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ページ52 血沸き肉踊ってこそ、中二病

「お前は知っているのだろう?」


 地に伏した男が悔し気に続ける。


「俺は急ぎ戻らねばならぬのだ。絶対に……」


 強い意志のこもった言葉だった。

 しかし、その後に発せられた言葉のは意外にも己の内にある僅かな不安を吐露するかのような声音だった。


「あの男は、ここをチキュウと言った……」


 悔しさに震え砂を握りしめる。


「教えろ冒険者。チキュウとは、ここは何処だ」


 人間に質問することそのものが屈辱のように、怒りと憎しみに満ちた目だった。


 ゴクリと喉が鳴る。

 事情はわからないが、この男の人間に対する怒りは本物だ。


 ノエルと同様。

 オンラインゲームの概念を知らない彼らに下手なことは言えない。

 ここで答えを間違えれば、取り返しのつかないことになるだろう。

 よく考えて言葉を選ぶべきだ。


 ゲーム時代にはなかったマナダウン。

 使い方の異なる精霊石。


 そしてここにきてもう一つ。

 シュトラスとは違う、新たなエルフの氏族──ノーグ。


 ゲームだった頃との差異が次から次へと──。

 オレ達は根本的に間違えているのではないのだろうか。


 本当にゲームの世界が現実に現れたのか?

 オレはずっと頭の片隅で燻っていたある可能性を遂に言葉にすることにした。


「ここは──、お前達が居た世界とは異なる異世界だ」


 男の返答はなかった。

 この男の背負っている物がどんなに重い物なのか、オレにはわからない。

 ただ、怒りに震え涙するその姿からは、種族は違えどやるせないものを感じた。


 偉そうな言葉使いも忘れ、目の前の男に素の言葉を綴るように口を開いた。


「オレの仲間にも一人エルフが居るんだ。家族も居るみたいだし、そいつもいつかは元の世界が恋しくなると思う。時間は掛かるかもしれないが、元の世界に帰してやる方法をオレは探すつもりでいる」


 在るかもわからない希望。

 それ故に口先だけの言葉は軽い。


「ふざけるなッ。エルフが人族の仲間なるなど……、それこそ信じられるわけがないだろッ!! 時代が変わろうと人族の在り方は変わらない。俺達は長い寿命の中でそれをずっと見てきた」


 恨み。嫉み。怨嗟。憎悪。

 様々な負の感情が溢れ出す。


「いつの時代も人は己の利益のために戦い、そして死んでいく愚かな種族だ。それは世界が変わろうと同じこと。人族に(くみ)するぐらいなら死んだ方がましだッ」


 オレの言葉なんかよりずっと重い言葉だった。

 非常に重い。なんせ実体験なのだから。

 人間の在り方まで問われては、高一のオレにはもう返す言葉もない。


 さらに考える暇すら与えてくれないのが現実である。

 キィ────────────ンと、突然耳をつんざくような高音が響き。


『あーあー、影山くん聞こえるかい』


「なんだよいきなり……」


 少々ハウリングしたその呑気な声に、オレはヘリを仰ぎ見た。


 ガサゴソと物音がし、ノエルがマイクを奪い取ったらしい。

 遠くで佐伯さんがシートベルトを連呼している。


『ユウトうしろッ、後ろなの!』


「は? うし……ろうおぁぃっ!?」


「なッ──」


 ルックと二人、揃って顔を向け言葉を失う。


 樹齢何千年だってぐらいの大樹。

 全長二十メートルほどだろうか、巨大な大樹がそこにあったのだ。

 例えるなら屋久島の杉の木。


 それが運動場のフェンス越しにオレ達をジッと見下ろしていた。

 まるでずっと昔からそこに在ったとでも言わんばかりに──。


 周囲の高層ビルに並ぶ大樹の違和感が半端じゃない。


『エルダートレントなの。今すぐ逃げないとユウトなんてプチッなの』


「おい、説明が雑過ぎんだろ。プチってなんだよプチって」


 ──トレント。

 それはジッと動かず、ただ自分の近くに寄ってきた得物を木の根や枝で仕留め、その血肉を養分に代えて成長する木のモンスターだ。


 その上位種エルダートレントは、自らから動いて得物を探しにいく。

 ゲーム内での脅威度は村や街が一夜で亡ぶレベルらしい。


「あのような魔物が何故ここに……、ダメだ……もう何もかも終わりだ……」


 分かりやすくルックが絶望に暮れる。

 その瞬間奴との間の地面でピキッと音がした。

 大地が割れるような音。


 嫌な予感がしてルックを後方へ投げ飛ばした。


「何を!?」


 投げ飛ばしたのとほぼ同時。

 大地をこじ開けて電柱ほどの円錐状の『木の根』が、そこに在ったモノを串刺しにする勢いで姿を現した。


「チッ」


 その光景にルックが目を剥き、オレは舌打ちした。

 投げ飛ばしたせいで無駄に攻撃を食らい、ただでさえ布面積が狭かった制服の背中部分が裂けた。


 くそう、後でルックに制服代請求しよう。


 頭上で折り返した『木の根』が今度はオレの迫る。

 丁度いい、どうやら狙いをオレに定めたようだ。

 それを難なく躱して声を張った。


「おい、そこで勝手に絶望してるエルフ!!」


 間髪入れずに今度は前方二ヵ所で地面が割れる音がした。


「何でそこまで人間を嫌うのかは知らないが、オレはまだお前を諦めてねえぞ」


「っ……」


 前方から突き出して来た二本の『木の根』を躱し、さらに続ける。


「この世界は、確かにお前の言う多くの戦いの上に成り立っている世界だ」


 躱した二本が折り返すのとは別に、今度は足元からもピキリ。

 動きはワンパターンだが、得物を追い詰めるよう徐々に数を増していく。


「だからこそ、人間は戦いで多くの命を失い、そして学んだ」


 前方から二本、足元から一本。

 それらを横に飛ぶことで躱す。


「ここ広島は、それを象徴する土地でもある!」


 そこら一帯から『木の根』がどんどん生えてくる。

 次から次へと数を増す『木の根』をひたすら避け続けた。


「人間は平和を願い、手を取り合うことを選んだんだ!」


「ば、バカな……。何故これほどの攻撃を避け続けられる!?」


「この世界にだって、色んな種族や人種の人達が一緒になって暮らしてる。そんな風に自分から壁を作ってたら、ちょっとぐらい長生きだからって一生誰とも分かり合えることなんてないだろうがあああ!!!」


「……っ!」


 他人に信じてもらいたければ──

 まずは自分が相手を信じなくては何も始まらない。


 再び内なる己を身にまとい、言葉を綴る。


「異世界から訪れしエルフよ。今この時、少しでも生を望むならば、汝の先を行く人族を信じ、今一度矛を収めよ」


 力尽くで叩き潰すこともできた。

 けどそれじゃ何の解決にもならない。

 ルックを庇い、説得を続けることで初めて信じるに値する言葉となる。


「……ここは任せる」


 奴は静かにそれだけ告げると、響恋の方へと駆けて行った。

 きっと何かあれば助けるつもりでいるのだろう。


「ようやくこれで思う存分戦えるな」


 オレは短剣(ナイフ)を抜き、すべての『木の根』を切り落とした。


 さあ、ここからが本番だ。

 最高の見せ場に最高の舞台。

 決め台詞はそう、やっぱりこの言葉。


「血沸き肉踊ってこそ、中二病」

ノエル「『評価』なんて食べれないの」


愛生「ノエル、有名になって書籍化されたらパンがいっぱい食べられるよ」


ノエル「みんな今すぐ『評価』と『ブックマーク』するの!!」

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