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ページ54 害虫駆除

 流れるお湯と一緒に疲れ切った心まで癒されていくよう。

 あぁ、気持ちいい。


 ここは運動部用に設置されたシャワールーム。


 あれからたくさん泣いた。

 愛生との再会を噛みしめ合い、先輩達と声を上げて泣いてしまった。


 私はあまり泣かない人間だと思ってたのにな。

 おかげで珍しく目元が腫れちゃった。


「いでよ、ウォーター!!」


「ブフォ──ッ!! 違う違う。ノエル、蛇口を捻らないとお湯は出ないよ」


 隣で奇声を上げた少女に愛生がお湯の出し方を教えてる。


 彼女は異世界から来たエルフらしい。

 聞いた時は、ついに愛生の頭がおかしくなったのかと思ったけど。

 昔から物語やファンタジーの話が大好きな子だったから。


 でもあんな怪物(エルダートレント)を見た後じゃ……。


 あの後、黒ずくめの男達も無事に全員捕まった。

 彼らもまた異世界から来たダークエルフらしい。


 ただ本人達がダークエルフではなくエルフだと強く主張しているようで、エルフってことにして欲しいと頼まれた。正直私達にはどっちでもいいんだけど。


 それよりも、よ。アイツは一体何なの!?

 ゲームの力なんて言われて納得できるわけないじゃない。


 運動場で殴られそうになった私を助け、あまつさえ、あの巨大な大樹の怪物を倒した少年の姿が頭から離れない。


『響ちゃんが本当に困った時には、助けに来てくれるかもね』


 お婆ちゃんのことを思い出してしまったせいだろうか。

 アイツが近くに来ると妙に胸が苦しくなってしまう。


「王子様、か……」


 そんなの居るわけないのにね。

 ため息を吐き、シャワーを止めた。


「響恋ちゃん、なんか言った?」


「何でもないわ。それより二人とも、いくら自家発電と給水タンクの水が使えるようになったからって、水は貴重なんだから遊んでないで早くしなさいよ」


「「はーい」なの」


 ここのお湯は愛生達が持ってきてくれたお弁当を頂いている間に、自衛隊の人達が使えるようにしてくれた。ただ、水は確保出来ているモノの、陸路での運搬が困難なため、現在は空路による運搬となり、それほど大量には運んでこれないらしい。


 いま私達が使わせてもらっているのは、元々この学校の給水タンクに残っていた水で、停電でポンプが稼働しなくなり使われていなかった分だ。


 量が限られている大切な水なのである。


「愛生、本当にもう大丈夫なの?」


「うん、もう何ともないよ。あっ、でも、先輩の方はもうちょっと待ってね」


 あの時は本当に寿命が縮むかと思った。

 愛生がなんと校長のケガを魔法で治してしまったのだ。


 魔法を使ったことにも驚いたけど、それ以上に立ち上がることも出来ずに顔色が真っ青だった愛生にはさすがに血の気が引いた。


「ええ、それはもちろんだけど……」


「ほ、本当だよっ!? ほらっ?」


 不安そうな私を察したのか、全裸で飛び跳ねる愛生にため息を吐く。

 どうしてこの子は身長でなく胸に栄養が行くのかしら。


「まったく魔法を使った後の愛生を見た時は、生きた心地がしなかったわよ」


「ごめん……」


「ふふん、アキは凄いの!」


 横から平らな胸を反り上げてドヤ顔の少女が告げた。

 どっからどう見ても小学生だ。


 透き通るように白く瑞々しい肌と幼い容姿。

 水を帯びて、より美しさの増したブロンドピンクの髪。

 耳以外は人間──外国人と言われても気付かないかもしれない。


「なんであんたが誇らしげなのよ」


「えへへ」


 この子もあの黒ずくめの男達と同じエルフなのに、どこかホッとしている私がいる。


 こんなにちっこいのに怪物と戦うなんて、嘘みたい。


「ほら、びしょ濡れじゃないの。愛生、ちょっと手伝って」


「うんっ」


 愛生に身体を拭かせ、私は髪を拭いてターバンを作る。

 しっとりとした手触り。ホント綺麗な髪ね。


「はい、完成っと」


「シャキーンッ!!」


 掛け声と共にバスタオルを巻いた少女が片腕を高く掲げてポーズを決める。

 本当にこれが同い年なのだろうかと頭が痛くなってきた。


「ノエルも中々やりおる……だが甘いっ! 本物の魔法少女の決めポーズを見せてあげるよ……シャキーン☆」


 何故か対抗心を燃やした愛生が、クルリと右足を軸に一回転して同じようにポーズを決める。


 頭が非常に痛い光景だった。

 いい年して彼女達には恥じらいと言うものがないのだろうか。


「「じぃーーー」」


「な、何よその眼は!? 私はやらないわよ?」


 そう言い私は脱衣所へ逃げ込んだ。


「えー、ぶーぶー」


「ぶーぶー」


 後ろからなんか聞こえるけど無視だ無視。

 あんな恥ずかしい真似、人前で出来るわけないでしょ。


 そそくさとドアを閉め、誰も居ない脱衣所を見渡す。

 愛生達もまだ変なポーズを決め合ってるみたいだし。

 人前では恥ずかしくて出来ないけど、今なら……。


「こう、だったかしら。……しゃ……シャキーン☆」


 その瞬間、私の自信のない声を掻き消すように──

 鍵を掛けていたはずの廊下側の扉が突然激しい音を立てて開け放たれた。


「響恋、無事かあああ────ッッ!?」


 私は脊髄反射で立てかけて合った消火器を掴み、


「死ねええええ──────ッッ!!!!」


「グフッ!!!?」


 乱入者はその場で息絶えたのだった。


「はあっ、はあっ……」


 み、見られた?

 何を……なんて恥ずかしくて言えないけど。


「響恋ちゃん、何の音!?」


「凄い音がしたのっ」


 すぐさま二人が慌ててシャワールームから出てくる。


「大丈夫よ。ちょっと害虫を駆除しただけだから」


「害虫……? って、影山くんっ!?」


 消火器をもろに受けて気絶する害虫もとい、影山に愛生が悲鳴を上げた。

 ちなみに奴は現在、パンツ一丁のほぼ全裸状態だ。


 確認するけど、ここは女子シャワールームの脱衣所である。

 まじあり得ないんだけど。こんな姿で一体何しに来たのよ。


 この変態は今日一日で何度私の心を掻き乱したら気が済むのかしら。

 お婆ちゃん、やっぱり私の勘違いだったみたい。

 ため息を吐く私を他所に──


「アキ、待つの」


 駆け寄ろうとする愛生にノエルが制止を掛けた。

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