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ページ29 ラスボスと魔王が手を組んだ

 消えたい……。

 オレはまた『黒歴史』を一つ作ってしまった。


 今思い出しても恥ずかしさで死にたくなる。

 あれは巨大ゴリラこと、森の守護者を倒した後のことだ。

 オレは急いで天幕(シェルター)前にある診察室のテントに駆け込んだ。


 そこで二人は命に別状はないと告げられ、当然のことながらすぐに追い出されてしまったのである。


 そして、オレはブチギレた。

 モンスターの一撃をもろに受けて、無事なわけがあるかと。

 こともあろうかテントの中に乗り込んだのである。


 視野が狭くなるって本当に怖い。

 今やオレはゲームの力を手に入れた。

 その力で駆けつけた隊員二十人程を軽く引きずり回してしまったのである。

 さすがに殴ったりはしなかったものの、一時は大騒ぎだった。


 取り調べをしてくれた人が親父の知り合いで助かったよ。

 事情を話して謝ったら許してもらえた。

 爆笑されたけどね……。


 もういっそ殺してくれ。


 そんなこんなでオレより一足も二足も早く解放された二人は、天幕(シェルター)の中で静かに眠っていたというわけである。






  ◆ ◇ ◆






 オレはベッドの腹に腰を下ろしていた。

 丁度二人のベッドが目の前にある位置取り。


 実は彼女達には告げねばならぬことがある。

 二人が目覚めてからずっと話す機会を伺っていた。

 きっと今を逃せばもうその機会は訪れまい。


「寝る前に、実は二人には謝らないといけないことがあるんだ」


「謝らないといけないこと?」


「ノエルはもう眠いの……」


 顔に疑問を浮かべて身体を起こしてくれた二人。

 ノエルは一番最後に目を覚ましたと思うのだが。

 そんな彼女も目を擦りながら耳を傾けてくれた。


 ──よし。

 大きく深呼吸してオレは覚悟を決めた。


「実は二人が気絶してる間に、ケガが無いか調べてもらったんだけど……その、オレも二人が無事なのかわからなくて、動揺しててさ……」


「むぅ……歯切れが悪いの。男ならバシッと言うの」


 早く眠りたいノエルが妙に男前だ。

 くそう。こっちの気も知らないで……。


「あ、あぁ。丁度その検査の最中に、オレが乗り込んじゃったんだよ」


 するとオレの態度から何か察したらしく、今度は佐伯さんの表情がスッと抜け落ちたのである。


 もうそれは手品や魔法でも見てるかのようにスッと、だ。

 冷気すらまとってらっしゃる。


「ねぇ、影山くん。念のため聞くけ──」


「ごめんなさいっ!!」


 頼むからそれ以上言わないでくれ。

 オレはゲームの力で俊敏になった素早さを振る動員し、一秒の千分の一ぐらいの速さで、土下座を敢行した。


 だが、彼女の追及はその程度では止まらない。

 感情が完全に抜け落ちたような声音で続ける。


「ごめんなさいじゃわからないよ。わたし、ちゃんと教えて欲しいな」


 ラスボスはここに居た!

 オレは地面を見つめていた目をギュッと瞑った。

 もう恐ろしくて顔を直視できない。


 その声はコキュートスの伊吹、身体を芯から凍てつかせるような響きすらまとっていた。


 負けるなオレ。頑張れオレ。

 ここは死ぬ気で誠意を示すんだっ!


「そ、それが向こうも急いでたみたいで、丁度服を脱がせた後だったんだ。で、でもっ、すぐに布を被せたから! 本当に一瞬だけだったんだっ!」


「うぅ……。わたしもうお嫁にいけないよぉ~」


 佐伯さんが布団の中に閉じこもってしまった。

 こんな時、男は本当に無力だとつくづく思う。

 そして、お隣のノエルさんはというと……。


「エルフが異性に素肌を見せていいのは、婚姻の儀を行った者とだけなの」


「それってもしかして……」


 魔王ノエルが幸せそうな顔で止めを刺したのだった。


「これでノエルは一生食べ物に困らないの」


「ノォオオオオカンッ!! ノーカンだからああああああああああっっ!!!」


 その瞬間、遠くの方でダンッという大きな物音がした。


 誰なのかは見なくてもわかる。

 ドスドスと近づいてくる足音は畏怖すら覚えるソレだ。

 彼女ならドラゴンも一睨みで倒せるかもしれない。


 でもこっちもそれどころじゃないんだ。

 なんせオレの目の前に居るのは、ラスボスと魔王なのだから……。


「でもノエルさん、わたしも見られたんだよ?」


 と、完全に周りが見えていないラスボスが、ひょこっと鼻から上だけを布団からだしてノエルに語り掛ける。


「じゃあ、アキもユウトに責任とってもらうといいの」


「責任……」


 その言葉を最後に、彼女は再び布団に沈んでいった。

 ラスボスと魔王が手を組んだ瞬間である。


「オレより先に医者も見てるからああああああああああああっっ!!!」


 結局オレは鬼の形相で降臨した沙希さんによって、三途の川を縦横無尽に泳ぎ回った挙句、『君は罰としてもうそこで寝なさい!』と沙汰を下されてしまい、固いアスファルトの上で永眠することとなった。


 アスファルトって意外と暖かいよね。

 ちなみに枕だけはノエルが提供してくれた。


「妻は夫を助けるモノなの」


 と、早くも良妻ぷりを発揮して──

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