ページ30 迸る男心
東の空に明けの明星が登る闇の世界。今宵、覚醒の時──
なんて中二チックなセリフが似合いそうな静かな早朝。
硬い地面で寝付けなかったオレは、一人天幕を抜け出して散歩に繰り出した。
──時刻は午前四時過ぎ。
すれ違う自衛隊の人に挨拶して、ドン引きされること意外は異常ナシ。
理由はお察し。昨夜テントに乗り込んだ件で顔を覚えられてしまった。
こんな時間でも起きている人達は意外と多いよう。
まあ突然モンスターの襲撃を受ければ、みんな眠れないのだろう。
オレもまたその一人なのかもしれない。
佐伯さんと話してから、オレはどうにも興奮が収まらない。
それはゲームの力を手にしたという事実が、モンスターを倒し佐伯さんと話したことで確信に変わったからだ。
例えるなら、かなり前に予約した待望のゲームソフトが、発売日に届いたけど、明日から学年末テストだった時の気分だ。
それも進級が掛かってるレベルのやつ。
やっちゃダメなのはわかってる。
だが、冒険は男のロマンである。
誰がこの迸る男心を抑えられようか。
ちょっとだけ。ちょっとだけだから!
そんなわけで足取りも軽い。
何か面白そうなことがないかと探していた。
「お母さんが居るって言ってるだろ!? もういいっ!!」
──ん?
辿り着いたのは昨夜の崩落現場。
走り去る小学校低学年ぐらいの男の子に足を止めた。
現場の方は作業を終了したのか、ブルーシートが被せてある。
周囲を見渡せば、避難民達が思い思いに過ごしているようだ。
そんな中、日も明けぬ夜中にも関わらず、どうも穏やかではない。
特徴としては、赤い広島ではお馴染みの野球帽を被っていたぐらいか。
オレに首を突っ込まないという選択肢はなかった。
「おはようございます。あの、どうしたんですか?」
「あぁ、君か」
顔を見ただけで誰だかわかるのはちょっと複雑である。
昨日のことを思い出して少し気恥しくなった。
「それが、ここには母親と一緒に来たらしいんだけど、崩落以降姿が見えないらしいんだ。それで『絶対下敷きになってるから早く助けてくれ』って、頑として聞かないんだ」
「なるほど……」
「こっちも作業は一時過ぎまで続けたんだが、戦車だけはどうにも動かせなくてな……。明日にでも他の戦車と牽引して引っ張る予定なんだ」
まあそれまで待てというのは、子供には酷だろう。
「もし下敷きになっていた場合に、生存の可能性はあるんですか?」
「一応レーダーで念入りに調べたが、残念ながら生存者は……」
「そうですか……」
話が重いよ。
残酷な未来しか見えない。
もっとなんかこう。
力を使って生存者を助ける的なモノを期待していたんだ。
でもまあ、話を聞いたからには何もしないわけにはいかないよな。
そう、いかない。
仕方ない。やむを得ないのだ。
戦車が問題なだけみたいだし。
ちょっとだけ。ちょっとだけなら……いいかな。
「あの、ちょっと持てないか試してみてもいいですか?」
「いやいや、君の話は聞いているけどいくら何でも無茶だよ」
どんな風に自衛隊内で言われてるか気になるが、今は戦車だ。
あの『森の守護者』がこんなとこまで投げたのなら、今のオレにも持てると思うんだよなあ。
「まあやるだけですから、ダメなら諦めます。では──」
よいしょ。
あ、意外と軽いぞこれ。
「う、うそだろっ……」
「あのっ、これどこに下ろしたらいいですか?」
話してた隊員さんが驚きのあまり尻餅をついて放心してしまった。
そんな驚かなくてもいいと思うんだけど。
まあ適当に空いてるとこでいいか。
ドスンッ。
「おいっ、何だ今の音は!?」
「──やべっ」
下ろした衝撃で、自衛隊本部のテントから怖そうな人達がぞろぞろと出てきてしまった。
「あはは、おはようございます内藤さん」
オレは真っ先に駆けてきた顎髭のおっさんに挨拶した。
必殺笑って誤魔化す作戦だ。
「お、おう、坊主か。お前まさかこれ……」
この内藤さんというのが、オレを事情聴取してくれた隊員さんで、親父の知り合いでもある。そしてこの避難所を任されてる隊長さんだ。
「いやぁ、戦車って意外と軽いんですね!」
「軽いってお前なぁ」
ノエルを前にした時のオレのような、この視線はなんだろう。
彼女には後で優しくしてあげようと思った。
「大体片腕しか使えないのに、どうやって持ったんだよ」
「片腕で……」
「……」
そうなんです。まだギブスしてました。
ああもう、オレも自分で言ってて死にたくなってきたよ!
「すみません何も考えてませんでした。お詫びに下にあった瓦礫も全部片付けるのでどうか許して下さい」
こうしてオレはまた『黒歴史』を作ってしまったのである。
消えたい……。




