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ページ33 『友愛の証』

 場所は変わりオレ達は良く晴れた青空の下、配布されたロールパンと少し冷えたスープを車道のど真ん中で頂くという、普段ではなかなか味わえない非日常を堪能していた。


 店長達ボランティア組は、崩落現場の撤去作業を遅くまで手伝っていたらしく、今朝の朝食作りは遠慮したらしい。


 あの後オレは沙希さんに頼んで右腕の抜糸をしてもらった。


 かなり疑いの眼差しで見られたけど、上からの「詮索するな」という言葉が効いてるらしく、事無きを得た。


 今はガーゼの上から包帯が巻かれている。

 抜糸の痕すらもう治ってるけど、中二的にちょっとカッコイイのでそのままにしておくことにした。


「影山くんみてみて。もう戦車とか片付けられてるよ。あれってどうやって動かしたんだろう?」


「さ、さあ? 他の戦車に牽引させて引っ張ったんじゃないかな。あはは……」


「なるほどぉ」


 今日はノエルの隣に佐伯さんが座り、オレが正面だ。

 特に意味はない。たぶん……。


「アキアキ、このパン白くてふかふかなのっ」


「これ付けて食べると美味しいよ」


「こ、これは……まさかバターなの!?」


 ノエルが受け取ったポーションバターに目を見開いた。

 いや、そんなに珍しい物でもないだろ。


「ノエルの世界にもあっただろ?」


「バターは高級過ぎて、食べるどころか見たこともないの!」


「……言われてみれば、わたしもゲームで香辛料や調味料は見たことないなぁ~。どうやって作ってたんだろう?」


「いや、そこはゲームだし……」


 ゲームでも空腹を満たす食べ物はあったけど、どれも購入すると完成品がアイテム欄に追加されるだけだった。


 それにパンもベーグルのような形で、中は茶色いパンが主流だ。

 確かに食パンとかもあるにはあった。でも、有益な効果もないのに値段が微妙に高いせいで、手を出す奴はほとんどいなかったと思う。


「ノエルはずっと里から出たことがなかったの。ファニルが作ったパンは、はむっ、いつももぐもぐ……んくて、もぐもぐかったの」


 ノエルはバターがお気に召したよう。

 食べる手が止まらず、途中から何言ってるかさっぱりだ。


「頼むから食うか喋るかどっちかにしてくれ」


「ん……。パンもバターもすっごくおいしいの。ノエルここの子になるの!」


 何がここの子になるだ。

 それさっきと言ってること違うだろ。


「そうか。ただな、ここの子になるとあんな風に炎天下の中、朝から肉体労働させられるんだぞ」


 そう言って、今朝オレが端に避けた瓦礫の山を別のところに運ぶ自衛隊の人達に視線をやった。


 するとわかりやすくノエルの顔が青ざめていくではないか。


「あはは。影山くんあんまりいじめないでよ。はい、ノエルさん。わたしのパンあげるから元気出してっ」


「わあ! アキ、ありがとうなのぉ。じぃー………………」


「おい、何だよその目は」


「ユウトは罰としてパンを没収なのっ。ていっ」


「あ、こらっ。お前どんだけ食う気だよ」


「ふふん、代わりにこれをあげるの。はい、アキもなの」


 そう言ってノエルが差し出したのは一つのペンダントだった。


「ん……? これって今朝お前が作ってたやつじゃ……」


「はいなの。二人にもらって欲しいの」


 見た目はノエルの持ってる精霊石のペンダントによく似ている。

 ただこちらは、宝石のような透き通るアクアマリンのティアドロップだ。

 作りは同じような感じで、紐で結わえられただけの簡素な作りである。


「え、いいの……?」


 さすがに唐突過ぎた。

 佐伯さんもノエルの手の前でどうしていいか戸惑っている。

 オレも配給でもらったパンと交換するのは気が引けるんだが。


「これは里に伝わる『友愛の証』なの。精霊のように心を通わすことができると言われていて、ノエルを信じて戦ってくれたユウトと命を救ってくれたアキに心から感謝を込めて作ったの」


「おおう。マジか、ありがとな」


 やばい、めっちゃ嬉しい。

 家族以外から初めて贈り物をもらったかも。


 受け取って太陽の日差しに(かざ)してみた。

 海のように青く透き通る石の中に、何か紋章のような物が彫り込まれている。


 一体どうやって作ったのだろうか。

 まるで3Dレーザープリントされたクリスタルのよう。


「わあ、ノエルさんありがとう」


 佐伯さんが感謝の言葉を口にする。

 するとノエルは改めて佐伯さんに向き直り、首を横に振った。


「『ノエル』なの」


『友愛の証』

 それは精霊のように心を通わす友に送られる物。


 親しい友との間に敬称など不要ということだろう。

 佐伯さんも察したようでにっこり笑って頷いた。


「うんっ、ありがと。ノエル」


「これで気兼ねなくパンが食べれるの。はむっ」


 ノエルはノエルで渡すタイミングを見計らっていたらしい。

 パンを両手に抱え貪る姿を眺めながら、コイツが普通にフードを取って出歩ける日がいつか来るといいなと思った。

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