つれないなぁ。ミランダ嬢とフィリップ殿はオーリーと呼ぶのに、なぜ私はダメなんだ?」
「ダメです。2人は特別なのです。」
と隙あらば愛称で呼ぼうとするので、不敬だろうがなんだろうが一刀両断する。そんなやり取りをミラはニヤニヤとし、フィルは表情を失くして見守るのがルーティンとなりつつある。
次第に学園で殿下と過ごすことが多くなり、ローズ様一派以外は嫌味を言うことも視線を送ってくることもなくなった。私同様に慣れてきたらしい。ある日、先生に頼まれ、1人で図書館で調べ物をしていると、殿下が現れ隣に座る。
「あら、殿下。ご機嫌よう。図書館で調べ物ですか?」
「あぁ、そんなところだ。」
隣に座るなど近いなと思うが、言ったところで離れてくれないため、私は気にせず本に視線を戻す。お互い無言で次々と本を読むが、殿下の存在は気にならず居心地は悪くない。時間がかかりそうなので、キリがいいところで切り上げて帰る。次の日も図書館に行くと、殿下はいて、声を掛けられれば無視をするわけにいかないため、斜め向かいに座る。集中が途切れたときに、ふと顔をあげるといつのまにか隣に座っている。次の日も次の日もそうして殿下と過ごした。
そろそろ先生に依頼された調べ物もまとまり、図書館通いも終わるかなというとき、殿下は図書館に現れなかった。ここ数日、毎日図書館で顔を合わせていたため、非常に気になる。まさか寂しいのかしら?よく考えれば、忙しいはずの殿下が毎日図書館に来るなど、あり得ないことだったのではないか?など、考えるとなかなか本に集中できず、いつもより時間がかかってしまったが、どうにか閉館時間ギリギリにまとめあげることができた。図書館を後にすると、前から殿下が慌てたようにやって来た。
「こんな時間までいたのか。今日は行けなくてすまない。陛下に呼び出されてしまってな。」
「いえ…。お約束しておりませんわ。」
と、気になっていたくせに可愛げのない返事をしてしまう。殿下は小さく笑って
「そうだな。しかし今日はいつもより遅くまでいたようだから、俺を待っていてくれたのかと思った。」
「今日はあまり集中できなくて…。でも今日で先生の依頼された件もまとまりましたので、図書館通いは終わりです。」
と殿下に見透かされたのが、少し恥ずかしくてプイっと顔を背け言う。
「はは、待っていてくれたのならば嬉しかったのだがな。集中できなかったのは俺がいなかったことが原因かもしれないと思うことにするよ。今日はもう遅いから送ろう。」
「…ありがとうございます。」
殿下のエスコートで馬車乗り場まで向かうと、そのまま王家の馬車で家まで送ると言って引かず、ブラッド様も同乗するからと言うため、渋々折れて送ってもらう。
「今日で図書館通いも終わりなのか。」
「えぇ、あとは先生にご報告して終わりです。殿下もお忙しいのに、毎日いらしてましたわね。お仕事の本をお読みのようでしたが、殿下も調べ物でしたの?」
「あぁ、でも君に会いに行ってたんだ。」
私は驚いて殿下の顔を見ると、真剣な眼差しで
「君の顔を見るついでに、調べ物をしていたんだ。」
顔が赤くなるのを止められない。ストレートなアプローチは慣れていない。
「そ、うですか。いつもいらしたので調べ物のついでに、私と交流しているのだと思っていました。調べ物がついでだなんて、怒られますわよ。」
「はは、君のせいで怒られるなら本望だよ。言っただろう?私は努力すると。」
「えぇ…。少しずつ伝わっております。」
「それはいい。夜会のエスコートをすればもっと伝わると思うんだがな。」
と言って私の手を取り甲にキスを落とす。イタズラが成功したような顔をして、なんだか憎らしい。次から次へと心臓に悪いものだ。
「エスコートは何度誘われてもお断りしますわ。他で頑張ってくださいませ。」
家に着くと、殿下はお父さまに遅くなった理由を説明し、ついでにエル兄さまとも顔を合わせ、私は送ってくれたことの礼をして殿下を見送る。お父さまに殿下との関係性を聞かれたが、全く関係ないし、たまたま一緒になっただけだと言っておく。婚約者候補となっていることはお父さまには言われてないし、殿下が私に興味を持っていることも言う必要はない。エル兄さまも黙っていてくれるし。むしろこの状況、危険かもしれない。断れないとは言え、今日のことは軽率だったと反省をする。
あんな美しい人に口説かれるのは悪い気はしない。照れくさいが嬉しいのは間違いない。ただ、殿下を好きかと言われると、それは違う気がする。殿下も別に私のことを好いているわけではないと思う。あくまで興味があるだけだろう。婚約者を見つけに、と言うか恋愛をするために学園に行っているのに、殿下のせいで他の男性との交流はないし、殿下以外だとフィルだが、フィルは…。なんだか八方塞がりである。
ここ数日、殿下と2人でいた上に殿下が私を送ったことで、私と殿下の噂は大きくなっていた。すると、いつも通りローズ様が絡んできた。
「あなた!レオンハルト殿下とコソコソ会っているそうね!いやらしい!殿下の婚約者候補の私がいると言うのに、恥を知りなさい!!今度の夜会では私がパートナーなのよ!あなたの出る幕はないわ!!」
凄い勢いだ。美しい顔が怒りで歪むも、それすら可愛いこと。いかんいかん、私は表情を引き締め、
「ローズ様を誤解させてしまったこと申し訳ございません。私は先生の依頼で調べ物をしておりまして、殿下もたまたまお仕事の調べ物があったようで、たまたま図書館でご一緒になっただけですの。皆さま遠巻きに見ていらしたから、ご存じだとは思うのですが、私たちは挨拶程度しか言葉を交わしておりませんわ。」
「そ、うなの?で、でも、昨日殿下に送っていただいたじゃない!!」
「それもたまたま帰りにお会いいたしまして、私が時間を忘れ、閉館時間までいてしまい帰りが遅くなりまして、殿下は私のような臣下にもお優しいゆえ、たまたまお会いした私を送ると言ってくださったのです。それと、たまたま兄エリオットにも用事があったそうです。」
と、最後にツラっと嘘をつく。エル兄さまに会ったのは本当だからいいよね。
「そう…。誤解されるような行動は慎みなさい!」
と言ってローズ様は立ち去る。ローズ様って気性は荒いけど、けっこう単純なのよね。




