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11.リリィ、入院する

え?今はできないって、どういうこと?


「なんで?」


「すごく手間がかかるからさ。それならできるだけ休んで、こっちの作戦を進めた方が早い」


「そうなの?」


「そもそも悪魔は生きてる犬の依頼を聞く代わりに寿命をいただいて、それを魔力に変えて活動してるんだ。

だから魔力をちゃんと増やそうと思ったら依頼者を探して、依頼を聞かなきゃならない。あんたと初めて会った時のようにな。


どんな依頼が来るかわからないし、どれだけ時間がかかるかもわからない。


だからオイラはあんたにこの頼み事をした時から、作戦実行にすべての時間を費やす為に仕事を辞めたし、仕事しないってことは魔力が減り続けていずれ死ぬってことも覚悟してた。でもまさか、こんなに早く・・・」


 あたしが何も言えずにいると、パグぞうさんが言った。


「でもまあ、今はまだ心配するな。さあ、そろそろ帰るぞ」


「え?もう大丈夫なの?」


「いつまでもこんな所にいるワケにはいかないだろ?夕方までに家に帰らなきゃサトルが帰ってきちまう」


 そんなわけで、あたしはまた人間にしてもらって、公園を出て、駅に行って、電車に乗って家に帰ってきた。


「あー!やっと着いた!なんか疲れた~~」


 あたしは犬の姿に戻るなり、お気に入りの丸いクッションにバッタリと倒れこんだ。


「オイラも疲れた・・・じゃあ帰るわ。計画練り直してからまた来る」


「うん、バイバイ」


 パグぞうさんはパッと消えた。


 あたしは、一人クッションの上でゴロゴロしながら考えた。


 パグぞうさん、大丈夫かな?急にあんなこと言うからびっくりしたよ。なんか、まだ信じられないけど・・・


 あっ!せっかくサトルの会社まで行ったのに、サトルに会えなかった!パグぞうさんのウソつき。今度会ったら文句言ってやろう。さーてと、今日はいろいろ頑張ったから、しばらくゴロゴロしてよっと。


 そうしてクッションの上で丸くなってウトウトしかけた、その時。


「!!!キャン!キャン!」


 おなかが急に、ものすごく痛くなった。


 痛い!痛いよ!おなかが痛い!サトルー!早く帰ってきてー!!


 あたしは一人、丸くなっておなかの痛みに耐え続けた。


「キューン・・・」


 あたし、何かヘンなもの食べたっけ?食べたのは、朝に食べたごはんと、人間のお姉さんにもらったクッキーだけなのに・・・もしかして、あれってやっぱり人間用だったのかな?それでこんなにおなかが痛いのかな?


じゃあ、あたし、パグぞうさんみたいに死んじゃうの?そんな、サトルに会えないまま死ぬなんて。ああ、サトルに会いたい。早く帰ってきて。あたしを助けて・・・


 あっ!サトルの足音が聞こえる!!


 ガチャ、ガチャ・・・


「リリィ、ただいま。・・・!!どうした!?」


「キューン・・・♡」


 ああ、サトルだ・・・♡死ぬ前に一目会えてよかった・・・


「リリィ、リリィ、しっかり!すぐ病院に連れて行くからな!」


・・・・・サトルの声が、だんだん遠くなってゆく・・・・・




◇ ◇ ◇



 気がつけば、あたしはがらんとしたケージの中にいた。


 そうか、ここは病院だ。チューシャでいつもサトルに連れてこられる病院の匂いがする。そうか・・・あたし、助かったんだ・・・。


 あれ?でもサトルの匂いがしない。あたしを置いて帰っちゃったの?


「クーン、クーン」


 病院は大キライなのに、一人で残されるなんてイヤだよ。サトルと一緒に家に帰りたいよう。

サトルー、どこ?寂しいよー。


「クーン、クーン」


「なんじゃ、騒々しい」


 ビクッ!えっ!?誰!?


急に隣のケージから声がしたのであたしはびっくりした。


「あの、ごめんなさい」


「なんじゃ、子犬か」


 あたしは子犬と言われてムッとしたので言い返した。


「あたし、子犬じゃありません。もう大人です」


「ワシからしたら、あんたはまだ子犬じゃ。声聞きゃわかる」


 ケージの向こうの誰かさんは、しわがれ声で答えた。


「・・・おじいさん、いくつなの?」


「さあなあ・・・ともかくワシはだいぶ生きたぞ」


「ふーん・・・」


「あんたも病気か?若いのに」


「ううん。実は、人間の食べ物を食べちゃったみたいなの」


「なんとまあ、愚かな!」


「うん。自分でも本当バカだって思う」


「まあ、ワシも昔は何度か食ってしまったから叱る資格はないんじゃが。でもこれでわかったろう。主人を心配させて悲しませて悪いことをしたと」


「うん」


「これからは、主人を心配させてはいかんぞ」


「うん、わかった」


「まあその元気そうな様子じゃ、明日にでも主人が迎えに来るじゃろう」


「えっ本当?よかったー」


「ワシも早く主人に迎えに来てもらいたいもんじゃ。でないと先に天からお迎えが来てしまう」


「えっ!?おじいさん、死んじゃうの!?」


「ああ。こう年をとると、自分がもうすぐ死ぬってのがわかるんじゃ。できれば主人のそばで死にたいのう」


「そうなんだ・・・」


「まあ、ワシは後悔しておらん。主人と暮らせて、長生きできて幸せじゃった。あんたも長生きして、主人を幸せにしておやり」


「うん」


「さあ、もう寝なさい。他の犬や猫に迷惑がかかる」


「うん、おやすみなさい」


 あたしは目を閉じた。


 隣のおじいさん、もうすぐ死んじゃうんだ・・・あたしはなんだか悲しくなってきた。

 ! そうだ、パグぞうさんももうすぐ死んじゃうんだった!パグぞうさん、大丈夫かなあ・・・なんか、すごく眠いなあ・・・

 ZZZZ・・・・・



◇ ◇ ◇



 パチッ!

 あたしは急に目を覚ました。すると、目の前にパグぞうさんの顔があった。


「うわあっ!」


「うわあっ!じゃねえ!このアホ!アホ!アホー!!」

パグぞうさんはものすごく怒っていた。


「そんなに言われなくてもわかってるよ!あたしがバカでした!」

あたしもムキになって言い返した。


「まったく。いつの間に人間の食いもん食ったんだよ。オイラの見てないうちに何やってんだか!」


「もう反省したよ!」


「まあ、そこの看護師の話聞いてりゃ、あんたは一時的に下痢をおこしたが命には別条なくて、今日にも退院できるらしいぜ」


「本当!?」


「それにもうすぐサトルが様子見に来るぜ。今朝あんたん家行ったらあんたいないし。で、机に病院の診察券置いてあるし。急いで来たらあんたはのんきにグーグー寝てるし!」


「のんきじゃないよ!昨日は本当におなかが痛くて死ぬかと思ったんだよ!それに比べたらパグぞうさんって死んじゃう割に元気だよね」


「何ぃ~!?」


「あっ、となりのおじいさん、もう起きてるかな?」


「となり?となりのケージは空っぽだぜ?」


「え?じゃあもうご主人が迎えに来たのかな?」


「なんのことやら・・・あ、サトルが来たみたいだ」


「えっ!?サトル!?」


ホントだ!サトルの匂いがする!



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