24.リリィ危機一髪!その2
あたしとパグぞうさんは、おそるおそる顔を見合わした。
「パグぞうさん・・・あれって、あたしのことだよね?」
「ああ・・・何か見られてるって感じがしたんだよな・・・」
一方サトルは何の事だかまだよくわかっていないみたいだった。
「え?どういうことです?」
「恥ずかしがらなくってもいいじゃない、若いんだから!ほら、髪の毛がくるくるっとしてて、チェックのスカートの・・・あら?」
「それってまさか・・・ちょっと、失礼します!」
バタバタ・・・とサトルの急ぐ足音が聞こえてきた。
ガチャガチャ・・・
「あれ?カギはちゃんとかかってる?」
ガチャ!ッとドアが開いた。
「ワンッ!ワンッ!」(おかえりー!)
「ああっ、リリィ!ただいま、無事だったか?」
「ワンッ!」(大丈夫だよ!)
サトルは家の隅々まで見回った。
「ふう。どうやら盗られたものはないみたいだな」
パグぞうさんが言った。
「サトル、どうやらドロボーに入られたと思ってるみたいだぜ」
サトルはまだブツブツつぶやいている。
「それにしても・・・今日会った女の子と特徴が似てる・・・一体どういうことだろう?」
「・・・パグぞうさん、これってヤバくない?女の子があたしだって正体バレちゃったらどうしよう?」
「・・・これはマズイな・・・ちょっと対策考えるから、とりあえずサトルのゴキゲンとっといて!」
そう言うと、パグぞうさんはリビングの隅に引っ込んでしまった。
「クゥーン、クゥーン」
あたしはサトルの足元にすり寄ってサトルの気を引こうとした。
「おう、リリィ、ごめんな。そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だから。・・・なあ、リリィも見てないよな?髪の毛がくるくるで、チェックのスカートの女の子・・・」
「クゥーン?」
あたしは首をかしげてみせた。
「そうだよな。泥棒が入ったらリリィもきっと無事じゃないもんな。さて、一緒に遊ぼうか」
「ワン!ワン!」(わーい!やったー!)
あたしはしっぽをブンブン振った。
そして、あたしとサトルはひとしきり遊び、その後サトルはお風呂へ行った。
「サトルは風呂だな。ちょっとあんたに相談がある」
パグぞうさんがリビングの隅から出てきて言った。
「相談って?」
「この危機的状況をなんとかするには、サトルの記憶を消す必要がある」
「え?記憶?」
「そうだ。もちろん、お隣のおばさんの記憶もだ。おばさんには『朝に人間の姿のあんたを見たこと』と『夕方にサトルに会ったこと』、サトルには『おばさんに会ったこと』と『おばさんから聞いた話』を忘れてもらう」
「そんなこと、できるの?」
「オイラが悪魔だった時は、何回か記憶を消すのはやったことがある。しかし全ての記憶を消すのはできるが『今日おきた出来事』だけ消すのは初めてやる」
「ええーっ!?ちゃんとできるの?サトルがあたしの存在まで忘れちゃうとか絶対イヤだからね!!」
「ま、まあ・・・なんとかやってみせるさ」
「なんか信用出来ないなあ・・・」
「それよりも心配なのは、ハナなんだよな」
「え?ハナ?」
「ハナってさ、あんたと違って神経質っぽいじゃん。だから、おばさんに術をかけるなんて知ったら猛反対しそうだから」
「そりゃあ、ハナはおばさんのこと大好きだから反対しそうだけど・・・ってか、さっきあたしのことバカだって言ってるみたいだった!!」
「まーまーまー、だからオイラは今晩隣の家に行って、先にハナを眠らした後でおばさんに術をかけて、それからサトルに術をかけることにするわ。まあオイラの体力次第ではサトルは明日の夜になるかもしれんが」
「ハナを眠らせるの?起きられなかったらどうするの?ずっと眠ったままだったら?」
「大丈夫大丈夫、オイラに任せな!というわけで、オイラ隣の家に行ってくる!」
「あっ!ちょっと待ってパグぞうさん!」
パグぞうさんは、パッとあたしの前から消えてしまった。
★ここからパグぞう視点★
さて、どうするか・・・
オイラはハナの家のベランダからこっそりリビングを覗き見ながら、作戦を練っていた。
ベランダのすぐ横がリビングで、おばさんとおじさんがソファーに座っているのが見える。ハナもおばさんの足元でくつろいでいるようだ。
ハナのケージもリビングにあるから、ハナはここで寝るんだろう。
お?おばさんとおじさんが動き出した。時計の針が十一時を指している。寝室に向かうようだ。ハナはケージの中のクレートに入り、リビングの電気は消され、リビングにはハナしかいなくなった。
ハナが寝付いたら、おばさんに術をかけている間に起きてこないようにぐっすり眠る術をかけるとしよう。
オイラはハナが寝付いたと思われる頃までしばらく待った後、行動に移すことにした。そおっとリビングに入り、ソファーを横切ってハナのクレートに近づく。中を覗き込むと・・・あれっ!?いない!
さっきまでリビングの中を動く様子なんて全くなかったのに・・・と焦っていたその時、オイラは後ろに何かの気配を感じた。
後ろを振り向くと・・・
「・・・・・・!!!」
★ここからリリィ視点に戻る★
朝がきた。あれから結局、パグぞうさんは帰ってこなかったのであたしは寝てしまった。そしてまだ帰ってきていない。
一体どうなったんだろう?サトルの記憶も消えちゃったのかなあ?
「おっとそろそろ時間だ」
サトルの様子はいつもと変わらない。朝ごはんを食べて部屋の中を行ったり来たりし始めた。そろそろ会社に行くらしい。
あーあ、イヤだな。出かける支度をしているのを見るの、すごくツライ。
「じゃあ行ってくるな、リリィ」
「ワン!ワン!」(早く帰ってきてね!)
あたしは玄関でお見送りをした。・・・ん?ドアの向こうから、お隣のおばさんとサトルが話しているのが聞こえる。
「あら中野さん!おはようございます」
「おはようございます。お久しぶりです」
「そうね、一週間くらいお見かけしてなかったけど、中野さん、最近お忙しかったの?」
「ええ、先週がバタバタしてまして」
あらー??
何これ何これ?昨日の夕方に会ったばかりなのに、二人とも久しぶりって言ってる。ホントに記憶が消えちゃったの?
「どうよ。上手くいっただろ」
「うわあ!びっくりした!パグぞうさんいたの!?」
後ろから急にパグぞうさんが声をかけてきたのであたしはびっくりした。パグぞうさんが言った。
「そんなにびっくりしなくても・・・さっき帰ってきたところだ」
「ホントに、“昨日会ったこと”だけきれいに忘れちゃってるね」
「おうよ。大変だったんだからな。今度はこんなヘマしないよう慎重にいかないと」
「うん・・・あ、ハナは?ちゃんと起きた?」
「大丈夫大丈夫、ちょっと眠らせただけだから。ふあーあ、オイラちょっと疲れたから寝てくるわ」
「うん、おやすみ」
パグぞうさんが寝床に帰っていくのを見ながら、あたしはパグぞうさんがさっき言ったことを思い返していた。
“今度は”・・・もし今度ショウコに会うことがあったら、あたしはどんな顔をしたらいいんだろう?




