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ページ51 蛇と蛙の物語

 むかーし、むかし。

 ある異世界に隣接する二つの国がありました。


 年老いた老齢のスネーク王は言いました。


「おぉ、久しいなフロッグ王よ。先代を亡くされたと聞くが……息災か」


 対する年若きフロッグ王。


「お久しぶりでございますスネーク王。父の病については思うところがありますが、如何せんいつまれも子供のようには参りませぬ。民のため、国のため、粉骨砕身勤めを果たす所存でございます」


「ほっほっほっ。頼もしくなったもんじゃ」


「此度の会談、折り入って賢王たるスネーク王に少々知恵をお借りしたく参上した次第でございます」


「ふむ、ワシも先代には大変世話になった故、出し惜しみするつもりは毛頭ない。存分にこの老骨めを扱き使うが良い」


「お心遣い大変痛み入ります」


「して、どのような困りごとを抱えておるのじゃ」


「実は我国は近年人口増加に伴い、食料不足に瀕しております」


「ふむ」


「父の代より手は尽くしておりましたが、未だ解決の糸口すら見つからず……」


「相分かった。但し、この件は先代にも解決できなかった難問じゃ。ワシから先代には便宜上申せなかった内容故、心して聞かれよ」


 若きフロッグ王の国は、約三割ほどを森で覆われていた。

 ただそこには他ではあまり見ることのないエルフの里があり、有事の際には里から徴兵するという、お互い持ちつ持たれつの共存関係を築きあげていた。


 人族の十倍以上の時を生きるエルフ達は、長い寿命の中で研ぎ澄まされた身体能力と高い魔力を持ち、一度戦になればその戦力は一騎当千、計り知れないものとなった。


 故にこの国はエルフのおかげで繁栄したとも言える。

 先王はそれを重々承知していたため、森にだけは決して手を出すことはしなかったのだが。


 スネーク王はある提案をする。


「民に対して食料を生産するための土地が足りてないから民が苦しむのじゃ。エルフも国の民である。ならば互いに協力すべきであろう」


 故に森を切り開き、田畑を広げよと──。

 会談のあと、フロッグ王はエルフの族長に向けて使者を送った。


『民が飢えている。王名により森を半分ほど切り開く。森を明け渡せ』


 これにはさすがに里の者達も激怒した。


「ふざけるなッ。何が王名だ! 盟約を忘れたとは言わさぬぞ。森を汚さぬ限り我らは人族に力を貸して来たはずだ。それを今さら……」


「ルックの言う通りだ。民が飢えているというのなら、数を減らせばいいではないか。我らが森を明け渡す道理はない!」


「自分達で減らせぬというのなら我らが減らしてやるまでだ。そうだろルック」


「ああ、みんな力を貸してくれ」


 エルフの中でも若い連中が声を上げる中、年老いた族長が重い口を開く。


「……ならぬ」


 そのたった一言で場が静まり返る。


 長きを生きるエルフにとって、長の言葉はそれだけ重い。

 平時であれば、族長が口を開くことなどあり得ないのだ。


「我らエルフは森を護り、森に生かされる存在。そのために人族と共に生き、協力してきた。森のため、同胞のため、今は堪えるのだ」


 それでもルックと呼ばれた男だけは食い下がった。


「その大切な森を明け渡せって言ってんだぞ」


「ならぬ。我らとて、この国の民。国が苦しんでいるというのであれば、我らもそれを分かち合うべきである」


「くっ……」


 そして、森の伐採が始まった。


 スネーク王からも人手を出すという申し出があり、これをフロッグ王が有難く受け入れた。その規模は凡そ二千人を超えるものとなったが、内七割もの兵がスネーク軍で締めていたという。


 初めは順調に進んでいた森林伐採。

 次から次へと年を重ねた大樹が切り倒されていく光景を、エルフ達は涙を呑んで見守った。


 しかし全体の三分の一ほどの伐採が終わった頃、ついに事件が起きた。

 ある晩伐採に来ていた人族の男共が酒に酔って、エルフの女を襲ったのである。


 そして、まるで謀られていたかのように族長の息子であるルックがその場に居合わせ、これを切り伏せてしまったのが騒動の始まりであった。


 人族はこれをエルフの反乱と広め、あれよあれよと森に戦火が広がった。

 初めはだんまりを決め込んでいた族長も、同胞が次第に被害に遭うにつれ黙ってはいられなくなった。


 こうして二千人以上の人族と、五百人にも満たないエルフ達との戦いの幕が切って落とされたのである。


 伐採に参加していた人族のうち、何故か半数以上が武器を所持していたため、エルフ側にもそれなりの被害をもたらしたが、地の利を生かした戦いで人族を半数以上減らしたところで撤退となった。


 エルフの勝利である。


 しかしその代償は大きく、すでに森はかなり切り開かれてしまった上、戦で多くの者を殺めた一部エルフの精鋭達は、その返り血で自身の肌を焦がし、消えることのない穢れをまとってしまった。


 エルフの中でも高い魔力と並外れた身体能力を持ち、人族をまるで鬼神のように次から次へと殺めていく姿に恐れをなし、彼らのことを総じてこう呼んだ。


 ──ダークエルフ、と。






「フロッグ王よ。国に反旗を翻す逆賊達をこのままのさばらせて置くつもりか? それは民の恐怖を煽り、いずれ国に大きな混乱を招くことになるぞ」


「しかし、奴らは数こそ少ないものの高い身体能力と魔力、その上地の利まで活かしてきます。正直、我手には余る存在……」


「ふむ。乗りかかった船だ。ワシからも前回の三倍、いや五倍の兵を出そう。手強いというのであれば物量で押し潰すまでよ」


「何から何までかたじけない。このご恩はいつか必ず……」


「良い良い。ワシも先王には随分と世話になったと言ったであろう。今はその借りを返しているまでよ、気にするでないわ」


 深く、深く感謝するフロッグ王であった。






「報告します! 人族総勢約八千。森を取り囲み、火を放ちました」


 その報告にルックは立ち上がる。

 きっと族長である親父はこれを危惧し、あの時止めたのだ。

 だが、それももう遅い。


「親父、自分の責任は自分で取る」


「戯け。もはや誰の責任というわけでもない。一族総出で迎え撃つ」


 こうして二度目の戦いが始まった。


「願わくば、一人でも生き残ってくれることを願う。エルフの血は決して絶やしてはならぬ……」


 その戦禍の最中、天変地異とも呼べる異世界転移によって、一部のエルフ達が忽然と姿を消したらしいが、その真相を知る者はいなかった。




 この(のち)、エルフ達に勝利を収めたフロッグ王国は、エルフという大きな戦力を失い、翌年にはスネーク王国によって攻め滅ぼされてしまうのだが、それはまた別のお話──。

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