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【完結】悪女と呼ばれた令嬢、望まぬ婚約寸前で剣聖皇子に奪い去られる【10月下旬に三章更新予定】  作者: しのギドラ
2章

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9話 皇族達への相談、最高機密の白龍

 神龍城の最奥、そこは数千の英知が眠る皇帝の私設書斎だった。

 そこは、外部の喧騒が一切遮断された聖域だ。

 執務机を挟んで、皇帝アルドリック陛下が静かに黄金の双眸を上げた。


「オーウェンからの伝書で、概ねの事情は把握している。……久しいな、ルーク。十年ぶりか」


「父上も息災で何より。相変わらず、その椅子に座っているだけで部屋の空気が重くて敵わないよ」


 ジーク――皇子ルークの、あまりに不敬な口調に、隣に立つ私の心臓は止まりそうになる。

 私はドレスの裾を掴み、完璧な優雅さで膝を折った。


「お、恐れながら、ご挨拶申し上げます! 私はアストルシア王国、ベルシュタイン公爵家が長女、エルレインと申します。この度は、遠路より不躾な入国をお許しいただき、心より感謝申し上げます!」


 震える声を抑え、一国の公爵令嬢としての矜持を持って頭を垂れる。


 アルドリック陛下の視線が私に注がれた。


 それは、魂の奥底までをも見透かすような、鋭利な黄金の光だった。


「エルレイン公爵令嬢。遠路はるばる我が国へよくぞ参った。龍帝国皇帝の名において、そなたの来訪を歓迎しよう。堅苦しい挨拶は良い、面を上げよ。我が放蕩息子が世話になったようだな」


「もったいないお言葉にございます、陛下……」


 皇帝の言葉には、抗いようのない力があった。

 歓迎と言いつつも、その覇気は私の魔力を容易く押し潰す。


 その時、防音魔法が施された厚い扉が開き、青い髪をたなびかせた男が足早に入ってきた。


「……父上、第一皇子オーウェン、ただいま戻りました」


「お、兄上。早いな。もう少しゆっくり戻ってきても良かったのに」


 ジークが軽薄に手を振ると、オーウェン殿下は深いため息を一つ吐いた。

 そして、部屋の防音魔法が完全であることを確認するや否や、仮面のような完璧な表情を崩して怒声を上げた。


「……この馬鹿者! お前という奴は、事の重大性が分かっているのか! 国境を越える際にも、どれほど私が神経を磨り潰したと思っている!」


「まあまあ、そう怒らいないでよ。おかげで無事に入城できたんだからさ」


 オーウェン殿下の怒声を涼しい顔で受け流すジーク。

 アルドリック陛下が諌めるように手を挙げ、騒ぎを鎮めた。


「オーウェン、もうよい。……ルーク。白龍と契約したというのは、真か」


 その一言で、部屋の空気が凍りついたように固まった。


「白龍は歴史において幻と称される、伝説上の存在。かつて初代皇帝が使役したとされるその龍の佇まいは、今や謎に包まれている。契約が真実なら国家を揺るがす大事となる。正直に答えよ」


「あー……まあ、そういうことになるね」


「……白龍は我が帝国民すべてが信仰し、畏怖する唯一無二の存在。もしその事実を公表すれば、そなたは十年の放蕩など関係なく、直ちに皇帝の座へ就くことすら可能な力を得たのだぞ。この重大性が分かっているのか?」


 皇帝の言葉は重い。

 それは祝福ではなく、呪いのような宣告だった。


「興味ないな。俺はエルと結婚できれば、それでいいんだ。だいたい、十年も出奔していた皇子が突然戻って、いくら白龍の契約者だから皇帝になるなんてさ……そんなの国が乱れるだけだろ?」


「……多少の混乱では済むまいな。しかし、白龍の威光はその混乱すらも平伏させるだろう。……ルーク、そなた、真に契約しているのだな?」


「ん? ……証拠に白龍呼べってこと?」


「ば、馬鹿者!! 控えろ!!」


 オーウェン殿下が血相を変えて割って入る。


「みだりに契約龍の姿を晒すことは禁じられている! ましてや白龍など……!」


「……少し、見たいものだな」


「父上!?」


 皇帝の意外な好奇心に、オーウェン殿下が絶句する。

 アルドリック陛下は咳払いを一つして、居住まいを正した。


「ごほん……。ルーク、この十年、我々はお前を血眼で探していた。しかし、そなたが『剣聖』として大陸中に名を轟かせたにも関わらず、我が国ですらそなたの居所を感知できなかった。……それも、白龍の力か?」


「まあ、な。あ、でも剣聖になる過程では白龍の力は一切使ってないから。……そこは安心して、エル」


「ジーク……問題はそこではないと思うわ……」


 私は困惑しながらも、ジークの横顔を見つめた。


「ルーク、その様子だとそなたは……白龍の存在を、このまま秘匿したいのだな?」


 アルドリック陛下の問いに、ジークは迷いなく頷いた。


「間違いなく、そうだね。しがらみは真っ平ごめんだし、エルとの平穏な生活を邪魔されたくない」


「……よかろう。白龍の件は、この場にいる者だけの最優先機密とする」


「ち、父上……! そのようなことが可能なのですか?」


 オーウェン殿下の懸念に対し、アルドリック陛下は不敵に目を細めた。


「……ルーク、そなたの意に染まぬことを強いて、またどこぞへ逃げ飛ばれては目も当てられぬ。それならば、私の目が届く範囲で大人しくさせておく方が上策だ」


「さすが父上。話がわかるじゃん」


「ジーク! いくら父君とはいえ……皇帝陛下にその態度はあまりに不敬よ……!」


 私が慌ててたしなめるが、アルドリック陛下は愉快そうに笑った。


「構わぬ。……エルレイン公爵令嬢。そなたのアストルシアにおける立場、およびベルシュタイン公爵家の安全については、我が国の庇護下に置くよう外交の場で善処しよう。しばらくは、我が国に滞在していただけるか?」


 私は深々と頭を下げた。


「は、はい。身に余る光栄に存じます。陛下の慈悲深きご配慮、ありがたき幸せにございます」


「ルーク……いや、今はジークと呼ぶべきか。今後の処遇については追って沙汰を下す。今は、その大切に連れてきた姫を労うが良い」


「もちろん、言われなくてもそうするよ」


「……ひとつだけ伝えておこう。血の近しい者――すなわちお前の兄弟たちには、契約龍の気配は隠せまい。白龍であることは伏せるが、お前が契約龍とともに帰還したことは兄弟たちに知らせる。良いな?」


「それくらいなら、いいよ。……それじゃ、そろそろ行っていい? エルが長旅で疲れてるんだ」


「……ルーク。いや、ジーク」


 ジークの足を止めるように、オーウェン殿下が声をかける。


「お前達は一時的に隣国からの賓客として扱う。アストルシア王国で箝口令は敷いたが、ジークとルークが同一人物ということは、いずれ広まるだろう。……だが、短期間なら情報統制で存在を誤魔化せるはずだ」


「……ありがとな、兄上。色々迷惑かけたことは謝るよ」


「全くだ……。相応しい離宮も用意させてあるから、しばらくはそこに滞在しろ。だがな……」


 オーウェン殿下が再び、指を差して警告する。


「くれぐれも、城外には出るな! 白龍の力を使うな! 悪目立ちするな! 過度な不祥事を起こすな! それから……」


「行こうか、エル。兄上の小言は、一度始まると三日は終わらないからね」


「待て! ルーク! まだ話は終わっていない!」


 オーウェン殿下の絶叫を背に、ジークは私の腰を抱き寄せ、軽やかな足取りで書斎を後にした。


 秘密を共有した龍たちの夜。

 私は、ジークの腕の温もりを感じながら、これから始まるであろう波乱の日々に、密かな覚悟を決めるのだった。

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※カクヨムにも掲載
【代表作】→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
◆累計ページビュー63,000pv超え感謝◆

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あらすじ→「全員生き残るか、一人残らず死ぬか」その二択しかない極限の乙女ゲーム。
前世の記憶を取り戻したルナリアは、自分が"全滅エンド"を招く悪役令嬢だと知る。
導き出した答えは、誰とも関わらず、孤独に生きること。
そう誓った矢先に出会ってしまったのは、攻略対象——公爵令息のグレン。
父の虐待を見抜き、どんなに突き放しても離れない彼に、距離を取ろうとするほど執着されていく。
やがて暴かれる、最初から大切な人を"殺す力"を宿していたという残酷な真実。
それでも彼は、皆の前で誓った。
「生涯をかけて君を幸せにする」と。
虐げられた令嬢×公爵令息。
作品ページはこちら→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
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