ページ25 そう、よく眠れるマッサージなの
「あっ。でもヒールぐらいならノエルさんも使えるんじゃない?」
今も隣のベッドで眠り続けるノエル。
彼女を見て佐伯さんがふと呟いた。
「え? なんでノエルが?」
「えっ?」
何故か驚いた顔を浮かべる佐伯さん。
オレ達は互いの顔を見つめ合い、言葉を失った。
ん……?
何か変なことでも言っただろうか。
どうしてこのコスプレ少女が魔法を使えるという話になるんだろう。
もしかしてノエルまで魔法少女の属性が……?
「だって、ノエルさんはエルフだよ。初級魔法ぐらい使えるでしょ?」
「は?」
ノエルがエルフ!?
「いやいや、ないないない。佐伯さんもお茶目だなぁもう」
「あ、あれ……?」
さっきから冷や汗が酷い。
違うよな? ノエルはただのコスプレ少女だよな!?
信じてるぞノエル。
ああ、段々不安になってきた。
「影山くんも耳を見たよね?」
「見ました」
炊き出し会場でノエルのケープのフードがずり落ちた時。
オレ達は、ファンタジーな世界に住むという『エルフ』を連想させる、長くて尖った耳を目にした。
オレはそれを見て作り物のコスプレ少女だと判断したのだが。
どうやら佐伯さんは本物だと思ったらしい。
「オレはてっきり中二病を拗らせたコスプレ少女かと……」
「ブフォッ、コスプレ少女て──」
女の子らしからぬ失笑に軽く傷つく。
オレは至って真面目なんだが。
「じ、じゃあ、しがない戦士とか狩りの話は何だったの?」
「あー。あれはノエルが中二病だと思ってたから適当に合わせただけだよ」
「もぅ! わたしはその話を聞いたから、てっきり影山くんもゲームをやってたんだと思ったんだよ!?」
「マジか。じゃあ、遠足って……」
「狩りだよ狩り!! 一体何だと思ったの!?」
「いやあ~……。あははは」
「影山くんのばかばかっ! うぅ、これじゃあ勇気を出して言ったわたしはただの痛い人だよ。モンスターもいるし、魔法も使えるんだからNPCだっているに決まってるじゃん」
「た、確かに……」
その発想はなかった。
オレ達の間ではどうやらミラクルが起こっていたらしい。
よく考えたら、女子高生がモンスターと戦うとか普通無理だよな。
「え、じゃあ本当に本物のエルフなわけ?」
「だと思うよ」
「マジかよ」
中二病全開なのだと思ったのに、何だよ。
モブに徹したオレは、佐伯さん以上に痛い奴じゃん。
なんか急に消えたくなってきた。
「で、でもさ。NPCに……見える?」
「……」
苦し紛れのオレの言い訳に、佐伯さんは即答できなかった。
そう。見えないのだ。
ゲームの中で言うNPCは予め決められた文言しか喋らない。
だが、ノエルは自分で考え行動する。
仮にノエルが高度なAI──人工知能だったとしよう。
機械に回復魔法が効くだろうか?
そもそもまったく違和感なく会話を続けるAIなんて、今の技術じゃまだ不可能だ。それならまだコスプレ少女の方が信じられる。
「でも、シュトラスの森から来たって言ってたし……」
シュトラスの森。
ゲームの中には確かにシュトラスの森と呼ばれる森があった。
そこにはエルフの里があり、ゲーム開始時にキャラクター作成で種族をエルフに選択した場合のスタート地点となる、初心者エリアがまさにそこなのである。
そして、そこには案内人となるNPCがいる。
エルフの里の案内人の名前は、そう。まさにノエル・シュトラスなのである。
「今眠ってるし、勝手に耳を触ったら怒るよね……?」
「よ、よし。じゃあオレが……」
ヒャッホーイ。
寝ている女の子の耳を触れるなんて初体験だぜ!
と、喜びが顔に溢れてしまったのかもしれない。
「ちょっと待って、わたしが触るから影山くんは座ってて」
「えっ……」
言うなりもそもそとベッドから出てくる佐伯さん。
呼び止められたオレは、石像のように固まってたさ。はは。
深緑のフードにそっと佐伯さんの手が沈んでいく。
「んっ……んぅーーーーんんん、……アキ?」
あ、ノエルが起きた。
「うわああっ、ノエルさん!? こ、これはそのっ……ま、マッサージ! そう、よく眠れるマッサージなの!!」
「……よくわからないけど、ありがとうなの」
「うんっ! でも起こしちゃったね。ごめんごめん、あははは」
その必死過ぎる言い訳に罪悪感を感じる。
オレがやらなくて正解だった。
「本物だと思うよ」
戻り際にこっそり教えてくれた。
「おはようノエル。じゃあ次はオレがマッサージしてあげるよ」
「もう起きたから必要ないの」
「ですよねぇ……」
なんか佐伯さんの視線が痛い。
オレも触ってみたかったんだよ……。
「そんなことより、魔物はどうなったの?」
「あ、あぁ。それならオレが倒したよ」
即座に呆れるようにため息を吐くノエル。
「あれは里総出でも数日は掛かる魔物なの。ユウト一人じゃとても無理なの」
物凄い信用の無さだった。
「お前はそんなのに一人で突っ込んで行ったのかよ」
「ふふん、倒すのと時間を稼ぐのは違うのっ」
平らな胸を反り上げるノエルさんは誇らしげだ。
「さいですか。嘘と思うならほらっ、見てみろよ」
モンスターを倒した時に拾ったある物を手渡した。
「これは……、魔石なの」
──やっぱりか。
モンスターに止めを刺した後、どういう原理なのかまるでゲームのようにその亡骸は黒い霧となって消えてしまった。
そして残っていたのがビー玉サイズの、この紫色のクリスタルである。
「理由はわからないけど、オレと佐伯さんにはゲームの力が使えるらしいんだ。その力を使って佐伯さんがお前のケガも魔法で治したんだよ」
「言われてみれば……、どこも痛くないの」
自分の身体を触って確かめるノエル。
「でもそのせいで佐伯さんも気絶しちまったんだよ」
もしかして、魔法に何かしらのデメリットでもあるのかもしれない。
威力が強過ぎるし、寿命を削るとかそういうのだと洒落にならない。
「気絶……それはもしかして、マナダウンかもしれないの」




