ページ26 中の人が魔法で
「マナダウン?」
「はいなの。マナダウンは別名『マナ欠損症』とも言って、体内のマナが枯渇したことによって意識を失う症状なの。大抵の場合は少し休めば目を覚ますの」
「つまり体内のマナが無くなったから、気絶したってことか?」
想定の意味で頷くノエルを見て思う。
恐らくマナとは、ゲームで言うところのMPのことだろう。
それにノエルの口ぶりから、気絶というのは死とは違う『状態異常』の一種のような気がする。でもそんな『状態異常』は、ゲームにはなかった。
「佐伯さんは何か知ってる?」
「ううん、わたしも初めて聞いたよ」
これはどういうことだろう。
「ノエルは嘘ついてないの」
「いや、お前を疑っているんじゃないんだ。ただゲーム内で、もしそんなことが起きれば」
「すぐにパーティが全滅する……」
オレの言葉を佐伯さんが引き継いだ。
──そう。どんな職業でも多かれ少なかれMPは消費するし、使い過ぎれば尽きることだってある。
その度にHPと呼ばれる生命力、つまり体力は残っているのに、倒れて動けなくなるという『状態異常』が発生することになる。
そんなマゾ職業は誰もやりたがらないし。
魔法職が減れば、必然的に前衛しか居なくなるだろう。
そうなればゲームの運営すら危うくなる。
佐伯さんも知らないらしいし。
オレが引退した後に出来た仕様というわけでもなさそう。
今までのゲームにはなかったモノだ。
「しかも、たった一回の回復魔法でマナを枯渇したってことか……」
佐伯さんが使っていたという聖職者。
これは回復魔法を得意とする職業だ。
主に戦闘でダメージを負った仲間を癒し、支援する。
そのため高いMPを有しており、一度の回復魔法でMPを枯渇させるなど、ゲームではあり得ないことだった。
謎は深まるばかり。
「ところで、げーむって何なの?」
「「……」」
ノエルの質問にオレ達は言葉を失った。
今までのやり取りは何だったのだろうか。
こいつ、ゲームって単語を毎回スルーしてやがったな。
そろそろ断言するべきだろう。
ノエルはこの世界の住人でも、ましてやAIでもない。
モンスターと一緒にこの世界に現れた本物の異世界人なのである。
この世界の常識が通じると考えてはいけないのだ。
話を聞いてみると衝撃の事実がさらに飛び出した。
彼女は自分が別の世界に来ていることに、まだ気付いていなかったのである。
ようやく十五の『成人の儀』を終え、里の許可が下りたから旅に出たらしい。
そして、たまたま立ち寄った街がモンスターの襲撃を受け、避難させられたと勘違いしていた。
「異世界なんて夢見がちなことを言ってないで現実を見るの」
そんなことを憐みの目で言われたよ。
ちょっとイラッとしたので、この世界のことやゲームのことを小一時間ほどかけてじっくり説明してあげた。
その結果──
「ここは異世界なのっ!」
「あー、うん。もうそれでいいや……」
ネットゲームの概念を何も知らない人に伝えるのって難しいよね……。
そしてノエルは興奮気味に続けた。
「ようやくこれで全ての納得がいったの。実は昨日から急に魔法が使えなくなっていたの」
「どういうこと?」
佐伯さんが首を傾げる。
「魔法が使えるのは何も人間だけじゃないの。ノエルも簡単な魔法なら使うことはできたの。でも、それが発動しなくて……もし、もしもここが異世界、それも自然界のマナが薄い世界なら納得なの」
自然界のマナが薄い世界……?
「じゃあオレ達が知らないだけで、マナはこの世界に元々あったってことか?」
「はいなの。マナは生命の源。生き物がいる限り、マナが存在しないということはありえないの」
「マジかよ……」
オレはついに真理に辿り着いてしまったかもしれない。
「魔法はマナを使うための方法なの。そのマナの存在を知らなければ、魔法も使えるはずないの」
「な、なるほど……」
まあ今までなかったんだし、別に使えなくても生きていけるか……。
そう考えると、電気を発見した人って偉大だよな。
「マナの濃度がノエルさんの世界とこの世界では、密度が違うってこと?」
難しい顔で佐伯さんが呟く。
実際に魔法を発動させた彼女なら、何か思い当たる節があるのかもしれない。
「自然界のマナは、体内のマナにも比例するの。でも気絶したのは、魔法使うことに身体が慣れてないだけかも……しれない……の……」
「なるほど……」
どうしたのだろう。
納得する佐伯さんとは対照的に、ノエルの顔がどんどん青ざめていく。
「あっ、あああああああああああっ!! 魔法が使えなくなったら水も飲めないの、厠も……水浴びも……、い、生きていけないのおおおっっ!!!!」
「ば、バカッ! 何時だと思ってんだ!! トイレも風呂もあるし、そもそもなかったらオレ達が生きていけないだろ!?」
「影山くん声が……」
ノエルを叱るつもりで、オレもつられて大声を上げてしまった。
そういえばもう夜の十一時を越えていた。
「ご、ごめん。つい……」
「ユウトがまた夢見がちなことを言い出したの。大体魔法もなしに生きていけるわけないの。異世界人は常識が無いにも程があるの」
何だろう。ぶん殴ってやりたい。
どさくさに紛れてオレをディスるのはやめろ。
「例えばこのポット見てみろよ。水を入れてスイッチを押せば、しばらくするとお湯が出てくんだぞ。ほら」
ポットのボタンを押してすでに温められていたお湯が出てきた。
するとノエルがそれをまじまじと見つめて言ったのだ。
「こ、これは……、中の人が魔法でお湯を沸かしてるのっ!」
「お前最強かよ」
ノエルはポットが気に入った模様。
ノエル「ユウトユウト、お湯が止まらないの!!」
影山「あっ、ちょ、バカ! 『止める』のボタンを押せッ」
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