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22.リリィ危機一髪!

「映画館は座る所が決まってるんだから、こっち!」


 あたしは渋々パグぞうさんの言うとおりの所に座った。でも、前の方にいるサトルとショウコの姿は薄暗い中でもはっきり見える。


 すると、部屋がもっと暗くなった。パグぞうさんが小声で言った。


「今から、オイラがいいって言うまで一言もしゃべるんじゃねーぞ」


「何で?」


「そういうもんなの!しーっ!!」


 ヘンなの!家ではテレビに向かって吠えてもサトルは怒んないのに。


♪~


 音楽が流れ出し、大きなテレビ画面に出てきたのは、たくさんの犬だった。でもヘンな犬。こんなに目も鼻も大きくないよ?


しかも犬達は、マンションに住んでて、飼い主がいない間に家を飛び出して大冒険をするんだって。絶対ムリだよ!普通はカギ開けられないもん!


(しかしサトルも詳子も初めての映画デートだっていうのに見るのがアニメ映画かよ!しかも犬が主役って・・・犬好きらしいとはいえ、ムードがないな。

それにしてもリリィのやつ、ちゃんと黙って見てるんだな。絶対何かブツブツつぶやくと思ったのに。

ありえないっ!とか・・・って寝てるし!!)

byパグぞう


zzz・・・・・


 あたしは夢の中であの大きな画面の中に入って他の犬達と大冒険していた。街の外に出て、山へ行ったり海で泳いだり、雪の中を転げまわったり・・・


「おいっ!起きろ!おいっ!」


「ん・・・?ムニャムニャ・・・」


「もう映画終わったぞ!サトル達ももう出て行った」


 パチっと目が開いた。


「えっ!?どこに行ったの!?」


「二人とも、もう外へ行った。早く追いかけるぞ!」


「うんっ!」


 あたしはバタバタと、急いで映画館の外へ向かった。


「ねえ、なんかあたし皆に見られてる?」


「そりゃそうさ。なんせ一人で大声で騒いでるんだから」


 あたし達は映画館の外に出た。


 クンクン・・・サトルはこっちだ!


 しばらく走るとサトル達の後ろ姿が見えた。


「あっ!サトルいた!」


「これ以上間は詰めずに歩いて後をつけるんだ」


 あたしはサトル達の後ろ姿を見ながら歩いた。それにしても、人多いなあ。


「ねえ、何でこんなに人が多いの?」


「そりゃ日曜日だから」


「ふーん」


「ねえねえ君、ヒマ?」


 ん?パグぞうさんの声じゃない?


 あたしは後ろを振り返った。大きな男の人が二人立っていた。その内の一人が言った。


「君、けっこうカワイイね。俺らとどっか遊びに行かない?」


 カワイイだって!でも・・・こんな人達に言われてもあんまりうれしくないな。だって二人ともブサイクなんだもん!


 もう一人の男の人が言った。


「俺ら車あるしー。どこでも好きな所連れてったげるよ。さあさあ、エンリョせず行こー」


 そしてグイッとあたしの前足をつかんだ。イタッ!


「イヤだ!やめてよ!」


 あたしは男の手を振りほどいて大声で言った。途端に、男達の顔つきが怖くなった。


「何だあ?ちょっとカワイイからって調子に乗りやがって!」


 ちょっとちょっと何?コワイ!


「おいリリィ!こいつらヤバイ!早く逃げるんだ!」


 パグぞうさんがそう言ったけど、後ろ足が動かない・・・!!


「ちょっと、何してるの!」


 聞き覚えのある声。声の方を向くと、ショウコがいた。


「その子、私の知り合いなの。ヘンなことするんだったら警察呼ぶわよ!」


 ショウコが怒って言った。ショウコが怒るの、初めて見た。周りの人達も、立ち止まってこっちを見ている。


 男たちは「クソッ!」と言って逃げていった。


 ふーっ。怖かったあ。どうなるかと思った。


「あなた、大丈夫?」


 ショウコがあたしを見て心配そうに言った。


「うん、大丈夫・・・あの、あたしのこと、知ってるの?」


「ううん、あの人達を追っ払うのに咄嗟に嘘をついたの。知り合いだって」


 ショウコは笑って言った。


 そうだったんだ。あたしの正体バレてなくてよかった。


「小宮さん!大丈夫!?」


 サトルが人込みをかき分けて、慌てた様子でやってきた。そういえば、人間の姿でサトルに会うのも初めてだ。いつもと違う角度から見ても・・・カッコイイ♡


「あ、中野君。大丈夫よ、彼女が男の人達に絡まれてたから追っ払ってたの。じゃあ私、行くわね。気をつけてね」


ショウコは笑って言った。


「あ、はい、ありがとうございました」


 サトルもあたしに会釈して、二人は去っていった。

 

二人の後ろ姿を見つめるあたしにパグぞうさんが言った。


「やれやれ、アブない所だったな!詳子に感謝しなくちゃな。・・・ん?どうした?」


「パグぞうさん。あたし帰る」


「えっ!?二人の後、追わないのか?」


「うん」


「どうした?具合悪いか?さっきので怖くなったか?」


 パグぞうさんが心配そうに聞いてきた。


「ううん、大丈夫。帰ろう」



◇ ◇ ◇



 リリィとパグぞうが家に帰ろうとしている頃、サトルと詳子はレストランに入っていた。


「それにしても、小宮さんがあんなに勇敢な人だとは思わなかったよ」


「自分でもびっくりしてるの。気がついたら体が動いてた」


「でも危ないから、これからは僕のことも頼ってよ。・・・って、なんかキザっぽいな」


 サトルは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「うん・・・ありがとう」


 詳子は頬を赤らめ、ほほ笑んだ。


「そういえば・・・さっきの女の子、初めて会ったはずなのに、どこかで会ったことがある気がするの」


 詳子が言った。


「そうなの?」


「うん、中野君も見覚えない?私、中野君と一緒にいる時に会ったような・・・」


 サトルは思い出そうと目をつぶった。


「うーん・・・僕はわからないや」


「そっか。ごめんね、ヘンなこと言って。それにしてもさっきの映画、面白かったね」


「うん。ウチのリリィが留守番の間に何やってるのか、ちょっと気になった。まさか映画みたいに家を出て外に行くことはないだろうけど」


「アハハ。犬達がなんか人間みたいでおもしろかった」


「リリィも人間みたいな所があるよ。病院で注射してもらう時なんてブルブル震えて前足で顔を隠すし」


「そうなの?なんかカワイイね」


「ま、僕も注射は嫌いだけどね・・・?どうしたの、小宮さん?」


 詳子は、おずおずと切り出した。


「・・・あのね、もう一つヘンなこと言ってもいい?」


「?うん」


「ちょっとありえない話なんだけどね。この前、家に帰ったら机の上に手紙が置いてあったの。すごく汚い字でやっと読めるくらいだったんだけど、差出人が・・・ウチの犬だった」


「え?犬?」


 サトルはキョトンとして聞き返した。


「うん。前に言ったことあったよね。昔、実家でパグを飼ってたって。名前はケンちゃんっていうんだけど、差出人の名前がケンだったの。

手紙の内容も、ケンちゃんしか書けないような内容で・・・ってバカみたいだよね!アニメみたいな話、誰も信じないよね!やっぱりこの話、忘れて・・・」


 詳子は恥ずかしそうに慌てて話を切り上げようとした。


 すると、サトルが言った。


「何て書いてきたの?聞かせて」


「・・・信じてくれるの?」


「うん。小宮さん、ウソつく人じゃないでしょ」


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