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23.詳子とケンちゃん

サトルは真剣なまなざしで詳子を見つめた。詳子はパッと笑顔になった。


「ありがとう。じゃあ、続き話すね。えーと・・・その内容が・・・これなんだけど」


 詳子は折りたたんだチラシをバッグから取り出し、広げた。チラシには、こう書いてあった。



おいらがしんだのはしようこのせいじやない。おいらがかつてにちよこれーとをたべたせいだ。じぶんのことをせめないでほしい。かわいがつてくれてありがとう。     けんより


「・・・・・」


 サトルは目を丸くした。


「ね?やっと読めるぐらいのひどい文字でしょ?小さい“ょ”とか“っ”とか、大きさそのままだし」


「今日、僕に見せる為に持ってきたの?」


「うん。中野君なら、もしかしたら信じてくれるんじゃないかと思って」


「・・・でも、ケンちゃんってずいぶん昔に死んじゃったんだよね?」


「そうなの。だから私、最初にこれを読んだ時、てっきり親のイタズラだと思って実家に電話して確かめたの。そしたら“アンタ、バカじゃないの”って大笑いされちゃった。でも、ケンちゃんがチョコレートを食べて死んだって知ってるのは私と両親と病院の人だけだし、病院の人は私の部屋に入れるはずないし・・・」


「・・・ケンちゃんは、チョコレートを食べて死んじゃったんだ?」


「ええ・・・手紙には、自分を責めないでって書いてあるけど・・・」


「・・・聞いてもよかった?大丈夫?」


 詳子の悲しそうな顔を見て、サトルが心配して言った。すると詳子は少し微笑んで見せた。


「うん、大丈夫。ありがとう・・・あれは、私が小学校三年生の頃だったわ。私はリビングで、おやつのチョコレートを食べてて・・・」



(↓以下、幼い頃の詳子の視点による回想)


 パキッ!


「うーん、おいしい♡」


 テケテケテケ・・・


「バウバウッ」


 真っ黒なパグ犬、ケンちゃんが私の元にやってきた。


「ケンちゃん!」


「フガフガ・・・」


 ケンちゃんは私が手に持っているチョコレートの匂いを嗅いだ。


「あっダメだよケンちゃん。チョコレートは、ワンちゃんは食べちゃダメってお母さんが言ってたもん」


 そして私は、スカートのポケットに銀紙で包んだチョコレートを押しこんだ。


「バウバウッ!」


 ペロペロペロ・・・


「キャハハ!ケンちゃんったら!くすぐったいよ」


 ケンちゃんが私の顔をペロペロしてくるのがくすぐったくて私は立ちあがった。


「私、ケンちゃんのおやつをもらってくるね!待ってるんだよ」


 そして、私はケンちゃんをおいて母の元へ走っていった。


 そして数分後。


「ケンちゃん!おやつだよ!・・・ケンちゃん!!どうしたの!?」


 ケンちゃんはバッタリと床に倒れてブルブル震えていた。


「ケンちゃん!!しっかりして!!お母さーん!!」


 私は急いでお母さんを呼びに行った。その後はすぐにお母さんが動物病院に連れて行ったけど、病院に入院している間にケンちゃんは死んでしまった。

そしてあの日、ケンちゃんが倒れていた床にはチョコレートの銀紙が落ちていた。


(回想 終了)



◇ ◇  ◇



「・・・そんなことがあったんだ・・・」


「・・・うん。その後、私、ずっと自分を責めてた。だって、私がちゃんとチョコレートをポケットに入れなかったから、走った時に落ちちゃって、それをケンちゃんが食べちゃったんだもの。

両親は、これは事故だったってなぐさめてくれたけど、自分のせいだと思うと申し訳なくて、もうケンちゃんの写真も見れなくなって。もっともっと、長生きできたはずなのに・・・」


「小宮さん・・・」


 詳子は、ハンカチで涙を拭きながら言った。


「ごめんね、暗い話で。それで・・・そう、手紙の話だったよね。両親でも病院の人でもないし、友達にもケンちゃんがチョコレートを食べて死んだってことは言ってないから・・・思い当たるとしたら、本当におかしい話なんだけど、ケンちゃん本人しかいないってわけで・・・」


「確かに・・・」


「でもね、本当に天国から来た手紙だって信じることにしたら、すっごく気が楽になったの。もう、自分を許していいよって言われてるみたいで」


「でもこれ、チラシの裏にマジックペンで書いてあるよ?」


「うーん・・・それがまたヘンなのよね・・・」


「マジック・・・」


「どうしたの?中野君」


「ん?ううん、なんでもない。最近ウチのマジックペンがどっか行っちゃってさ。・・・でも、小宮さんが手紙のことを信じるなら、僕も信じるよ」


「本当に?嬉しい、ありがとう!」


 詳子は満面の笑みでサトルを見つめた。サトルも、照れくさそうに見つめ返した。



◇ ◇  ◇



一方その頃ケンちゃんことパグぞうとリリィは――


「なあ、どうしたんだよ、さっきから黙って」


 あたしは黙りこくったまま、帰り道を歩いていた。


「・・・・・」


「あれか?さっきの男達が怖かったからか?大丈夫、今度オイラが護身術を教えてやるから!」


・・・違う。あんな男達よりもびっくりしたのはショウコの方だ。ショウコにとって人間の姿のあたしは赤の他人なのに、それでも助けに来た。その優しさにびっくりしたんだ。不覚にも、ショウコのことを認めてしまったんだ・・・。


――でも、まだ認めたくないけどね!!


 あたし達は、サトルのマンションの近くまで帰ってきた。するとパグぞうさんが言った。


「あっ!マンションに着いた。ちょっとあんた、この植え込みの所に隠れて」


「え?なんで?」


「いいから!」


 あたしは言われるまま、植え込みのそばでしゃがみこんだ。


 パグぞうさんはあたりをキョロキョロ見回した後・・・


「ふんっ!」


 パァァァ・・・


 まっ、まぶしい・・・!


 気がつけば、あたしはサトルの部屋に帰ってきていた。


「あれっ!?サトルの部屋だ!」


「犬の姿に戻すぞ」


 プシュー・・・


 あたしの体から煙が出てきて、あたしは犬の姿に戻った。


「今朝さ、オイラとあんた、この家の玄関から外に出たろ。あの時、誰かに見られてた気がするんだよな。だから念のため、玄関から入らないようにしようってな」


「ふーん・・・」


 誰かが見てたって、問題あるのかな?


――問題大アリだった!!


 夕方になって、サトルの足音が聞こえてきたのであたしは玄関へ迎えに行った。その時、ドアの向こうでお隣のおばさんとサトルの話す声が聞こえたのだ。


「中野さん、こんばんは」


「あ、こんばんは」


「あら、彼女は?一緒じゃないの?」


「えっ!?彼女!?」


「だって、今朝見たわよ?茶髪の若い女の子が中野さんのお宅から出て行く所」


 ええーっ!??




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