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ページ35 忍び寄る影

 時は少し遡る。


 私は古賀響恋(こがきょうこ)。私立赤神学園高等学校、一年。

 私がこの高校を選んだ理由は今も昔も変わらない。


『響恋ちゃん、わたし赤神学園に行く』


 当時から仲の良かった親友の愛生が、無謀にも広島で一、二を争うこの高校に進学すると言い出したからだ。


 でもそれは、学年で常に上位をキープしていた私に合わせてのことだった。

 そのことを知った時は、素直に嬉しくて守ってあげたいと思った。


 私が苦労して教えた甲斐あって愛生も無事入学が決まり、クラスも一緒とわかった時には二人して泣いて喜んだモノだ。


 愛生ともっと一緒に居たくて、一緒に寮に入れるように親を説得した。

 レベルの高い高校に入るんだから、ご褒美ぐらいあってもいいと思う。


 けど、努力の量が大きかった愛生は許可され、合格がわかりきっていた私は却下された。同じ結果なのに酷い話よ。


 家が学校に近いのなんて関係ないじゃない!


 親とは子供が乗り越えるべき壁なのかもしれない。

 あの頭の固いおっさんが謝るまでは、二度と口を利いてやるものか。


 学校が終わってそのまま帰ると家で鉢合わせてしまうのが嫌で、週末に愛生のいる寮に泊まりに行く時以外は、図書室で時間を潰してから帰るのが日課になっている。


 愛生はいいって言ってくれるけど、一緒に寮に入る約束をして二人で頑張ったのに、本当に悪いことをした。


「はぁ、そろそろ帰ろうかな……」


 窓の外に目をやると、先程までグラウンドで部活に明け暮れていた運動部の生徒達も居なくなり、茜色の空が地平線の彼方に沈みかけている。


 受付で本に噛り付いている図書委員の女子生徒を後目に部屋を後にした。

 あの静かな空間で時を共にする数少ない同志だ。


「よっぽど本が好きなのね」


 静かで勉強も捗るあの場所は、私も気に入っている。

 夕暮れの校舎はシーンと静まり返っていて、少し肌寒く感じた。


 もうすぐ中間テストだけど、愛生は大丈夫なのかしら。

 今日もゲームのために急いで帰ってたし、ちょっと心配になってくる。

 週末は勉強漬けの刑ね。


 階段を下りて下駄箱へ向かっていると、ふと人の気配を感じた。

 立ち止まり、振り返ってみると今しがた歩いてきた廊下の先から夜の闇が迫ってきている。


 ──気のせいかしら。


 首を傾げて歩みを進めようとした、その時だった。

 突然右肩からスッと首元に腕が生えてきた。


「え?」


 物音ひとつしなかった。

 立ち止まったのも、ただの違和感みたいなもの。


「動くな」


 低い男の声。

 その一言で私の身体は凍り付くように動きを止めた。


「我々はこの城の主をすでに捕獲した。素直に降伏すれば手荒な真似はしない」


 我々?

 城の主!?


 意味がわからない。

 何を言ってるの、この男は。

 他にも居るってこと?


「──っ」


 心臓が耳の後ろの辺りで激しく脈を打つ。

 突き付けられたナイフによる恐怖で声帯が縮んで声が出ない。


 コクコクと頷くと、腕は静かに戻っていった。


 胸の鼓動が収まらない。

 他人に生殺与奪の権利を握られるというのは、こうまで生きた心地がしないものだろうか。


 恐る恐る振り向いて男を視界に収めた。

 大きい。身長は百九十を超えているのではないだろうか。


 痩せ型というより……かなり引き締まった筋肉質。

 手には刃渡り三十センチほどの短剣(ナイフ)が握られており、選択次第では本当に殺されていたのではないかとすら思えてくる。


 そして何より、気味が悪い。

 どこにも肌を露出している部分が見当たらないのだ。


 黒い包帯のような布が全身を覆い隠し、その上から戦闘服。

 顔もわからない。唯一見える目元も濃い褐色という有様だ。


 隙間から覗く白い髪が、異常なまでに畏怖の念を抱かさせ、まるで夜の闇に溶け込むような雰囲気さえ醸し出している。


「そのまま外に出て、あの講堂へ向かえ」


 簡素に告げた視線の先は、窓越しに見える体育館。


 ……どうしよ。

 今なら大声を上げることぐらいは出来る。

 けど、この時間じゃ誰も居ないかもしれない。


 街中じゃあるまいし、強盗や強姦がわざわざ校舎まで入って来るとは考えにくいわよね。


 何にせよ、私は男の言葉を信じるしかなかった。

 もう一度頷いてから歩き出すと、男は後ろからついて来た。


 短剣(ナイフ)を持った人間(・・)に後ろからついて来られるというのは、想像以上に恐怖ね。

 不幸中の幸いなのは、ここに愛生が居ないということぐらいかしら。


 私は震える腕を必死にさすりながら、体育館に向かったのだった。

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