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第10話 別れ ②

私は未だかつて、こんな綱渡りのような戦闘を、見たことがない。


最初に動き出したのはオオカミ達の方であった。一番前の一際大きなリーダー格の個体が飛び出し、そのまま彼女の喉元に食らいついた。食らいついたはずであった。

アリスはすんでのところでそれを避け、後ろに回りこみ蹴りあげる。オオカミは飛び出した勢いのまま倒れたが、それを見る暇もなく斜め右後ろに光の矢の魔法をうつ。そこで初めて私はそこに他のオオカミが迫って来ていたことに気がついた。そのすぐあとも、次々と彼女へ矢継ぎ早に攻撃がなされていく。


アリスは、一見して強そうには見えない。早い動きはしていないし、魔法だって連発していない。詠唱もしなくてはいけない。威力の高い攻撃手段はなく、恐らく1発まともにくらったら即OUTの体力と防御力だ。

しかし、常にギリギリの劣勢だったとしても、彼女は決して負けてはいなかった。その理由は、彼女の動きの無駄のなさにある。

基本的に全ての攻撃を避けている。その事実だけでも凄いのだが、それが流れるような動作でなされている。極力無駄な体力·魔力を使わず、かつオオカミ同士の相討ちを狙うよう、計算され尽くしている。まるで、そこにその攻撃が入ると、最初から分かっていたかのような…


そうこう考えているうちにも、激しい戦闘は続いていく。彼女の真横から襲ってきた牙は、彼女の腕を引き裂くはずが、その向こうにいた別のオオカミの顔を引き裂いた。かとおもえば、遠くで機会をうかがっているオオカミの喉元を、光の矢が貫く。

しかしそんな完璧にも思える立ち回りにも、いつかは綻びが出るもので。


一匹が魔破砲を放った時、無理矢理伏せて避けたのがいけなかった。その体勢の崩れた一瞬の隙を狙って、囲むように同時に何匹かのオオカミが襲いかかる。避けられない。彼女が、死ぬ。


…死ぬ?あの子が?


何故かは分からない。何故かは分からないのだが、それは、とても自然なことのように思えた。アリスが死んだ後の、その生々しい肉片が、ふっと頭に浮かんできて、恐ろしくなって。気づけば、私は通常スキル[魔破砲]を放っていた。


唯一の誤算があるとすれば、その魔力の弾の速度が、思ったよりも遅かったことだ。そして、当たり前の事だが、アリスのいる方へ撃ったら、当然彼女にあたる。

伏せていた状態から起き上がると、その後ろ姿は完全に弾道上に入ってしまっていた。その後起こることは、想像に難くない。ああ、やめて、やめてくれ。それだけは嫌だ…!

そんな祈りも虚しく、既に放たれた光は、消えることも軌道を変えることもしてはくれなかった。


避けられるはずがなかった。そんなことは、不可能であるべきで。


しかし、彼女は、事も無げに。さっきまでさんざん避けてきたオオカミの攻撃と、何ら変わりない様子で、味方、つまり私しかいない真後ろから来た攻撃を、見事避けた。分かりきっていたというふうに。


周りを囲っていたオオカミたちは私の放った魔破砲に巻き込まれて死んだようだ。そしてどうやら、それが最後だったようで、周りを見渡しても起き上がってくるオオカミはいない。

アリスにも、多少の傷はあれど致命傷となるような傷はない。全て避けきった証だ。あとは自然治癒とヒールの魔法で、すぐに完全に癒えるだろう。


完全勝利。無事に脅威を乗り越えて、万々歳だ。そう、喜びホッとするはずだった。少なくとも、頑張ってくれた彼女のために、そうするべきだ。


だのに、ドクンドクンと不安に脈打つ心臓は、未だに治まってくれない。

それは、戦闘前に変わった雰囲気がいまだに戻らないからだろうか。それとも、この奇跡をなし得た未知のスキルに対する恐怖からだろうか。それとも…彼女が、もう旅立ってしまうこと、それを本能で分かっていたからだろうか。


元より旅の途中で逃げ込んだだけだ。これでも長くいてくれたのだと思う。寂しいが、きっと、仕方のないことだ。


だから、床に散らばる荷物をまとめ、笑顔で手を振るアリスのことを、せめて、こちらも笑顔で見送らなくては。私には彼女の旅路の安全を、幸運を祈ることしかできないが、どうか、幸せになってほしい。そして願わくば、もう一度彼女に会いたい。


ありがとう、行ってらっしゃい!!


もう真上に位置する太陽に照らされながら次第に小さくなっていく背中を、私は見えなくなるまでずっと眺めていた。





…っておおぃ!!!!

私は愕然とした。床の上に、ぽつねんと、持ち主に置いていかれたペンダントが寂しそうに存在していたからだ。


ダメでしょ!?これ絶対大事なものだよね!?

出発した時は付けていたような気がするのだが、どうやら記憶違いだったようだ。

ちょっと、と少女を呼び止めようとするも、時すでに遅し。もはや姿は見えなくなってしまっていた。

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