14.犬の神様
それから何日間かは、ずっとパグぞうさんと文字を書く特訓が続いた。といっても、あたしはすぐに疲れるし、パグぞうさんの魔力ってのもすぐになくなって、あたしはすぐに犬に戻っちゃう。犬に戻ったらパグぞうさんが回復するまで寝て、あたしも寝る。で、起きて人間になって、特訓して、犬に戻っての繰り返し。
でも初めはフニャフニャだった線はまっすぐ書けるようになったし、文字もいくつか書けるようになった。おかげで右の前足と肉球が痛くてしょうがない。右足が痛いから、歩き方もヘンになっちゃう。サトルの前ではガマンして普通に歩くけど、この前の散歩の途中に会ったハナにはすぐにバレてしまった。
~回想~
「ねえリリィ。右足どうしたの?ケガしてるの?」
「えっ!?なんでわかるの!?」
「そのヘンな歩き方、見たらすぐわかるわよ」
「えー・・・サトルにはバレてないかなあ。あのね、実はあたし、文字を書く練習をしてるんだ」
「えっ!?文字!?」
「うん」
「なんで?」
「うーん・・・全部話すと時間がかかるんだけど、ショウコに手紙を書くことになったの」
「全然わからないんだけど」
「うん。あたしも実はよくわかんない」
「あの悪魔さんの為なのね?」
「そうそう。文字書くのって大変なんだよ。右足使うから疲れて痛くなっちゃうの」
「じゃあ、ケガじゃないのね?」
「うん。大丈夫」
「ならいいけど・・・」
~回想終了~
ハナはなんとかわかってくれたみたいだけど、心配かけちゃった。まあ、サトルにはまだバレてないみたいだし、パグぞうさんはもうすぐ終わるって言ってたし、あとちょっと頑張ろう。
「・・・って、あとちょっとってどれくらい!?全然終わんないじゃん」
あたしが不平をぶちまけると、パグぞうさんが言った。
「まあまあ、ホントにあと少しだから!たぶん今日には終わる」
「ホントに?」
でもホントに早く終わってくれないと困る。あたしも痛くてしんどいけど、パグぞうさんの方がずっとしんどそうなんだ。初めて会った時よりもずっと痩せたような気がするし、最近は声を出すのもなんだか辛そう。ホントに死んじゃうみたい・・・ってあれ?
「・・・ねえねえ、パグぞうさん、一つ聞いてもいい?」
「おう、いいぞ」
「パグぞうさんって一回死んでるから悪魔になったんでしょ。二回も死んじゃうの?」
するとパグぞうさんはしばらく考えた後、言った。
「死ぬって言った方がわかりやすいからそう言ったんだが、正確に言うと地獄に落とされる」
「ジゴク?」
「地獄ってのは、悪いことをした奴らを苦しめる所だ。すごく恐ろしいらしい。オイラ達悪魔は、地上で生きてる奴の寿命をとって活動してるけど、これは地獄に落とされて当然のことなのさ。
だから地獄の看守がいつもオイラ達を捕まえようと狙ってる。でもオイラ達も、そう簡単には捕まりはしない。魔力で看守を追っ払ったり、うまく隠れたりしてなんとかやり過ごす。
でも魔力がなくなって、自由に動けなくなると逃げられなくなってくる。そして完全に魔力がなくなると、身動きできなくなるから必ず看守がオイラ達を捕まえに来る。そして地獄に連れて行かれる」
「そうなんだ・・・」
そんな怖いところへ行かずに済む方法はないのかな?ちゃんと元気になろうと思ったら悪魔のお仕事をしないといけないって前に言ってたけど・・・
そんなことを思いながら、あたしはパグぞうさんの言うとおりに文字を書いていき、そして・・・
「よっしゃ!これで終わりだ!お疲れさん!!」
パグぞうさんが嬉しそうに言った。
「えっ!?ホントにホント!?やったー!!」
とうとう終わった。何日かかったんだろう?長かったなー。
あたしはテーブルの上の紙を見た。どんなことが書いてあるのかあたしは読めないからわからないけど、たくさんの文字が並んでいる。これだけたくさんの文字を書いたんだ!あたしってすごーい!
パグぞうさんが言った。
「あとはこれを折りたたんでくれ。・・・そうそう。じゃあ、オイラちょっと疲れたから寝るわ」
パグぞうさんは手紙を抱えて、いつものソファーの裏に飛んでいった。あたしも、体から煙が出て犬の姿に戻った。
あーあ、あたしも疲れちゃったからちょっと寝ようかな・・・
あたしはクッションの方へ行こうとした。すると、パグぞうさんがソファーの端っこから顔を出して言った。
「あのさ・・・リリィ。今までありがとうな」
「え?うん、いいよ。ってか何?今まであたしのこと、あんたってしか呼ばなかったのに」
「うん、まあな。こういう時くらいちゃんと言っとこうと思ってな」
◇ ◇ ◇
目が覚めたら、パグぞうさんはいなかった。
ショウコの家に手紙を届けに行ったのかな?ちゃんと行けたのかな?最近は飛び方も少しフラフラしてたけど・・・
あたしは一人ぼっちの部屋で、何だかいつも以上に寂しく感じた。パグぞうさんと、あーだこーだ言いながら一日を過ごしてたから、サトルが帰ってくるまで寂しくなくて済んだんだ。
パグぞうさん、また来るかな?また来るよね!あたしが呼んでなくても来てたんだし。
そう思ったら安心して、もう一眠りしようかとクッションの上で丸くなってたら、薄暗い部屋が急に明るくなった。
えっ!?何!?
まぶしくて目が開けられない。あたしが人間に変身する時よりもずっとずっとまぶしくて、強い光・・・
「リリィよ」
ビクッ!!
誰!?あたしの名前を呼ぶのは!
聞いたことがない声。なんだか・・・なんだか人間の声じゃないみたい。
「リリィよ。目を開けなさい」
ビクビクッ!!
そんなこと言われたって、怖くてまぶしくて開けたくない。でもあたしは、おそるおそる目を開けてみた。
そこにいたのは、鳥みたいに大きな羽の生えた犬だった。羽をパタパタさせて、宙に浮いている。大きさは、ハナより少し大きいくらい。フサフサな毛がツヤツヤと光っている。
「あなたは・・・?」
羽の生えた犬は、穏やかな口調で言った。
「ワシか?ワシは、犬の神様じゃ」
「カミサマ!?」
犬の神様って・・・あたし達の願いを叶えてくれるっていう、あたしが毎日毎日おまじないを唱えても来てくれなかった、あの神様!?
頭の上にはキラキラと光る輪っか、体全体から出るまぶしい光・・・たしかに神様っぽい。
神様は、あたしを見て言った。(といっても、フサフサの毛で目が隠れてるけど)
「驚いているところ悪いがの、ちょっと急ぎの用件で来たのじゃ」
「急ぎ?」
「そなた、悪魔のパグぞうのことは知っておるな?」
「!知ってるよ。パグぞうさんどうしたの?」
「パグぞうが、地獄に連れていかれたのじゃ」
「ええっ!?」
「そなた、パグぞうを助けたいかの?」
「もちろんだよ!!だって、大事な友達だもん!」
「それでは、今からワシの言うとおりにできるかの?」
「うん!・・・って、あたし、どうなるの?死ぬの!?」
「いやいや、死ぬとは言っておらんよ。ただ、一緒に地獄まで来てほしいのじゃ。パグぞうを迎えに」
「う・・・うん。地獄って怖いって聞いたけど、行く!パグぞうさん、大丈夫なの?」
「今さっき連れていかれたそうじゃから、まだ間に合うじゃろう」
「それならいいけど・・・でもなんで連れて行かれちゃったの?」
「ワシの部下の天使によると、パグぞうは手紙を届けた先で力尽き、そこで地獄の看守たちに捕まったそうじゃ」
「そんな・・・」
「さ、急いで行かねば。ワシの前足にそなたの前足をのせるのじゃ」
「う、うん!」
あたしは神様に駆け寄って、その前足にちょん、とあたしの前足をのせた。
すると、あたりが急に真っ暗になって、ビュービュー、ゴーゴーとすごい強風が吹いてきた。




