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ページ41 プランBだ!

 午前零時、夜の闇に紛れ作戦は開始された。


 ヒュヒュヒューーーーン。


 体育館の二階の窓から放たれたロケット花火が、真夜中の夜空を次々に駆け抜けていく音がした。


 ──始まった。

 世良先輩指揮する陽動班による開始の合図だ。


 体育館の舞台裏。

 月明りすら入って来ない真っ暗なその場所で、合図となるその音を聞き、私は周囲の男達を見渡して頷いた。


 何故学校にロケット花火を持ってきている生徒がいるのか甚だ疑問ではあるが、今回に限りジャー先も口を噤んでくれた。


 帰りにでもぶっ放すつもりだったのだろうか。

 勉強のストレスもあるだろうけど、ぶっ飛んだ奴も居た者だなと私は先生方の気苦労を垣間見た気がした。


「古賀、絶対にみんなから離れるな」


「はい!」


 ジャー先の息を潜めた最終確認。

 そう。私は脱走班の中にいた。






 ◆ ◇ ◆






『私も連れて行って下さい!』


 作戦会議中、私は脱走班のリーダーを務める森先輩に頭を下げていた。


『ちょっと待って、古賀ちゃんが行く必要はないでしょ!?』


『俺も反対だ。危険過ぎる。一年の、それも女子がやることじゃない』


 世良先輩とジャー先の言葉に唇を噛みしめた。

 今日ばかりは自分が女であることが歯がゆく思う。

 見つかれば何をされるかわからないんだぞ、わかっているのか?

 足手まといは必要ない、ジャー先の顔にはそう書いてあった。


 今回の脱走は助けを呼んでくることが目的だ。

 けれど、失敗は許されない。残る者の命が掛かっているのだから。

 そのためには少しでも成功確率を上げておく必要がある。


 それでも私は顔を横に振った。


 今日追加で隔離された生徒はいなかった。

 普段なら大勢の生徒が登校してくるはずなのに。


 ずっと隔離されていた私達にその理由を知るすべはなかった。


 けれど──

 ロケット花火の打ち合わせで体育館の二階に登った生徒達が、そこから見える光景に悲鳴を上げたのだ。


 夜空にいくつも立ち登る黒煙の姿。

 もはや私達の知らないところで何かが起きているのは明白だった。

 私はここに閉じ込められてから、ずっと考えていたことを初めて口にした。


『……友達が、心配なんです』


 その一言に世良先輩が顔を歪めた。

 彼女の気持ちが痛いほど胸に突き刺さってくる。


『足手まといだと判断したら置いていく』


 意外だった。

 ずっと黙って私を睨んでいた森先輩がすげなくそう告げたのだ。


『森、勝手に決めるな。教師は生徒を守る義務がある。彼女は連れていけない』


『あぁん? 何が守る義務があるだァ? 呑気に眠りこけていた奴がよく言うよなァおい』


『お前それが教師に対する口の利き方か!?』


『うるせぇ! 今はそんなことどうでもいいだろ!? こいつが行くっつってんだから、そんなに守りたきゃテメェが守りゃいいだろ』


 凄い剣幕で怒鳴った森先輩が急に私を指差し、ビクッてなった。

 いきなりこっちを指差さないで欲しい……あーもう、びっくりした。


『ちょっと二人共落ち着いてよ、古賀ちゃんが怯えてるじゃない』


『チッ』


『す、すまん』


『……』






 ◆ ◇ ◆






 体育館の入口とは反対側、舞台裏にある非常用出口に私達は居た。


 ジャー先が裏口のドアノブに手を掛ける。

 錆びた鉄扉がギギギと音を立てて少しだけ押し開き、外の様子を伺う。

 再びこちらに振り向いたジャー先が頷くと行動は開始された。


 脱走班は六人二列縦隊、私以外は体力のある者が選ばれた。


 先頭がジャー先と森先輩。

 間に三年の野球部二人を挟んで殿に私と男性教員だ。


 暗闇の校内。足音を殺して小走りで移動するみんなを私は追いかけた。

 体育館と武道場の間にある狭い通路を抜ければ、裏門まで一直線。

 なん、だけど……。


「はぁ、はぁっ……」


 極度の緊張と日頃の運動不足のせいだろう。

 数十メートルほど移動しただけで、私は息を上げていた。


 さすがに先生や三年生達は、小走りでも速かった。

 私は初めから全力疾走である。


 親友がたまにやるランニング姿が頭の中を過る。

 距離もちょうどいいと、彼女は自分の家から私の家までを一周して帰るというコースをよく走る。


 そんな彼女のことを、私は暖房の効いた部屋から眺めていた。

 こんなことなら私も少しは体力を付けておけばよかった。

 そんなことを考えていると、


「……っ」


 チラリと振り返った森先輩がスピードを緩めた。

 悔しい。足手まといは置いていくって言われたのに。


 武道場の角で全員一旦停止した。

 ジャー先が周囲を確認し、頷く。


 私はその間に深呼吸で無理やり息を整えた。


 よかった。なんとかいけそう。

 この角を曲がればすぐに裏門だ。


 前の4人が角から駆け出し、私もそれに続いた──直後。




 ヒュゥ~~~~~~~~~ンッ、ガサッ!




 突然頭上を光の閃光が駆け抜けていった。

 流れ星なんてロマンティックなモノじゃない。


 私の頭上を飛び越え、先頭を行くジャー先達の少し手前で突き刺さったそれは、猛々しい炎を上げて私達をその場に釘付けにした。


 ──火矢。


 まずいまずいまずい。

 足音がたくさん近づいてくる!


 はやる気持ちで足を進めようとするが、前の背中が進まない。

 何故か私以外の五人は足を止めていた。


 今度は何?

 ちょっと、前見えないんだけど!!


「──やはり愚か。死にに行くようなものを……」


「どういう意味だ!」


 森先輩の問いに応えるように、火矢の向こう、闇の中から漆黒の男が現れた。

 夕方森先輩が殴りかかったあのイケメンの男だ。


 そしてそれを見ようとみんなの後ろでぴょんぴょん飛び跳ねる私。

 みんな背高すぎ。


「知る必要はない」


「チッ。プランBだ!」


 森先輩が顔を歪め、吐き捨てるように告げた。

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