ページ27 知識の相違
「ノエルを騙そうたって、そうは問屋が卸さないの! 魔法も使えない、川に行くこともしない。そんなんで水を出せるわけがないの!」
ノエルがドヤ顔で言った。言い切りやがった。
よぉし。その鼻っぱしらへし折ってくれるわ!
「その川や海から引っ張ってきてんだよ」
「そんな面倒なこと、誰がすると思ってるの!?」
「人間だよ」
「え……?」
「人間が『水道』を作って引っ張ってきてるんだよ」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
ノエルが首を動かして、佐伯さんに視線を向けると「本当だよ?」という答えが返ってくる。
「さらに消毒までしていて、人が飲んでも大丈夫なようにしてあるんだぜ」
「そんな……ひ、人って暇なの!?」
「おい、バカにしてるんならそう言ってくれ。一発ぶん殴ってやる」
「影山くん可愛そうだよ。本当に知らないんだから」
「まあそうなんだけどさ……」
さっきからこのバカに説明する度に、オレのHPとMPがゴリゴリ削られている気がするんだ。
「あのね、ノエルさん。わたし達の世界は、魔法がない代わりに化学と呼ばれるモノが発達した世界なの」
ノエルが眉をひそめる。
「ほら、天井に付いてる明かりだって魔法じゃなくて電気で付いてるんだよ」
「そういえばこんな夜更けなのに、昼間みたいに明るいの。魔道具やランプじゃこんなに明るくは……。これが人の作り出した物……」
オレが説明しても全く信じなかったノエルが、佐伯さんの説明には素直に信じてしまうのは釈然としない。
でもまあ、考え深く蛍光灯を睨むノエルには黙っておいてやろうと思う。
ゲームで明かりと言えば、魔法か道具で辺りを照らすしかなかった。
その他にも生活レベルは中世ヨーロッパぐらい。
一応ゲームなので不必要な風呂やトイレなどはあるわけもなく、ノエルからしたらかなり発達した超文明にでも見えているのかもしれない。
「むむむ、カガクめ……」
一体コイツは何と戦っているのだろう。
「そういやノエル、お前精霊使いって言ってたけど、もしかして魔法と一緒に精霊も出せなくなったんじゃないか?」
『ノエルはシュトラスの森から来た精霊使いノエル・シュトラスなの』
あの時、ノエルは自分を精霊使いと言った。
だけど、モンスターとの戦闘でそれを使うことはなかった。
精霊を出していれば、もっと楽に戦えたかもしれないのに。
精霊魔法とは一種の召喚魔法である。
MPと『精霊石』と呼ばれる特殊な石を媒体とすることで精霊を召喚する。
そのMPと『精霊石』が存在しないこの世界では、精霊を呼び出すことは難しいのではないだろうか。
ノエルはおもむろに付けていたペンダントを服の中から取り出した。
「ユウトの言う通りなの。気が付いた時には光が無くなっていたの」
「ひかり……?」
「精霊石は精霊のマナが込められた石のこと、マナのこもった精霊石はこの世に精霊を繋ぎとめるための依り代となり、精霊の魂を灯すの」
この違和感は何だろうか。
オレは精霊石が光るなんて話、知らないぞ。
「影山くん……」
「大丈夫、わかってる」
オレと同じことを佐伯さんも気付いたようだ。
また見つけてしまった。
ゲームだった頃とは異なる仕様。
「ノエル、そのペンダントの石がノエルが契約していた精霊の石なのか?」
「これはスイの精霊石なの」
ノエルの手のひらに乗せられた、紐で結わえただけの宝石のような石。
色は無色透明でしずく型。親指の第一関節ほどの大きさだ。
石の中には何かの紋章みたいなものが刻まれているが、ノエルが言うような光を宿してる気配はこれといってない。
「……ちなみにそれ、いくつもあって付け替えたりしないよな?」
「スイの石は世界に一つだけなの。いくつもあるわけないの!」
「佐伯さんどう思う?」
「うーん、わかんないよ……」
「だよなぁ……。オレも光を灯す精霊石なんて聞いたことないし」
「ユウト、これはゲームとは違うの。現実なの」
「いや、わかっちゃいるんだけど……」
コイツに言われると無性に腹が立つのは何故だろう。
ちなみにゲームでは、精霊石はゴミのようにたくさんあって、精霊を呼び出すのには一度に十個や二十個使う消耗品だった。
精霊のマナがこもってたりもしない。
こんな一点物の石とは、性質から用途までまったく違う。
話を詳しく聞いてみると、精霊石は精霊が死ぬか石が壊れるまで光が消えることはないらしい。逆に死んだり石が破壊されれば、この世に留まることが出来なくなって精霊界に還るらしい。まさに命の灯である。
通常、精霊のマナは精霊石に封じてある為、効率よく力を引き出すには精霊との親和性が必要になるそう。
それらの理由から、精霊石が消耗品扱いされることは絶対にないとノエルが明言してくれた。
そしてここからはノエルの推測だが、精霊石から精霊のマナが消えたのは、恐らくノエルが異世界に来てしまったせいだろうとのこと。
──精霊は精霊石に宿る。
ゲームとはまったく異なる存在だった、『精霊石』。
マナダウンといい、一体どういうことなのだろうか。
ノエルが精霊石を強く抱きしめている姿を見ながら、オレはどこか得体の知れないモノに触れたような気がした。
影山「なぁノエル。この短剣の素材は何?」
ノエル「これは『タイラントボア』の骨なの」
影山「イノシシの骨だったか……」
ノエル「ちなみに幼馴染だったヤンの形見なの」
影山「そんなもんもらえるかあああっっ」




