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ページ12 親子の物語

 小さな頃はサッカーが好きで、友達も多く、毎日のように誰かを連れて帰って来るような元気で活発な男の子だったらしい。


『あれはまだ一年生に上がった頃かしら。学校から帰って来るなり、「ぼく、おとなになったらおかあさんとけっこんするんだ」って言い出して、もう可愛くて可愛くて、その場で抱きしめてしまったわ』


 何とも微笑ましい光景が目に浮かぶ。


「ふふっ、それはわたしも抱きしめちゃいます」


 いつの間にか涙は止まっていた。


『うちは一人っ子だから、私ずっと女の子が欲しかったの。佐伯さん、今度落ち着いたら遊びにいらっしゃいな。一緒にたくさんお話しましょう』


「はいっ、是非!」


 つい即答してしまったけど、これってお呼ばれされちゃったのでは。

 今からその時のことを想像して体温が急上昇していく。

 あわわ、響恋ちゃんどうしよう。わたし何着て行けば。


『あの頃は毎日のように泥だらけで帰って来ていたわ』


 影山くんの小さな頃かぁ~。

 どんなだったんだろう。

 わたしはワクワクした面持ちで耳を傾けていた。


『……だから気付けませんでした。いいえ、違うわね。あれは私達夫婦が忙しさに感けて、あの子とちゃんと話そうとしなかったのがいけなかったのでしょう』


 それは自分を責めるような自虐的な言葉から始まった。


 中学二年になってすぐのこと、影山くんは学校に行かなくなったらしい。

 理由を聞いても何も答えてくれず、学校に問い合わせても何もわからないとのことだった。


『あの頃は私達も仕事が忙しくて……』


 仕事柄、両親共に何日も家を空けることが多かったらしい。

 そんな家で部屋に一人閉じこもっていた影山くん。

 そのまま一学期が終わり夏休みに入ったある日、一本の電話があったそう。




『学校で苛めを受けた(・・・)お子さんの親御さんからだったの』




 ──それは学校帰りのある日。

 たまたま通りかかった影山くんが、なんと不良グループに絡まれていた男の子を助け出したのが始まりだった。


 その子は昔からとても気が弱く、それが初めてのことじゃなかったらしい。

 クラスも違った影山くんは、その子を守るように仲良くなっていった。


 しかし、それをよく思わなかった不良グループ。

 今度は影山くんを巻き込むように苛めを拡大(エスカレート)させていった。

 けれど、元々苛められていた男の子と違い影山くんは戦った。

 時にはやり返し、相手に痛い思いをさせることもあったそうだ。


 でも、そんな日々は長くは続かなかった。


 『ぼくは君のように強くはない──』


 三学期終了してすぐに、祖父の家がある大分に転校したらしい。

 連絡をくれた親御さんもようやく引越しの準備が整い、最後にお礼をとのこと。


「それじゃあ影山くんは──」


 スッと脚から力が抜け、膝から崩れ落ちた。


 よくある話だ。

 苛めによる被害はわたしが通っていた中学でも耳にした。

 苛める側、苛められる側、周りの生徒、先生や学校側。

 誰が悪いのかわからなくなる場合だってある。


 わたしは響恋ちゃんが居てくれたから平気だった。

 でも普通は助けたいと思っても、実行なんて出来ない。

 だって自分が巻き込まれたら嫌だもん。

 怖くて、怖くて恐怖で足が竦む。


 なのに──

 影山くんは助けた相手からも裏切られたのだ。

 それがどれだけ辛いことか……。


 ううん、もしかして役目を果たしたのかもしれない。

 最後まで守り抜いて……だから学校に行くのを辞めちゃったのかも。

 真相はわからない。でも、わかっていることもある。


 二年経った今でも影山くんは変わっていなかった。

 変わらずにわたしを助けてくれた。


 影山くんのお母さんが言った、『意味のあること』とはそう言うことだと思う。

 だから『自慢の息子』なのだろう。


『あれは去年の丁度今頃かしら。急に部屋から出てきたと思ったら、突然広島の高校に行きたいって言い出してね。本当に驚いたわ』


 影山くんは自分で自分の進路を決めたという。


『だってそちらの高校、広島でも有名な進学校なのでしょう? 一年以上勉強していなかったあの子が行けるわけないじゃない。当時はそう思って、でも、部屋から出てきてくれるのならと喜んで許可したのよ』


 わたしも鬼教官に一年みっちりついてもらったからよくわかる。

 トイレでもお風呂でも勉強してたもん。


『それなのにあの子ったら、次の日から毎日予備校に通って本当に合格しちゃうのよ。親の気持ち子知らずとはこのことよね』


 ちょっとだけ影山くんのお母さんの言い草に笑ってしまった。

 その結果大事な息子が自分の下を離れちゃったんだもん。

 愚痴のひとつでも言いたくなるのかもしれない。


『でもね佐伯さん。あの子はきっと私達のことを恨んでいると思うの』


「恨む、ですか?」


『ええ。私達夫婦はあの子が辛い時に一人にしてしまった。それは取り返しのつかないことなの。きっと広島に行きたいと言い出したのも、私達への当てつけなのよ』


「そんなっ。影山くんがそんなこと言うはず──」


 ──ない、そう言おうとして遮られた。


『ありがと、佐伯さん。でもね、生活費をいくら振り込んでも引き出した形跡がないの。こんなのもう聞かなくてもわかるでしょ? でも、これだけは信じて欲しいの。離れていても元気で居てくれるのなら、それでいいと思うのが親なのよ』

影山母「よく『○○戦隊、出動!!』って言って、椅子から飛び降りたりしてね」


愛生「ふふふっ」


影山「わっ、ちょ、母さん辞めて!!」


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