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13.リリィ、反抗する

サトルの家の新聞入れは、ものすごく高い所にある。だから普段は全然足が届かない。というのも、ここに来たばかりの頃、床の上に置いてあった新聞入れから新聞を引っ張り出して、ビリビリにちぎって遊んで、後でものすごく叱られたことがあるからだ。


それ以来、新聞入れは高い所へ移動した。そしてその後、ティッシュも、リモコンも、ゴミ箱もペン立ても全部、足が届かない所へ行ってしまった。


 それが人間になった今では余裕で届く!でもビリビリにして遊ぶヒマはない。


「あんたに漢字を教える時間はないから、全部ひらがなでいく」


パグぞうさんが言った。


「カンジ?ヒラ・・・?」


「さ、ペンを持って」


 まずペンを持つのが難しいってすぐにわかった。人間の手は指が長くてどう曲げたらいいかよくわからない。パグぞうさんもちょっとイライラしている。


「あー違う。・・・そうそう、そのまま!そのままペンを紙につけて、そうそう。フニャフニャでいいから」


 初めて書いた文字はなんだかフニャフニャだった。

 あー、なんだかこれだけで疲れちゃった。


パグぞうさんもなんか疲れた顔をしている。・・・っと思ったら、あたしの体から白い煙が出てきた。


「パグぞうさん!あたしの体から煙が」


「スマン、今日はもう魔力がない」


 煙が消えて、あたしは犬に戻った。


「犬に戻っちゃった」


「続きはまた明日だ。とりあえずマジックペンと紙はサトルがわからない所に隠しといてくれ。オイラ少し寝る」


 そう言って、パグぞうさんはソファーの裏側へ飛んで行ってしまった。


 あたしはパグぞうさんに言われたとおりに、マジックペンと紙をあたしのベッドの奥に隠した。このベッド、三角屋根がついていて、モフモフで気持ちいいの。


 ベッドの奥には他にもあたしのお気に入りのおもちゃがいっぱい入ってるし、実はサトルの靴下も隠してあるんだ。

 ベッドに隠したついでに、あたしも寝ることにした。なんだかすっかり疲れちゃった。


「ただいまー」


 あたしは目がパチっと開いた。サトルが帰ってきた!


 おかえりおかえりー♪


 あたしはダッシュでサトルの元へ行き、ぴょんぴょん跳ねた。


「おー、ただいまリリィ。さあ、ごはんにするからな」


 やった!ごはんだ♡今日は人間になって頑張ったからおなか減ったよ。


「あれ?ここに挿してあったマジックペンがない」


 ギクッ!


 サトルはあちこちを見回って探している。さっき隠したやつ、もうバレちゃうの!?


「うーん・・・まあいいか」


 ホッ・・・あーびっくりした。


 ごはんを食べた後、あたしがいつものようにサトルの膝の上でゴロゴロしていたら、サトルがあたしを抱き上げて、あたしの目をじっと見つめて言った。


「なあリリィ。小宮さんと仲良くできるか?」


 ・・・え??


「クゥン?」


 あたしは首をかしげた。


「アハハ、ごめんな。気にしないでいいよ」


 サトルは笑って言った。


 コミヤ?どこかで聞いたことがあるような・・・あっ!思い出した!ショウコのことだ!・・・って、一体どういうこと??


 あたしはサトルがお風呂に入っている間にパグぞうさんをゆすって起こした。


「パグぞうさんパグぞうさんパグぞうさーん!!」


「だあっ!!うるさいな!!何だよ!?」


「あたし、ショウコの家に行かなきゃならないの?」


「は?」


パグぞうさんは、何のこっちゃという顔であたしを見た。


「だってサトルが言ってたんだもん!リリィ、コミヤさんと仲良くできるか?って」


「・・・・・」


「それってそういうことでしょ?でもイヤ!あたしはサトルと一緒にいたいの!」


「・・・・・あんたに今まで言ってなかったことがある」


「え?何?いきなり」


「実は・・・サトルは詳子のことが好きみたいなんだ」


「えっ!!!なんで!?」


「なんでって言われても」


「いつから?ってか、なんで言ってくれなかったのよ!?」


「オイラが気がついたのは、前の作戦を練るためにサトルの会社に通ってた時だけど、言ったらあんたが怒るってわかってたから」


「そりゃ怒るよ!!う~、あの女、サトルのこといつの間にたぶらかして」


「詳子もサトルのことが好きみたいだぜ」


「えっ!?ウソ!!」


「つまり相思相愛、両想い」


「そんな・・・」


「で、たぶんサトルは自分と詳子がもし付き合ったら、あんたがちゃんと懐いてくれるか気にしてるみたいだな。まあ、まだ告白すらしてないみたいだけど」


「えっ!?そうなの!?」


「おう。だから告白してから心配しろよって感じだな」


「じゃあ、まだあたしにもチャンスがあるってことじゃん」


「いや、ない」


「なんでよ!!」


「!サトルが風呂から上がったみたいだぞ」


 お風呂上がりのサトルがリビングに戻って来た。あたしは一目散にサトルにかけ寄り、サトルの足の周りをぐるぐる回った。


「?どうしたリリィ?」


「クゥーンクゥーン」


 あたしはしっぽをブンブン振り、思いっきり甘えた声を出した。


「どうした?遊んでほしいのか?」


 サトルはあたしをだっこした。あたしはサトルの顔をペロペロなめた。


 ウソだよね?サトルはあたしのことが一番好きなんだよね・・・?

 


◇ ◇ ◇



 そして、翌朝。


「うわーっ!!コラ!リリィ!」


 あたしはサトルに会社に行ってほしくなかったから、会社用のカバンの中身を全部引っ張り出して床にぶちまけてやったのだ。


「もう~なんでこんなこと・・・まるでウチに来たばかりみたいだ」


サトルはカバンの中身を片付けながら言った。


 そう、このウチに来たばかりの頃も、一人ぼっちになるのがイヤで、同じことをしてサトルを困らせていた。


「じゃあ行ってくるから!いい子にして・・・あれっ!?靴は!?」


 もちろん、靴もどこかに隠しましたとも。


 そんなこんなで、サトルはバタバタと会社へ出かけていった。


「さっきのドヤ顔はなんだよ。やってやったぞ、みたいな」


 パグぞうさんがあきれ顔でソファーの裏から現れた。


「久しぶりに困らせてやったわ。今からこのリビングもめちゃめちゃにするから」


「そんなことしたら嫌われるぞ?」


「・・・だって」


「まあまあ、オイラが見てる限りあの二人はすぐに付き合うことにはならんだろう。なんてったってサトルがいくじなしだから」


「ガウッ!サトルのこと悪く言わないでよ!」


「牙をむくなよ!とりあえず落ち着いて、昨日の続きやろうぜ」


「イヤだ」


「何ぃ?」


「ショウコの為になることなんて、やりたくない」


「昨日はオイラの為にやってくれるって言ったじゃんか」


パグぞうさんが困り顔で言った。


「気が変わった」


「も~これだから女ってのは!」


「どうせパグぞうさんもショウコの味方なんでしょ」


「違う違う!オイラはあんたの味方だから!」


「・・・え?」


「詳子もあんたには勝てないよ。だから、心配しなくても大丈夫だって!」


「・・・そう?」


「そうそう!あんたの方が断然カワイイし、サトルのことをよくわかってる」


「そうだよね!あたしの方がずっといい女に決まってる!」


「じゃあ、昨日の続き、お願いできるか?」


「うん、いいよ!」


(フー・・・これだから女ってのは。気の強さではあんたの方がずっと勝ってるわ)


「え?なんか言った?」


「いや、何も」



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