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ページ34 救われた命

 食事を続けるオレ達の下に、足音が近づいてきた。


「あー、楽しく食事してるとこすまないが、ちょっといいか?」


 疲れ気味のその顎鬚と隊服には些か見覚えがある。

 色んな意味で出来ればもう会いたくなかった。


「はい……」


「と、その前に……。おい坊主、ちゃんと謝ったのか?」


「あ、当たり前じゃないですか」


 がしっと肩に腕を回され、顔が引き()る。

 昨夜オレが診察室に押し入った件だろう。

 散々お説教を食らったので、ここで謝ってなかったら大変なことになる。

 主にオレが。


「影山くん……お知り合い?」


「あぁ、この人は親父の知り合いで、この避難所を任されてる内藤さんだよ」


「嬢ちゃん達も昨日は災難だったな」


 災難が何を指していたのか。

 察しのいいノエルが、ここぞとばかりにオレから奪ったロールパンを掲げ、ドヤ顔で言い放った。


「責任を取ってもらうから大丈夫なのっ」


「せ、せきっ……。おいっ、坊主。子供に手を出すのは犯罪だからな。わかってるな!? あぁん?」


 途端に顔を近づけて睨みを利かせてくる内藤さん。

 どうやらノエルのことを、見た目通り小学生ぐらいと勘違いしたらしい。

 その顔怖いからホントやめて。


「ちょっ、誤解、誤解ですってっ! コイツ、これでもオレと同い年(タメ)ですよ!」


「お、おう。そうだったか。こりゃあすまねえな嬢ちゃん」


「むぅ……」


 よくある話だけど、エルフは人より成長が遅いんじゃないのだろうか。

 不服顔を浮かべるノエルを見て思った。


「だがな、日本では男は十八歳にならないと結婚出来ないんだ。それに一夫多妻制も認められていない。それ以前に、だ……生れてこの方一度も彼女のいない俺がそんなことは絶対に許さねえぞ。なぁ坊主」


 理不尽な方向に憎悪(ヘイト)が上がっていた。

 この人見た目四十ぐらいなのに、彼女が居たことがないらしい。

 そんな情報知りたくなかったよ。


「やだなぁ。冗談に決まってるじゃないですか。ははは……」


 自衛隊は九割男って聞くし、そっちの気が無いだけマシなのかもしれない。

 そんなオレ達にノエルが拗ねるように爆弾を投下しやがった。


「昨日は了承したの」


 してねえええっ。


「ほぅ。なぁ、なんで顔を逸らすんだ? 今日はまだ始まったばかりだし、あっちで男同士楽しく語り合おうじゃねえか」


 まずいまずいまずいっ!

 肩に回された野太い腕の重圧が伸し掛かってくる。

 それいじめっ子を体育館裏に呼び出すやつだ。

 絶対口で語るやつじゃないから!


「いやいや、崩落の後片付けとか色々忙しいのに、オレなんかがお邪魔してご迷惑かけるわけにはいきませんからっ」


 後三年以内にノエルは元の世界に帰す。

 オレは心の中でそう誓った。


「おう、そうだったそうだった」


 何やら思い出したらしい内藤さんが、急にオレから離れて後ろを振り返る。

 そして、「おい」と声を掛け歩み寄って来た数人の男女。

 誰も彼も見たことのない人達である。

 今度はなんだ?


「坊主、コイツ等はお前が今朝片付けた瓦礫の下に埋まっていた死体の遺族だ」


「え……」


「あの時たまたまここから瓦礫を片付けてるお前を見ていたらしくてな、一言礼を言いたいんだとよ」


 みんなあの時の野球帽を被った男の子と同じように、戦車が動かせなかったせいで、ここで涙を飲んでいたらしい。


「早く妻を出してあげたかったんだ。本当にありがとう」


「うちも……お爺ちゃんが生き埋めになって。……ありがとうございました」


「あの人とは来月結婚する予定だったの。出してくれてありがとうね」


 そう言って、何人もの人達から代わる代わるにお礼を言われた。

 中には子供を亡くして、泣きながら何度も頭を下げる母親やこれから第二の人生を共に歩むはずだったと零すお婆さんまで。


 誰も彼もがオレにありがとうと──。

 心臓が握り潰されるように胸が苦しかった。


 ──辞めてくれ。


 みんなオレのせいで死んだんだ。

 オレがもっと早く戦っていれば……。


 それはオレが向き合わないといけない辛い現実だった。


 この人達は知らないのだ。

 オレがモンスターを倒したことを。

 オレにはゲームの力があることを……。


 だが唯一、この場にソレを知っている大人(・・)がいた。

 その人はオレが俯いて立ち尽くしている横から、肩に腕を回してオレだけに聞こえる声で言った。


「坊主よぉ、怪物共が現れるようになって何人の人間が死んだか知ってっか?」


「……」


「俺が知ってるだけでも万単位だ。俺の同僚も昨日死んだ。だから敢えて言うが、死んだ奴らを助けられなかったと思うのはただの驕りだぞ。お前はそんなにすごかねぇよ」


「……っ」


「見ろ。こいつ等だけじゃねえ。お前は昨日、この避難所にいる全ての人達を救ったんだ」


「はぃっ……」


 涙がしょっぱい。

 いくら洟を啜っても鼻水が垂れてくる。


 胸を張れと、言われた気がした。

 今朝会ったお婆さんにも同じことを言われた。


 誰にも言えなくて本当に、本当に辛かった。

 苦しかった。逃げ出したかった。


 でも、そんなオレを佐伯さんとノエルが繋ぎ止めてくれた。

 周りを見ろって、沙希さんや内藤さんが教えてくれた。


 すぅっとそれまで抱えていた重荷が軽くなったような気がした。

 気付けばオレには守りたいと思える人達がたくさん出来ていた。


 強く、なりたいな……。






 それからしばらくして、連れてきた人達を一先ず解散させた内藤さんが、今度は何だか申し訳なさそうに口を開いた。


「すまんすまん。それで俺の話はまだ終わってないんだが、えっと……そっちの嬢ちゃんが佐伯愛生さんで合ってるか?」


「……はい」


 もらい泣きしてたのかな。

 目元を少し赤くした佐伯さんが返事をする。


「あれ? 内藤さん、佐伯さんのことを知ってるんですか?」


「ああ、名前だけな。まだ一般回線が繋がっている頃に影山さんから連絡をもらったんだ。坊主がこの病院に運ばれたから、一緒にいる佐伯愛生って子のご両親を探して欲しいと頼まれたんだよ」


「なるほど」


 私用だろうに。

 親父がそんなことまでしてくれるとは思わなかったよ。


「それでこっちでも手は尽くしたんだが……、今のところこの病院に佐伯という夫婦は見つかってないんだ。近くの避難所にも手を回してるが、そっちの方はまだ時間がかかると思う。役に立てなくてすまない」


「いえっ、探してもらえているだけでも助かります。ありがとうございました」


 佐伯さんが頭を下げる。

 さすがに店長達みたいに運よく会えたりはしないか。

 オレも手伝うって決めたことだし、頑張ろう。


「最後に悪いが、お前達に合って欲しい人がいるんだ。朝食が済んだらでいいから、後で本部のテントまで来てくれないか?」




 こうしてオレ達は、空を飛んだ(・・・・・)のである。

次話よりしばらく語り部が古賀響恋に変わります。

その関係で時間軸も影山がケガをした日に遡ります。

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