9.追跡開始
電車の中には人がいっぱいいた。電車が動き出して、ガタン、ゴトンと揺れた。
「うわっ!」
座っててもびっくりする。
外の景色を見ると、すごい速さでビュンビュンといろんなものが消えて行ってちゃんと見えない。ずっと見てるとなんだか気持ち悪くなってきた。前にサトルと車に乗った時は、こうじゃなかったのに。
「パグぞうさん・・・気持ち悪い」
「何っ!?もしかして電車に酔ったか?目、閉じてな。もうすぐ着くから」
あたしはギュッと目を閉じた。そして・・・
「おいっ!起きろ!着いたぞ!」
ん?あれ?
気がつくと、電車の中は誰もいなくなっていた。
「早く早く!」
あたしは、パグぞうさんに急かされて電車を降りた。
「さあ、もうすぐサトルの会社に着くぞ」
それを聞いたら、さっきまでの気持ち悪いのが吹っ飛んだ。
駅を出て、あたしはまた歩き出した。(パグぞうさんはあたしの肩の上あたりを飛んでいる)
道の両端には、あたしとサトルが住むマンションみたいな、背の高い建物がずらっと並んでいた。
「さあついたぞ。ここがサトルの会社だ」
パグぞうさんが指さした建物は、ひときわ高く見えた。
「すごーい!ここにサトルがいるんだね!」
それなのに、パグぞうさんはあたしをその建物の入り口から離れた建物の陰へ連れて行った。
「あれ?何で中に入らないの?」
「はじめはそのつもりだったさ。サトルの会社に潜り込んで詳子に接触するって計画だったんだが、犬の知能じゃ難しそうだったから止めにした」
「何よそれ!あたしがバカだっていうの!?」
「しっ!静かに!もうすぐ詳子が出てくるはずだからここで見張ってな!」
「えっ?何でわかるの?」
「この数日間、ずっと詳子の動きをチェックしてたんだが、いつも9時半ごろに会社から出て取引先まで行くんだ。だから詳子が出てきた所を尾行するって計画さ」
パグぞうさんは、サトルが持ってるような腕時計を首にぶらさげて時間を見ながら言った。
「ふうん・・・。ところでパグぞうさんも時計持ってるんだ。サトルと一緒だね」
「ん?ああ、まあな」
パグぞうさんは、なんだかごまかしたように返事をした。
「おっ!詳子が出てきた!」
「えっ!?どこ?」
パグぞうさんが指さした先に、詳子が歩いて行くのが見えた。
「さあ、後をつけるぞ!」
そうしてあたし達は詳子の後をつけて行った。
詳子の少し後ろを歩きながら、パグぞうさんが言った。
「このあと詳子は電車に乗って、A駅で降りて近くのA社の中に入る。その後しばらく出てこないからオイラ達は近くで出てくるのを待つ。いいか?」
そして、詳子はパグぞうさんが言った通りに電車に乗った。あたし達もまた電車に乗って、詳子と一緒にA駅で降りた。慣れたのか、今度は気持ち悪くならなかった。
駅を出た詳子は大通りをしばらく歩き、通り沿いの建物の中に入っていった。あたし達はまた建物の陰に隠れた。
「よし、ここで詳子が出てくるのを待つぞ」
「ねえ、どれくらいで出てくるの?」
「1時間くらいかな」
「それって長いの?短いの?」
「ん~、ちょっと長いかな」
「ねえ、待つの退屈だから、そこらへんお散歩したいな」
「ダメだダメだ!あんたのことだからすぐ迷子になるだろ!それよりも、これから先の計画を説明するから。まず、1時間後に詳子が出てくる。そのあと詳子は近くのコンビニに買い物に行く。その後その近くの公園で昼飯を食べる。オイラ達は公園に先回りして詳子を待つ」
「ふーん・・・」
「で、公園に来た詳子にあんたが声をかける」
「えっ!?話しかけるの!?」
「そう。で、この写真を見せる」
見せてくれた写真には黒い犬と幼い女の子が映っていた。
「これって、パグぞうさん?」
「そう。オイラと小さい頃の詳子。で、見せた後はオイラの完璧な台本通りにしゃべる」
そう言って、パグぞうさんはどこからか紙の束を取り出した。
パグぞうさんが言った。
「今から一人二役で実演してみせるから、しっかり聞いてな」
そしてパグぞうさんはあたしとショウコの声真似をして実演した。両方とも全然似てないと思うけど。
〜実演開始〜
『こんにちは、小宮詳子さんですよね。いきなり話しかけてごめんなさい。実は、あなたに見てほしいものがあるんです』
『見てほしいもの?』
パグぞうさんは写真を取り出した。
『こんなこと言うとびっくりされると思うんですけど・・・実は私、霊感があるんです』
『霊感?』
『ええ、この前このワンちゃんの幽霊が現れて、頼み事をされたんです』
『頼み事って?』
『このワンちゃんは20年くらい前にチョコレートを食べて死んでしまって、それを飼い主のあなたがずっとあなた自身のせいだと思っているのが辛くて仕方がないと言っていました。それで、伝言を頼まれたんです』
『伝言?』
『オイラが死んだのは詳子のせいじゃない。オイラが勝手にチョコレートを食べたせいだ。自分のことを責めないでほしい』
『そうですか。わかりました、ありがとう』
〜実演終了〜
パグぞうさんの自作自演が終わるや否や、あたしは抗議した。
「こんなの絶対ムリ!絶対覚えられない!」
「大丈夫だって!オイラがちゃんと横からセリフを言うから」
「でも、こんなにうまくいくかなあ?」
「・・・。それは、やってみないと、わからないだろ?」
パグぞうさんはなぜか目をそらして言った。
「そりゃそうだけど・・・」
あたしはいきなりの大役にビビってしまった。それを見たパグぞうさんが言った。
「・・・まだ時間があるから、このあたりをちょっとブラブラするか?オイラがついててやるからさ」
「えっ本当!?」
あたしはちょっとだけテンションが上がった。
「じゃあ、さっき言ってたコンビニに行きたい!」
コンビニって、サトルが言ってるのを何回か聞いたことがある。きっと楽しい所に違いない。
「コンビニ?まあ、いいけど。でも何も買わないぜ?」
パグぞうさんは渋々OKした。そうして、あたし達はコンビニに向かって歩き出した。
ピンポーン♪
ビクッ!なっ、何の音?
あたしは周りをキョロキョロ見回った。
「ハハッ、大丈夫。お客が入ってくるとチャイムが鳴るのさ」
パグぞうさんがヒソヒソと言った。
初めて入るコンビニ。それにしても・・・いいにおーい♪
クンクン!クンクン!この美味しそうな匂いは何だろう?
「おいおいっ!クンクンするな!怪しまれるぞ!」
パグぞうさんが言った。
「だって、すっごくいい匂いなんだもん!」
あたしは匂いの元を発見した。
「あっ!あれだ!おでんにからあげ、コロッケに焼き鳥。肉まんもあるじゃん!」
「おいっ!言っとくが絶対買わねえぞ!食べられないんだから」
「う~~~」
あたしはすごすごと、美味しそうな食べ物の前を横切った。
「あれっ!?あそこにも美味しそうなものがある!」
「弁当もうどんもパンもダメ!さっさと行くぞ」
「う~~~」
「あっ!ケーキがある!」
「ケーキもダメ!犬用じゃないんだから」
「ダメダメってうるさいなあ」
「何ぃ~!?」
「あれっ!?ここ、なんか寒い!」
「冷凍食品とアイスがあるからな。さ、もう出るぞ」
あたし達はあっという間にお店を一周して出た。




