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ページ14 可愛いは正義

「いつ目を覚ますかわかんなかったからっ」


 頬を赤くして照れるように佐伯さんが言った。


 看護婦の沙希さんが言っていた──

『手術が終わってもずっとあなたの傍から離れようとしなくって大変だったのよ』

 というのは、ガチのやつだったらしい。


 いやいや、こえーよ。

 そんなに心配されるほど親密度上げるイベントあった……?


 そりゃあ嬉しいけどさ。

 ご飯ぐらい食べてくれよ。


「あ、ありがとね……」


「うんっ」


 こんなに嬉しそうに返事をされては何も言えなくなってしまう。

 変な寝言とか言ってなければいいけど……。




 ここは市内でも大きな総合病院である。

 天幕(シェルター)から外に出て、ようやくオレは自分の居場所を把握した。


 オレが眠っていた天幕(シェルター)

 あれはやっぱり病院の仮病室だった。

 病院の二つある駐車場のうち、第一駐車場がこれにあたる。


 体育館ほどの広さを有しており、外に出たところには、緊急患者を対応できる診察室のようなテントまで隣接していた。


 また、敷地内道路を隔てた向こうには第二駐車場がある。

 そちらにも同規模の天幕(シェルター)があり、軽症者や避難民達が利用しているとのこと。


 これら二つの駐車場が長方形の形で並び、視線避けの観葉植物、そして広場のようなバス、タクシー乗り場を挟んで、ようやく病院に辿り着く。


 さて、病院の全体像がご想像頂けただろうか。

 現在オレ達は、タクシー乗り場にあるという炊き出し会場に歩いて向かっているわけだが……。


 夜風に乗って松脂(まつやに)の良い香りが漂ってくる。

 縁日を彷彿させるこの香りがオレは好きだ。


 気を抜くと、昔親父に連れて行ってもらった神社のお祭りの回想なんて始まってしまいそう。


 丁度人も多く、すれ違う人や芝に座り込むカップル達が浴衣姿だったらどんなによかったことか。


 蹲っている人なんて泥酔した酔っ払いに思えてくるのだから。

 はあ、現実逃避は辞めよう。


「病院の敷地内なのに病院が遠すぎる……」


 オレは眺めていた松明から視線を逸らし、悪態吐いた。


「ふふっ、もうちょっとだよ」


 仄かな灯を受けて赤みを帯びた彼女の横顔には、余裕すら感じられる。

 体育会系でもある佐伯さんは基本的に身体能力値(パラメータ)が高い。

 普段から鍛えられた足腰と体力の賜物だろう。


 対するオレは、去年まで室内でがり勉。

 一昨年に至っては引きこもりのニートである。

 誰だよ行けっつったの。

 血が足りてないオレを歩き回らせて殺す気か。


「ねぇ影山くん」


「うん?」


「わたし達、これからどうなっちゃうんだろう……?」


 不意に掛けられた問い。

 どうと言われても正直返事に困る質問だった。


 狂暴なモンスターが街中に現れてしまった今、オレ達に出来ることはそう多くはないと思う。


 学校はしばらく休みになるだろう。

 母さんの電話から察するに、モンスターが現れたのはここ広島だけではないのだろう。だとしたら、この病院の外に出ることすら危ぶまれる。


 駅で暴れていたという大型のモンスター。

 それがどれほどの脅威かは知れないが、あの時のゴブリン以上にヤバイことだけは確かである。


 ただまあ、今の彼女はそんな回答を求めてはいない気がした。


「んー。どうなるかはオレにもわからないけど、とりあえずはこの病院に佐伯さんの両親と響恋が居ないかどうか、調べてみないとな」


「え、いいの?」


「もちろん。オレもついでに店長達を探したいしね」


「……ありがとう」


 二人並んで夜の病院を歩くこと数分。

 オレ達は遂に目的地にたどり着いたのだった。


 タクシーの駐車場があった場所は、邪魔な車両が撤去され、パイプ椅子や机が立ち並ぶ飲食スペースと様変わりしていた。


「一杯だけなのっ!!」


 夜の喧騒な炊き出し会場で、一際異彩を放つ声があった。

 配膳台があるテントの方でどうにも人だかりが出来ている。


「何だろう?」


「行ってみよう」


 オレ達は顔を見合わせ、そそくさと野次馬に加わったのである。

 だって面白そうだし。


「だから、何度も言うとるじゃろうがァ」


 厳つい筋肉親父の怒鳴り声。

 対するは、男の怒鳴り声など何のその。


「こんなに美味しい鍋は初めて食べたの!」


 後姿だが、小柄な佐伯さんよりも一回り小さい背丈。

 深緑のロングケープのフードを深々と被った女の子が、空の使い捨て発砲どんぶりを片手に、なぜか絶賛していた。


「嬢ちゃん、褒めてくれるんは嬉しいんだが、これは病院から分けてもらったもんで一人一杯までと決まっとるんよ。すまんなぁ」


「うぅ~……もう一杯、一杯だけなのぉ~……」


 それでも駄々をこねるように食い下がる女の子。

 仕舞いには周囲の野次馬共からも声が上がり始めた。


「親父ぃ、ケチケチすんなよ!」


「可愛そうじゃねェか!」


「引っ込め筋肉っ!」


 野次馬共は女の子の味方らしい。

 正しいことを言っていても、批判されるのがおっさんの辛いところ。

 そりゃあおっさんと女の子が争ってたら、女の子を応援したくなる。


 可愛いは正義なのだから仕方ない。

 だからオレが女の子の味方であるのも仕方ないことなのだ。


「影山くん」


 つんつんと脇腹を突かれ一瞬ヒヤッとした。

 それだけで無限にも感じる時間が過ぎ去ったような感覚に陥る。


 幸い声を潜めた彼女の視線は別のところにあった。

 どうやら見回りの自衛隊が味方を呼んだようだ。

 直にここを鎮圧に来るのだろう。


 佐伯さんがそれを不安そうに見ている。

 言いたいことはわかるけど、無茶ぶりだからね。


 大きくため息を一つ。

 女の子の無茶ぶりを叶えるのも紳士の務めだろう。

 もう一度言い争っている二人に目をやる。


 相変わらず後姿で顔の見えない女の子。

 それに相対するは、五月の肌寒さを物ともしない半袖に、鍛え上げられた胸板と太い二の腕姿の筋肉親父。


 ま、うちの店長なんだけどね。

どうも、ロングブックです。


病院に関しては、フィクションらしく架空の物を創造しました。

駐車場の配置など上手くお伝えることが出来たでしょうか?


イメージを言葉にして伝えるというのは難しいですね。

これからも精進していきたいと思います。


この作品が少しでも『面白い』、『続きが読みたい』と思って頂けたら、

作者が料理の腕を磨きますので【評価】【ブックマーク】をお願いします。

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