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ページ11 本当にごめんなさい

「──ちょっとあなた。ねえわかる?」


「うっ……」


 ──な、なに?

 頭がガンガンする。


「ああ、よかった気が付いたわ」


「は、はい。すみません……」


 あれ、わたし寝てたの……?

 先程駆けて行った看護婦さんが、どうやらわたしを起こしてくれたらしい。

 よかった。手術中のランプは付いたままだ。


「あなた、影山さんの関係者よね? 彼女さんかしら?」


 どうしたんだろう。

 影山くんの容態に何か変化でも合ったのかな。


「た、ただのクラスメイトです……」


 とりあえずそう答えた。

 嘘は言ってないと思う。


「ふぅ~ん。ただのクラスメイトねぇ……」


「な、何ですか」


「まあいいわ。ちょっと来てくれる?」


「え? で、でも……」


 まだ手術中だ。

 正直言って、今はここから離れたくない。

 動こうとしないわたしに看護婦さんが息を吐く。


「彼のこと、知りたくない?」


「う……」


 反論できなかった。


「さぁさぁ、きっと面白いことになるわよ。うふふ」


 そう言いながら彼女はわたしを立たせると、後ろから背を押した。


「あっ。ちょ、どういう意味ですかっ?」


「いいからいいからっ♪」


 どこか楽し気な看護婦さんに背を押され、わたしは渋々足を動かしたのである。

 先程のちょっといい話は何だったのだろう。






  ◆ ◇ ◆






「はい、じゃあこれよろしくね」


 看護婦さんに連れられてやってきたのは病院の待合室だった。

 そこで黒いハードケースに収まったスマホを手渡され、わたしは停止(フリーズ)した。


「──は?」


 どうやらここは病院の中でも通話可能なエリアらしい。

 そんなことはさておき、問題はスマホに表示された文字である。


 『通話中』、そして『母さん』。

 そこから導き出される通話相手。


「ええぇ~~~っ!?」


 説明を求めた時には、すでに待合室の外。

 清々しい笑顔とサムズアップで去っていく看護婦さんだった。


「……」


 電話の相手には何となく想像がついてしまう。

 緊張で心臓が耳から出てきそうだった。


 落ち着くのよ愛生、お、おおお、おんなは度胸っ。

 こんな時は深呼吸よ。


 すーはー。

 すーはー。

 ふんす!


「──も、もしもし?」


『はい、こんばんわ。影山友人の母です』


 返ってきた声はとても凛としていて、でもどこか優しさを感じさせる木漏れ日のような声音だった。


「こ、こんばんわっ。わたし、影山くんと同じクラスの佐伯愛生(さえきあき)と言います!」


 もう切っていいかな?

 響恋ちゃん、わたし頑張ったよね。


『看護婦さんからお話は伺いました。あの子を病院まで運んでくれたそうで本当にありがとう御座いました』


「──っ」


 わたしは咄嗟に言葉を失った。

 何故なら──相手の声が、震えていたから。


 ──無理もない。


 影山くんは今生死を彷徨うよう手術の真っ最中。

 今すぐ駆けつけたいに決まってるよ。


 でも、それは叶わない。

 影山くんは入学してすぐの自己紹介で、実家が福岡だと言っていた。

 なのに、今はすべての交通機関が停止している。

 駆け付けたくとも、無理なのだ。


 それに──違う。そうじゃない。

 わたしには言わなければならないことがある。


 ──言え。言うんだ。

 どうして彼がこんな目に合ったのかを──


「ち、違うんです。モンスターに襲われていたわたしを、影山くんが助けてくれたんです! わたしが巻き込んで、わたしのせいで影山くんがっ! ほ、本当は謝らないといけないのはわたしの方なんです! 本当に、本当にごめんなさい!!」


 影山くんが大ケガをしてしまったのは、わたしのせい。

 これだけは間違ってない。


 彼は『走って逃げていれば助けなんて要らなかったんじゃ』と言っていた。

 でも、そんなことはない。


 だってあの時のわたしはパニック(・・・・)で、一歩も動けなかったのだから。

 頭が真っ白になって誰かに助けを求めることも出来なかった。

 もし──もしも、影山くんが来てくれなかったら──

 その先を考えるときっとわたしはダメになる。


 ──だから。


 他の誰でもない。

 わたしは彼に助けてもらったのだ。


『そう、あの子が……』


 涙がポロポロと零れ落ちてくる。


「わたしが巻き込んでっ、それで、それで……っ、あんな大ケガを──」


 顔も言葉も全部ぐちゃぐちゃだった。

 堰を切り溢れ出す涙は止めどなく。

 感情だけが独りでに高ぶっていく。


 そんなわたしを見かね──聞きかねて、ふっと力が抜けたように影山くんのお母さんの口調が和らいだ。


『佐伯さん、大丈夫よ。落ち着いて。あの子があなたを助けたというのなら、きっとそれはあの子にとって必要なことだったのでしょう』


「必要な……こと、ですか?」


『ええ。あの子にとって誰かを助けるということは、とても意味のあることなの』


 返ってきたのは、確固たる肯定の言葉だった。

 自分を助けることにどれだけの意味があるのだろう。

 無知で愚かなわたしは、その言葉の続きを待つことしかできなかった。


『あなたには話しても良いかもしれませんね』


 そう言って影山くんのお母さんは、昔日の記憶を辿るように語ってくれた。

 『ダメな母親』と『自慢の息子』の物語ですと前置きをして──

愛生「あ、あの、影山くんのお母さん」


影山母「まあまあ、お義母さんだなんて。将来楽しみだわぁ」


愛生(な、なんてお呼びしたら……)


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