↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪女と呼ばれた令嬢、望まぬ婚約寸前で剣聖皇子に奪い去られる【10月下旬に三章更新予定】  作者: しのギドラ
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/33

22話(ジーク視点)終焉の福音、白龍降臨

 ジークの、魂を削り出すような絶望の叫び。

 それが引き金となり、彼自身の意思とは無関係に、深淵に眠っていた龍がそのまぶたを持ち上げる。


 熱も冷たさも、光も闇も持たない――ただ、万物を見通す存在。


『――我が主。そして、その愛しき番(つがい)よ。嘆く必要はありません。今こそ、私の力を貸しましょう』


 その声は、魂の芯に直接、冷たい氷の楔を打ち込まれるような響きだった。


「白龍……!」


 現実を浸食するように、その姿を白龍は現した。

 神々しくも、どこか生命の温もりを拒絶するような美しさが撒き散らされる。


『まずは、その呪いと傷を消してあげましょう』


 白龍は巨大な頭部を、ジークの腕の中で意識を失うエルレインへとゆっくりと近づけた。

 その巨大な鼻先が、彼女の冷え切った額に触れる。


「……お前、何を……」


 ジークが息を呑んだ瞬間。

 エルレインの背を蝕んでいた漆黒の呪詛が、まるで最初から存在していなかったかのように、跡形もなく掻き消えた。

 傷口からは毒が消え、裂かれた服の下の肌が、白い光に撫でられただけで修復されていく。


「エル……? おい、エル!」


 死に瀕する呪いも、白龍の吐息一つで無かったことに書き換えられた。

 エルレインの頬に微かな朱が戻り、止まりかけていた心臓が、力強い鼓動を再開させた。


『これでもう大丈夫でしょう。……ふふ、主よ。ようやく、私に願ってくれましたね。汝のその美しき情愛を糧に、私はようやくこの世界へと顕現することができました』


 白龍の声には、喜びというよりも、実験の成功を喜ぶような、純粋ゆえに恐ろしい愉悦が混じっていた。


「白龍……お前、……エルを、助けてくれたのか……?」


『我が主のためなら造作もないこと。さて、次の願いを叶えてあげましょう』


「……次の願い? 何のことだ……!」


『愛しき主の心を引き裂く、この卑俗な世界。主を苦しめるこの愚かな理。主が望んだ通り、この世界を、一欠片も残さず消し去ってあげます』


 白龍の力を唯一知るジークだけが、その言葉に背筋が凍りつく。


「な……!? 待て、やめろ、白龍! 俺が言ったのはそんなことじゃない!」


 ジークが叫ぶが、白龍は応えない。

 白龍がゆっくりと鎌首を上げ、音のない咆哮を上げた。

 その瞬間、上空がインクを洗い流すように白く、透明に消え始めた。


「っく……! 兄上、エルを頼んだ!」


 ジークは、眠りに落ちたエルレインを、呆然と立ち尽くすオーウェンの腕の中へと押し込む。

 自身は二人から距離を取るように、ふらつきながら後ずさった。


「ル、ルーク……一体何がおきているんだ!」


「白龍の力……その権能は『消滅』だ! くそ、俺にも止められない……!」


 その時、回廊へ続く扉から赤い影が飛び出す。

 異変を察知したイグニスが、扉を蹴破るようにして飛び込んできたのだ。


「兄さん! な、なんだこれ……!」


「来るな! 白龍の奴、俺の絶望を勝手に解釈して、龍帝国を『消滅』させようとしてるんだ!」


「え……は!?」


 ただならぬ様子を察し、イグニスは迷いなく心臓に手を当てる。

 周囲に強烈な熱波が生じ、空間を揺らした。


「……来い、赤龍!」


「……青龍!」


 ジークとイグニスの叫びに呼応し、神域に新たな二柱の咆哮が重なった。


 灼熱の火炎を纏う赤龍と、大空から舞い降りた冷気を放つ青龍。


 帝国の至宝である二頭の契約龍が、主を守るために実体化する。


 しかし、白龍の眼前に躍り出た瞬間、二頭は激しい戦慄の咆哮を上げた。


『――おや、赤龍、青龍……我が同胞達よ。案ずることはありません。同胞のよしみで、あなた方だけは、消滅させないでおきましょう。主をしっかりと守りなさい。消えゆく世界の末路を見届けるのです』


 白龍の言葉は、慈悲ではなく、完全なる断絶。

 そこには、説得も会話をする余地もなかった。


「赤龍! おい、どうしたらいい!? お前の力で何とかならないか!」


 イグニスが赤龍の背を必死に叩く。

 だが、赤龍は、ただイグニスを自分の翼の下に隠し、消失の波から守るだけで精一杯のようだった。


『主よ……無理を言うな。白龍の力へは、儂も……青龍さえも手出しができん。触れた瞬間に、魂ごと「無」へと還されてしまうのだ……!』


「そんな……じゃあどうすればいいんだ!」


「白龍! お願いだ、やめてくれ! エルは助かったんだ、もういいだろう!」


 ジークが膝を突き、空中で悠然と輝く白龍へ向かって慟哭する。

 だが、白龍に声は届かず消滅は止まらない。


「青龍……本当に、本当に方法はないのか! 私の策が、私の不徳が、この国の終わりを招いたというのか!」


 オーウェンが、腕の中のエルレインを守りながら叫ぶ。

 彼の青い瞳には、自らがもたらした最悪の帰結への、耐え難い後悔が滲んでいた。


『……オーウェンよ。白龍の力は、対象をただ殺すだけではあらず。その気になれば、存在そのもの……人々の記憶、歴史の記録……その全てを「存在しなかったこと」にできる。我ら龍であっても、その理には抗えん』


「白龍、やめろ……頼む、もうやめてくれ……っく!」


 ジークの叫びは、白く塗り潰されていく世界の中で、誰にも届かない虚しい残響となって消えていく。


 残っているのは、白龍が作り出す、音も、色も、熱もない、無慈悲な無の予感だけ。


「…………っ」


 オーウェンの腕の中で、エルレインが微かに身じろぎをした。


 彼女はゆっくりと、そのまぶたを持ち上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※カクヨムにも掲載
【代表作】→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
◆累計ページビュー63,000pv超え感謝◆

35i8ez7w862wgf5vybkbztkh6je_1bz4_d3_bz_21il.jpg

あらすじ→「全員生き残るか、一人残らず死ぬか」その二択しかない極限の乙女ゲーム。
前世の記憶を取り戻したルナリアは、自分が"全滅エンド"を招く悪役令嬢だと知る。
導き出した答えは、誰とも関わらず、孤独に生きること。
そう誓った矢先に出会ってしまったのは、攻略対象——公爵令息のグレン。
父の虐待を見抜き、どんなに突き放しても離れない彼に、距離を取ろうとするほど執着されていく。
やがて暴かれる、最初から大切な人を"殺す力"を宿していたという残酷な真実。
それでも彼は、皆の前で誓った。
「生涯をかけて君を幸せにする」と。
虐げられた令嬢×公爵令息。
作品ページはこちら→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。