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15.エンマ大王

「リリィよ。しっかりワシにつかまっておるんじゃよ」

神様が言った。


 でもそんなこと言われたって、風が強すぎて飛ばされちゃう!!あたしは必死に神様にしがみついた。神様はすごいスピードで真っ暗な中を羽を広げて飛んでいく。


 そして、しばらく後。


「リリィよ。もう目を開けてよいぞ」


 あたしはおそるおそる目を開けてみた。するとそこは何もない、真っ暗な空間だった。


「神様・・・ここはどこ?」


「ここか?ここは、地獄の入口じゃ。ほれ、あそこに扉が見えるじゃろう」


 神様が鼻をくいっと向けた遠くの方に、たしかに扉らしきものが見えた。神様はその扉に向かって歩き出した。あたしもおそるおそる、後をついて行った。


「扉って・・・こんなに大きいの!?」


 近くに行って見たら、地獄の扉はウチの家の扉よりもずっとずっと大きくて、重そうな扉だった。これじゃ、百匹の犬が押して開くかどうかだ。


ビクッ!


 あたしは何かの気配を感じて神様の陰に隠れた。

 神様は穏やかな口調で言った。


「出迎えご苦労さん。この子がおびえておるから、早く姿を見せてやってはくれんかの」


 そう言われて姿を現したのは、とても細くて骨と皮だけみたいな二匹の犬だった。目つきが怖すぎて、あたしはますます神様のそばに寄った。


 神様は言った。


「さきほど、パグの悪魔がこの扉の向こうに連れていかれたと思うが、その件でエンマ大王と話がしたいのじゃ。取り次いでくれんか」


え?エンマダイオウって誰?この犬達よりもっと怖いの?


 とても細身の門番犬の一匹が、とても冷やかな声で言った。


「エンマ様は大変忙しくしておられますので、事前のお約束がないとお取り次ぎできません」


 神様がすかさず言った。


「なにぶん、急を要するものでな。なんとかお願いできんかの」


 もう一匹の門番犬が同じくらい冷ややかな声で言った。


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 その門番犬が扉の前に向かうと、あの大きな扉がギィーッと音をたてて開いた。と同時にこの世のものとは思えない、ギャーッというおそろしい叫び声が聞こえてきた。


「かっ神様!!これっ、これって何!?」


 門番が扉の向こうに消えて扉が閉まると、叫び声は止んだ。


 あたしの問いに、残った門番犬が答えた。


「あれは地獄に落ちた者達の苦しみの叫びです。あの扉の向こうには、ありとあらゆる痛み、苦しみが待っているのです」


「そっそんな・・・あの扉の向こうにパグぞうさんがいるんだよね?ねえ神様、パグぞうさん大丈夫なの!?」


 神様は険しい表情をして言った。


「できるだけ早く助けられるよう、早く話をつけねばのう」


 その後しばらく沈黙が続いた。エンマ様とやら、どんなに怖いかわからないけど早く出てきてー!でないと、パグぞうさんが痛すぎて死んじゃう!・・・あ、はじめからもう死んじゃってるんだった。


 ソワソワしながら待っていたその時。


ビクッ!!


な、なんかとてもおそろしい何かが来る気配・・・!!


ギィーッ・・・


 扉の開くイヤな音と共に出てきたのは・・・とてつもなく大きくておそろしい犬だった。


コ、コワイ・・・!!神様よりもタテにもヨコにも10倍は大きい。扉と同じくらいの大きさだ。


 その犬は、ギョロリと眼光するどい目であたしを見た。あまりのおそろしさに体が固まって動かない。顔の皮膚はだるだるにたるみ、大きな鼻から出ている鼻息さえおそろしい。

パグぞうさんはブサイクだと今まで思っていたけど、このエンマ大王の方がずっとブサイクだ。でもそんなこと、とても口にはできない。


「こんにちは、エンマ大王」


 神様のやわらかい声にはっとして、あたしは急いで神様の陰に完全に隠れた。


「久しいな、天国の神よ」


 エンマ大王は低い、ぼそぼそとした声で言った。大声でどなるかと思っていたので拍子抜けだった。


「早速じゃが、パグぞうという悪魔にチャンスを与えたいのでな、ここから出してほしいのじゃ」


「またおぬしの気まぐれか。何度やっても皆またここに戻ってきたではないか」


「今度はいけそうな気がするのじゃよ。なんとか願いを聞いてもらえんかの」


「どうせここに戻ってくるのに、ぬか喜びを与えることになるぞ。なぜ、天界の仕事をまともにできなくて悪魔に成り下がった奴なんかにチャンスを与えるのか」


「ワシは必要と思えば、誰にでもチャンスを与えることにしておる。パグぞうは今度は本気で頑張ってくれるはずじゃ。それに、今回はこの小さなレディーが一緒じゃから大丈夫じゃよ」


「レディー?」


ん?レディーってあたしのこと?と思って少しだけ顔を上げてみたら、大きな顔がこっちに向かってきたので慌ててまた隠れた。


「誰もおらんが」


「そなたの顔がこわすぎるから、おびえてワシの後ろに隠れておるのじゃ」


「フン、いつもこんな顔だ」


「今は囚犬が目の前におるわけじゃないから、いつもの顔と大きさに戻ればよかろう」


「面倒くさい。それよりそなたの後ろのそれは何なのだ」


「彼女はパグぞうの良き友人でな。とても利口じゃ。きっとワシの与える試練にも二人で頑張って立ち向かってくれるじゃろうと思っておる」


「フン、そこまで言うなら・・・今回だけだぞ」


「いつも無理を聞いて下さり感謝しておりますぞ。さて、もう扉のそばに来ておるのであろう?」


「あいつはここに来てすぐに気絶しおった。こんな軟弱者見たことない。連れてこい」


「はっ!」


 骨と皮の犬達が扉の中からパグぞうさんを連れてきた。


「パグぞうさん!」


 あたしは思わずパグぞうさんに駆け寄った。目を閉じて動かないけど、死んでないよね?


「フン、小さいな」


「!!ヒィーッ!!」


 あたしは急いで神様の陰に隠れた。神様が言った。


「パグぞうは気を失っておるだけじゃ。それにエンマ大王は本当は優しいんじゃよ。

全ての犬は死んだらまずこのエンマ大王に会うことになっておる。そなたも死んだらまた会うことになるじゃろう」


「えっ!?また会うの!?」


「フン、嫌われたもんだ」


「さてさて、忙しい所悪かったの。ワシらはそろそろおいとまさせていただこう。エンマ大王、達者でな」


「フン、そっちもな」


 エンマ大王はくるっと後ろを向いて扉の向こうへ帰ろうとした。


「あのっ!」


 思ったより大きい声で叫んでしまった。エンマ大王はこっちの方に振り返り、なんだという顔をした。あたしは勇気を出して言った。


「あの、エンマ大王様・・・ありがとうございました」


 するとエンマ大王はとてもびっくりしたように目を見開いた。


「ふぉふぉふぉ。エンマ大王よ、礼など言われたことがないからびっくりしたじゃろう」


 神様が笑って言った。


「フ、フン・・・礼には及ばぬ。じゃあな」


 エンマ大王は元のおそろしい顔に戻り、さっさと扉の向こうへ行ってしまった。


「行っちゃった」


「エンマ大王はあれでもとても喜んでおるんじゃよ。リリィよ、よくぞ礼を言ってくれたの」


「だってパグぞうさんを助けてくれたもん。神様も、ありがとうございました」


「おやおや、ワシに礼を言うのはまだ早いぞ」


「?」


「とにかく一度、地上に戻ろう。パグぞうの足をしっかりとつかんでおくのじゃぞ」


 あたしは言われたとおりに右足で神様の足を、左足でパグぞうさんの足をつかんだ。


「では戻ろう」


 またもすごい強風が吹いてきて飛ばされそうになりながら、あたし達は真っ暗な中を進んでいった。そして気がつけば、あたし達はあたしの家のリビングに戻ってきていた。


「やっと戻ってきた・・・」

あたしはホッとしてその場にへたり込んだ。


神様が言った。

「リリィよ。パグぞうはしばらくしたら目覚めるじゃろう。それまでそっとしておいてやるのじゃぞ」


「うん」


「では、ワシはパグぞうが目覚める頃にまた来ることにしよう」


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