10.パグぞうさんの秘密
コンビニを出てから、あたしはパグぞうさんに不平を言った。
「もうちょっといたかったのに・・・」
「オイラ達はコンビニに遊びに来てるんじゃないの!ほら、もうすぐ詳子が出てくる時間だ。さっきの所で待機するぞ」
そして、詳子が出てくる時間になった。でも、いくら待っても出てこない。
「ねえ、遅くない?」
「・・・確かに。もしや・・・おいっ!急いで公園へ行くぞ!」
「えっ!?公園!?」
あたし達はその場を離れて公園へ向かった。
!! クンクンクン・・・
「ねえパグぞうさん!どこかからまた甘くていい匂いがする!」
「知ったことか!さあ早く!」
そしてあたし達は大通りから少し離れた公園へ着いた。でも、人っ子一人いないし、犬っ子一匹もいない。
「ねえ、誰もいないよ?」
「そうだな・・・」
パグぞうさんは困った顔をしてふわふわ浮いている。
「どういうことだ?・・・オイラ、ちょっとこのあたりを見てくる!あんたは絶対にこの公園から出るなよ!」
パグぞうさんはそう言って公園から出て行ってしまった。
一人ぼっちになったあたしは、おとなしくパグぞうさんの帰りを待っていた。でも、いくら待っても帰ってこない。
「遅いなあ・・・どこに行っちゃったんだろ?」
ちょっとだけ公園から出て探してみようかな?でも、パグぞうさんが出ちゃダメって言ってたし・・・。でも、さっきの甘くて美味しそうな匂いも気になるし・・・あれは何の匂いだろう?何のおやつの匂いだろう?
気がつけば、あたしは公園から出て大通りへ歩き出していた。
あたしは、さっき嗅いだあの甘い匂いを探して歩いた。
クンクン・・・クンクン・・・どこだろう?・・・あっ!あそこだ!
お店の前にたくさんの人が並んでいる。そして、女の人が立ってこう言っていた。
「本日開店のクッキー・スイートホームです!こちらで試食もできますよ、ぜひお立ち寄り下さい!」
女の人が持っているバスケットからいい匂いがする!あたしは知らないうちに女の人に近づいていた。
「いらっしゃいませ。ご試食されていかれませんか?」
女の人がニッコリ笑ってあたしに差し出したのは・・・あたしの大好きなクッキー!!
「えっ!?食べていいの?」
「ええもちろん。ぜひ食べてみてください」
「うわあ、やったー!ありがとう!」
あたしはもらったクッキーを握りしめ、一目散に公園へ帰った。
公園のベンチに座って、クッキーの袋を開けると・・・いい匂―い♪
これって絶対、犬用クッキーだよね!!だって見た目も、いつも家でおやつにもらってるクッキーとそっくりだもん!!
いっただっきまーす♪
パクッ!・・・美味しーい!!
いつものクッキーよりずっと美味しい!!もっと食べたい!!
クッキーは一枚しかなかったので、すぐに食べ終わってしまった。パグぞうさんはその後も帰ってこなかった。
「遅いなあ・・・。待ちくたびれちゃったよ」
公園には誰もいない。あたし一人。
するといきなり、あたしの足元からモクモクと煙が立ちのぼってきた。
「えっ!?何これ!?」
白い煙はどんどん濃くなり、あたしをすっぽり包むくらい大きくなってきた。あたしはそれを見てピンときた。
まさか、これって・・・!
あたしはベンチの裏の茂みに隠れて、土の上に寝そべった。煙はあたしについてきて、あたしの全身を完全に覆った。
やっぱり・・・。あたし、今から犬に戻るんじゃ!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、煙が消えた頃、あたしは犬の姿に戻ってしまった。
「キューンキューン」(なんでー!?パグぞうさん!)
「クイーン・・・」(一体どうしたらいいの・・・)
その時、子供達数人の声が聞こえてきた。
「あれっ!?犬の鳴き声がする!」
まずい!隠れてじっとしてなきゃ!
「空耳じゃない?」
「でも、あのあたりで聞こえたのに」
「いいから早く行こうよ」
ザクザクという足音が遠のいていく。茂みの中からのぞいてみると、子供たちが公園から出て行くのが見えた。
それにしても危ない所だった!人間から犬に戻る様子を誰にも見られなくてよかった・・・。そういえば、前も犬に戻る時、煙が出たもんなあ。あの時のこと、覚えていてよかった。
あたしは茂みの裏で丸くなって、パグぞうさんが飛んで来ないかと空をじっと見つめていた。そして、しばらくした後、パグぞうさんがやっと帰ってきた。でも、飛び方がおかしい。何だかフラフラ、ヨロヨロしている。
あたしは人がいないのを確認してからワンワンと吠えた。パグぞうさんは茂みにいるあたしを見つけ、言った。
「あ~やっぱ戻ってたか・・・悪いっ!急に元の姿に戻ってびっくりしたろ?」
「ホントだよ!何がどうなってるのか全然わかんなかったよ!」
「人間には見られてないよな?元に戻るとこ」
「それはバッチリだよ!誰もいなかったもん」
パグぞうさんは地面に着地するなり、大きなため息をついた。
「今日の作戦は中止だ。引き揚げるぞ」
「えっ!?なんで!?」
「詳子は今、自分の会社に戻ってる。何かトラブルがあったらしい」
「トラ・・・?」
「だから、オイラ達がここにいても意味がない。だけどオイラの魔力がだいぶ減っちまったから、回復するまでしばらくここで休むわ」
「まりょく?」
パグぞうさんは何も答えず、あたしに背を向けて地面の上に寝転がった。だいぶ疲れているみたいだ。
サトルにもこんな時がある。夜遅くに家に帰ってきて、フラフラとソファーに寝転がって、あたしに背を向けて、何も言わなくて・・・。
しばらくしてから、パグぞうさんがこっちに向き直って言った。
「あんたに・・・話しておきたいことがある」
「話って、何?」
パグぞうさんはゆっくりと起き上がり、あたしと向かい合って座った。
「あんたが急に犬に戻ったのは、オイラの魔力が減ったせいだ」
「そっか、おなかが減ったんだね!何か食べたら治るの?あたしも人間に戻れる?」
「そういう意味じゃないんだが・・・まあいいか。それよりもっと大事なことがある。実は・・・オイラは、もうすぐ死ぬ」
「死ぬ!?」
あたしはいきなりそんなことを言われてボーゼンとなった。でも・・・
「アハハハハ!」
「!?なんで笑ってんだよ!」
「だって、パグぞうさんが死んじゃうなんてありえないよ!今日だって朝から元気だったじゃん。今は疲れてるみたいだけど」
「今すぐ死ぬわけじゃない。もうすぐだ」
「もうすぐって、いつ?」
「さあな・・・来週か、さ来週か、来月か・・・」
「だんだんのびてるけど?」
「ともかく!オイラが言いたいのは、一刻も早くこの作戦をあんたにがんばって成功させてもらいたいってことさ。だからオイラも新しい作戦を練り直す。このまま魔力が減り続けると今日みたいにあんたが人間から犬に戻る回数が増えたり、人間に変身させられなくなっちまう。そしてオイラの魔力が底をついてゼロになった時、オイラは死ぬ」
「いっぱい食べたら治るんじゃないの?あとぐっすり寝たら」
「悪魔は食べ物を食べられないんだ。それに魔力っていうのは寝てもほんの少ししか回復しない。まあ、さっき寝たからあんたを人間に戻して家に帰る分の魔力は戻ったけど」
「じゃあ、どうやったらちゃんと治るの?」
「それは・・・今はできない」




