28話 第二皇子への処分、父としての顔
「さて。次はジーク……いや、第二皇子ルーク」
矛先が自分に向いたことを察し、ジークは露骨に嫌そうな顔をして、私の方に視線を向ける。
「……父上、怒ってるよな」
「それは分からないけれど……とにかく、ちゃんと聞きましょう」
皇帝の眼光は、先ほどよりも厳しさを増している。
「十年の放浪の果て、勝手に帰還して、白龍を行使し、龍帝国の平穏をおびやかした罪は重い。……これほどの不祥事、タダで済むと思うな」
「わかってる。何でも言うこと聞くから、手短に頼むよ、父上」
「そなたには、今後正式に第二皇子として公務にあたることを命ずる。もはや剣聖だの、護衛騎士だのという雲隠れは一切許さん。皇族の一員として、オーウェンを支え、龍帝国に尽力せよ」
「…………はぁ、やっぱりそうなるよね。嫌だなぁ……。毎日机に座って書類仕事とか? 俺にできると思う?」
「ジーク……不謹慎よ」
私が小声で宥めるが、ジークは考え込むように天井を仰いだ。
だが、その瞳に宿る光は、単なる逃避ではなく、覚悟した人の輝きだった。
「まあ、いいさ。十年も勝手して、兄上にも父上にも、エルにも迷惑かけっぱなしだったしね。ここらで年貢の納め時ってやつかな。……ただ、条件がひとつだけある」
「ほう。この状況で皇帝に条件を出すか。申してみよ」
ジークは私の隣まで歩み寄ると、私の手を誰にも恥じることなく、力強く握りしめた。
「エルとの結婚を許してほしい」
私は、弾かれたようにジークの顔を見る。
彼の顔に浮かんでいたのは、皇帝の威光にすら退く気のない、決意の込められた真剣な表情だ。
「彼女は、白龍の虚無に呑まれかけた俺を、ただ一人で引き戻してくれた女性だ。彼女がいないと、俺はまたどこかで壊れてしまうかもしれない。……エルと結婚させてくれるなら、公務も、皇子としての義務も、できる限り対応するよ」
皇帝の視線が、見定めるように私に注がれる。
私は顔を赤くしながらも、逃げることなくその威圧感を受け止めた。
皇帝は僅かに口角を上げると、短く息を吐いた。
「……構わぬ。暴走する龍の主を御せる者がそばにいるのは、龍帝国にとっても好都合だ」
「交渉成立だね。……あ、あと、これだけは言っておくけど。王命でも……たとえ父上直々のお願いであっても、俺は白龍の力は使わないからな」
「問題ない。むしろその力を気軽に行使される方が、こちらとしては問題がある。……だが、持てる力とは、いずれ向き合う日が来るだろう。その時は、逃げずに白龍と対話するといい」
「まあな……。本当に必要だと思ったら、白龍に頼ることも考えとくよ」
皇帝がゆっくりと立ち上がる。
机の前に歩み出て、静かに言葉を発する。
「二人とも、近くに寄れ」
うながされるまま、困惑気味に歩み寄る兄弟。
すると、皇帝は大きく両腕を広げ、オーウェン殿下とジークの二人を力一杯抱きしめた。
「っ……!? ちょっと父上……! エルの前で、これは流石に恥ずかしすぎるんだけど!」
ジークが顔を真っ赤にしてわめくが、皇帝は放さない。
「……よくぞ、無事に戻った。息子たちを失う悪夢を見ずに済んだ……。感謝する、神龍よ」
「……大変な、ご心配をおかけしました……父上」
オーウェン殿下の震える声。
ジークも文句を言いながら、最後には諦めたように父の背中に手を回した。
その光景を、私は微笑みを浮かべて見つめていた。
十年の家出、龍の呪縛、兄弟の確執。
すべてがこの抱擁の中に溶けていく。
龍帝国の夜明けは、まだ始まったばかりだ。
けれど、この家族が再び手を取り合った今、どんな困難が訪れようとも、彼らはもう二度と虚無に呑まれることはないだろう。





